骨盤骨折のリハビリ治療について、わかりやすく解説していきます。
この記事の目次はコチラ
骨盤骨折の概要
骨盤骨折の多くは、交通事故(60〜70%)や転落(20%)といった高エネルギー外傷によって発生します。
そのため、血管損傷や腹腔臓器(腎臓を含む)の損傷が合併しており、そちらのほうが臨床上問題となる場合が多いです。
本骨折における死亡原因の約50%は出血であり、骨盤前方を走行する総腸骨動脈や外腸骨動脈の損傷が命に大きく関わります。
骨盤骨折の症状としては、激痛があることで身体を動かすことができない、椅子に座ることができないなどの訴えがみられます。
骨盤の構造
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骨盤は寛骨と仙骨尾骨から構成されており、寛骨はさらに①恥骨、②坐骨、③腸骨の三つに分類できます。
骨盤内では仙骨と腸骨で仙腸関節を、骨盤外では第5腰椎と仙骨で腰仙関節、寛骨と大腿骨で股関節を構成しています。
寛骨は18歳頃までは腸骨・恥骨・坐骨が軟骨結合でつながった状態ですが、成人する頃には骨結合でひとつの骨になります。
寛骨は左右にひとつずつ存在することになりますが、前方は恥骨結合、後方は仙骨を介した仙腸関節で連結します。
この二つの結合部はどちらも線維軟骨を介しており、大きな外力などを受けることで炎症が発生する場合もあります。
骨盤骨折の種類について
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骨盤骨折は、寛骨臼骨折と骨盤輪骨折に大別されます。
寛骨臼骨折は股関節の関節内骨折を指し、骨盤輪骨折は寛骨臼骨折を除いた骨盤骨折のことをいいます。
骨盤の形状は複雑なため、CTにより精密な検査をすることで骨折の状態を把握し、治療方針を決定していくことが必要です。
また、血管損傷や膀胱損傷などの合併損傷を調べるためには、造影CTが有効とされています。
寛骨臼骨折 | 骨盤輪骨折 |
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骨盤骨折の重症度分類には、Conollyの分類が用いられます。
1.軽症の骨折(全体の2/3)
恥骨・坐骨骨折 | 腸骨翼骨折 | |
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2.重症の骨折(全体の1/3)
寛骨臼骨折 | straddle骨折 | 恥骨結合離開 |
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Malgajin骨折 | 仙骨・尾骨骨折 | |
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引用画像(1)
3.各骨折の特徴について
種類 | 特徴 |
恥骨・坐骨骨折 | 前後方向からの圧迫が加わって起こる |
骨盤骨折の中で最も多い | |
腸骨翼骨折 | 腸骨翼に加わった直達外力で発生 |
中殿筋が付着しているため荷重にて激痛を訴える | |
寛骨臼骨折 | 臼蓋まで骨折線が及んでいる骨折 |
観血的整復術を考慮する | |
straddle骨折 | 両側の恥骨上枝と下枝が縦方向に骨折 |
骨盤骨折全体の10% | |
恥骨結合離開 | 出産が原因で離開する場合が多い |
外力による骨盤骨折としては稀である | |
Malgajin骨折 | 一側の下肢に垂直の力が加わって起こる |
骨盤輪の固定性が失われてグラつく | |
骨盤骨折全体の10% | |
仙骨尾骨骨折 | 尻もちをついた際に起こる |
膀胱直腸障害の有無を確認する |
手術について
寛骨臼骨折は関節内骨折であるため、正しい位置に整復することが大切です。
この整復が不十分な場合、骨折が治癒しても変形性股関節症に移行してしまう可能性が非常に高くなります。
基本は観血的に整復を行いますが、寛骨臼骨折の手術は非常に難しく、大量出血等のリスクがあるため、手術を行うかどうかは慎重に判断されます。
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骨盤輪骨折では、骨盤を形成する骨が海綿骨であることから、保存的治療でも骨癒合はスムーズに進み、偽関節になることもまずありません。
骨折の不安定性が強い場合にのみ手術は適応され、スクリューやプレート等を用いて内固定を行います。
保存的に治療する場合に比べ、早期に車椅子や歩行練習が可能となります。
寛骨臼骨折の手術 | 骨盤輪骨折の手術 |
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引用画像(1)
保存的治療の場合は、持続牽引にて整復位を保持しつつ、長期臥床によって骨折部の治癒を待つことになります。
そのため、長期安静による廃用症候群が起こりやすく、二次的な機能障害を呈するリスクが高くなります。
観血的治療でも免荷期間が長くなるため、廃用症候群が起こりやすく、機能低下予防の筋力強化や関節可動域運動は必要不可欠です。
安静臥床の方法
straddle骨折やMalgaigne骨折の場合、ただ仰向けで臥床しているだけでは、骨盤輪は開く方向に力が加わってしまいます。
そのため、骨盤をハンモックのようにキャンバスで挙上して、骨折部に圧が加わるようにしてから安静を保たせて骨癒合を待ちます。
腰方形筋や股関節内転筋群の張力で骨折部が上下方向にずれている場合は、下肢を牽引することによって高さを調節します。
筋力トレーニング
安静期には患部外の筋力トレーニングを実施することにより、血流を改善させて骨折部の治癒促進を図ります。
骨盤周囲のトレーニングは骨折部を離開させてしまうリスクもあるため、実施する場合は筋肉の付着部と収縮方向、骨折線の方向を考慮する必要があります。
骨盤に起始停止を持つ筋肉については、「骨盤の場所と付着する筋肉について」という記事にて詳しく述べています。
骨折部位と付着している筋肉を確認したら、次は筋収縮によって骨がどのように動くのかを確認していきます。
離開させる方向に働く場合は筋活動は抑制させ、圧縮方向に働く場合は収縮を促していくようにします。
関節可動域運動
下記の表は、長期臥床によって可動域制限が起こりやすい部位と制限方向、それに関わる短縮筋を起こりやすい順位でまとめた表になります。
順位 | 部位 | 制限方向 | 短縮筋 |
1 | 体幹 | 側屈,後屈,回旋,前屈 | 脊柱起立筋群 |
2 | 頚部 | 側屈,後屈,前屈,回旋 | 胸鎖乳突筋,斜角筋群 |
3 | 股関節 | 内旋,外転,伸展 | 梨状筋,内転筋群,腸腰筋 |
4 | 足関節 | 背屈 | 下腿三頭筋 |
5 | 手関節 | 掌屈 | 手関節背屈筋 |
6 | 肩関節 | 外転,屈曲,外旋 | 大胸筋,大円筋,小円筋 |
7 | 肘関節 | 伸展 | 上腕二頭筋 |
8 | 膝関節 | 伸展 | ハムストリング |
骨盤骨折では長期の安静臥床が必要となりますので、これらの制限しやすい関節や方向にはとくに注意して動かしておくことが大切です。
前述したように、骨折部周囲は筋張力によって離開させてしまうリスクもあるため、事前に筋肉の状態を確認しながら慎重に行っていきます。
緊張が高い筋肉には軽い圧迫を加えることで緊張を緩めることもできますので、拘縮や癒合に悪影響を与える場合は随時リリースしていきます。
横隔膜呼吸練習
患者に一方の手を胸部に、もう一方を腹部に置いてもらい、セラピストの手は患者の手の上に置きます。
その状態から腹部を膨らませるように意識しながら鼻で息を吸い込んでもらいます。
次に吸ったときの2倍の時間で口から吐いてもらいます。患者には自身の手で動きを確認してもらい、習得するまで期間をかけて行います。
横隔膜呼吸の習得は自律神経を安定させ、疼痛コントロールや全身の血行改善に効果を発揮します。
免荷歩行の方法
免荷の期間は安定型か不安定型か、保存療法か手術療法かによって異なります。
不安定型の保存療法では、荷重開始までに8-12週間ほどかかります。
荷重練習では平行棒内にて体重計を使用し、荷重量を確認しながら骨盤のアライメント調整を行い、部分荷重下での骨盤と下肢の静的安定性を獲得していきます。
また、並行しながら歩行補助具(松葉杖など)の指導を実施し、生活範囲の拡大を目指していきます。
以下に、代表的な歩行補助具と免荷の割合について記載します。(歩行器はつま先のみを接地した場合)
方法 | 免荷 |
歩行器 | 80% |
松葉杖 | 67% |
ロフストランド杖 | 33% |
Q杖(四点杖) | 30% |
T杖(一本杖) | 25% |
引用画像/参考資料
- 日本整形外科学会HP