概要

多裂筋(multifidus)と回旋筋(rotatores)は、頸椎の最深層に位置する短小筋群。隣接または1~2椎体先の横突起→棘突起へ斜走し、**微細な回旋・伸展・分節安定化(セグメンタルスタビリティ)**を担います。
トリガーポイント(TP)が形成されると、椎骨そのものが痛むように感じる深部痛や、肩上部〜肩甲骨内側縁に広がる関連痛を生じ、椎間板痛・小関節障害と誤認されがちです。
解剖と機能(要点)
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層:固有背筋・最深層(頸椎C2–T1に豊富)
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走行:横突起→上位の棘突起(多裂は2–4椎、回旋筋は1–2椎を跨ぐ)
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作用:
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両側=頸部微小伸展・姿勢保持
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片側=対側回旋の微調整、分節ごとの制動
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役割:頭頸の微細制御と関節受容器による位置覚の提供。長時間の前方頭位や反復回旋で易疲労。
症状・関連痛パターン
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局所深部痛:背骨の芯が痛いように感じる、押すと鋭い点状痛。
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放散:肩上部~肩甲骨内側縁まで鈍い広がり。
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特徴:同一姿勢後の初動痛、小さな振り向きや咳・くしゃみで増悪。
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誤認されやすい病態:椎間板圧迫、椎間関節のサブラクセーション(亜脱臼)など。
→ 分節筋のTPが椎体を片側へ牽引し、アラインが乱れている印象を与えることがある(TP沈静で改善することも)。
よくある誘因
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前方頭位・画面の偏位(片側モニター、車載ナビの偏在)
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反復の小回旋(電話・対話での振り向き癖)
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不適切な枕(高すぎ/低すぎで分節過伸展・過屈曲)
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寒冷・寝冷え、外傷後の防御性短縮
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胸椎可動性低下に伴う頸部代償
鑑別のヒント
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多裂・回旋筋:点状の深部圧痛+数椎にわたる索状硬結、小回旋で再現痛。
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後頭下筋群:眼窩奥や前頭部への関連痛、最大回旋終末で鋭痛。
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頭半棘筋:耳上半環状~後頭の痛み、枕圧過敏。
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椎間板性:咳・いきみで放散痛が強く、神経症状を伴いやすい(要鑑別)。
触診のコツ(深層・安全)
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体位:伏臥位または座位。軽い頸前屈で表層緊張を下げる。
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ランドマーク:椎間の溝(棘突起の外側溝)を縦走。1椎ずつ指腹でゆっくり圧走し、点状の鋭痛+遠隔の鈍痛を確認。
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深追い強圧はNG:神経・関節包を刺激しやすいので痛気持ち良い圧に留める。
介入(セルフ&臨床)
1) やさしいポイント圧(30–45秒)
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索状硬結上で持続圧→ゆっくり解除。
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手が届かない場合はテニス/ラクロスボールを壁や床で当て、微小な前後移動。過敏なら柔らかめを使用。
2) 分節モビライゼーション(専門家向け)
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痛みのない範囲で中央化(ニュートラル)を意識した軽いポジショナルリリース。
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胸椎回旋・伸展の改善を先に行うと頸の負担が下がる。
3) ストレッチ(反動なし・小可動域)
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反対側回旋+ごく軽い側屈を終末域手前で10–15秒×3–5回。
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めまい・吐き気・視覚異常が出たら即中止。
4) 姿勢・環境調整
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画面は正面・目線高〜やや下、前腕支持を確保。
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30–60分ごとにマイクロブレイク(顎引き、肩下制、胸椎伸展)。
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枕は頭~背中が自然に一直線になる高さで、圧で痛みが出ない硬さに。
5) 再発予防エクササイズ
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深頸屈筋の等尺:顎引きで枕に5秒×5–8。
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胸椎伸展・回旋:椅子背もたれで胸椎伸展、四つ這いスレッドニードル等。
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肩甲帯安定化:下部僧帽筋・前鋸筋の協調(壁スライド、Y/T/W)。
安全上の注意
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強圧・長時間の押圧は遅発痛・防御反射を招く。
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神経症状(広範なしびれ・筋力低下)・外傷直後・夜間増悪は医療機関で評価を。
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椎骨動脈系に過敏が疑われる場合は小可動域・低負荷・呼吸同期を徹底。
よくある質問(Q&A)
Q1. 背骨そのものが痛い感じ。多裂/回旋筋の可能性は?
A. 深部の点状圧痛+小回旋で再現し、肩甲骨内側へ鈍痛が広がるなら関与が疑われます。まずは分節触診と姿勢評価を。
Q2. どうすると悪化する?
A. 前方頭位の長時間維持、片側モニター、高すぎる枕、寒冷。胸椎可動性低下も頸へ代償を強います。
Q3. 自分でできるケアは?
A. 軽い持続圧→小回旋ストレッチ→姿勢/枕調整。1セット2〜3分、やり過ぎないのがコツ。
Q4. 画像検査は必要?
A. 神経症状や外傷歴がなければ、まずは**機能評価(姿勢・分節痛・動作再現)**が実用的。異常があれば受診を。
まとめ
頸部の多裂筋・回旋筋は分節安定化の要。TPが活性化すると背骨の芯が痛むような深部痛と肩甲帯への関連痛を生じます。
優しいポイント圧→胸椎からの連鎖改善→小可動域ストレッチ→姿勢・枕最適化→深頸屈筋/肩甲帯の協調という流れで、再発を抑えましょう。