むち打ち症(whiplashinjury of the neck)の診断とリハビリ方法について、わかりやすく解説していきます。
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むち打ち症の概要
首が鞭を打つようにしなった動きをして損傷することから名付けられており、正式名称を「頸椎捻挫」または「外傷性頸部症候群」といいます。
発生要因として最も多いのが交通事故で、頸部に急激な過屈曲や過伸展が起こることで周囲組織が損傷して起こります。
障害部位を特定する検査
頚椎捻挫を起こした場合は、まず最初に単純X線写真にて頸椎を2方向より撮影し、骨折や脱臼がないことを確認します。
骨折が確認できないにも関わらず、激しい痛みを訴える場合にはCT検査を実施し、見落としがないか詳しく診ていきます。
通常、MRI検査を実施する必要はありませんが、神経症状が存在する場合は鑑別目的で実施されることもあります。
むち打ち症の分類
むち打ち症はその症状から、以下の5つの型に分類することができます。
- 頸椎捻挫型
- 神経根症状型
- 脊髄症状型
- バレー・リュー症状型
- 脳脊髄液減少症
それぞれに特徴的な症状が認められ、治療法も異なってくるので個別に解説していきます。
①頸椎捻挫型
むち打ち症の8割以上を占める最も一般的な状態であり、主訴は頸部の痛みになります。
頸部痛を起こす組織は、①筋・筋膜、②椎間関節、③椎間板であり、どの組織が損傷しているかで治療方法も変わってきます。
この記事ですべてを説明すると長くなるので、各障害の評価やリハビリの詳細は以下の記事をご参照ください。
②神経根症状型
手のしびれや筋力低下といった神経根障害が生じた状態を神経根症状型といい、多くの場合は事故以前より頸椎症が存在しています。
頸椎の変形によって椎間孔が狭小化しており、その間を通過する神経根が圧迫されることで神経根症状が誘発されます。
事故の外力によって椎間関節や神経根に炎症が生じている場合は、頸部痛も同時に存在するため、頸椎捻挫型への対応も必要となります。
神経根症状型には頸椎カラーが有効であり、症状が緩和するまで(炎症が落ち着くまで)は安静を保つことが推奨されます。
③脊髄症状型
いわゆる脊髄損傷の状態であり、障害部位より下位の神経に障害(中枢性麻痺)が起こるようになります。
中枢性麻痺の場合は筋緊張が亢進するため、歩行時に足関節がツッパる(底屈する)などして歩行障害が現れます。
また、尿や便が出にくいといった膀胱直腸障害が起こり、早期の手術が必要となるケースもあります。
基本的には状態が安定するまで絶対安静が必要であり、医療機関への入院を必要とします。
- 頸髄症のリハビリ治療
④バレー・リュー症状型
後頸部交感神経(自律神経)が損傷することで起こるのがバレー・リュー症状型で、別名「後頚部交感神経症候群」とも呼ばれます。
自律神経が障害を受けるため、めまいや耳鳴り、難聴、目のかすみ、眼精疲労、頭痛や吐き気、全身の怠惰感などが起こります。
神経根症状型と併発する場合が多く、その場合は上記の症状に加えて知覚障害や筋力低下を訴えることになります。
自律神経に刺激が加わることで症状が増悪するため、頸椎カラーなどを使用して、症状が緩和するまでは安静を保つことが推奨されます。
⑤脳脊髄液減少症
急激な外力によって一時的に髄液圧が上昇し、その圧が下方に伝わって硬膜が裂けることにより、髄液が漏れて減少することで起こります。
症状は非常に多彩であり、いわゆる不定愁訴にちかい訴えをし、天候や気圧の変化にも敏感な反応を示します。
私が以前に担当した患者では、飛行機に乗った際に意識がとびそうになるほどの辛さがあったと話していました。
主な症状としては、頭痛や吐き気、全身倦怠感、血圧障害、記憶力の低下、不眠、うつ、頸部や手足の痛みなどがあります。
治療としては、自分の血液で漏出部分に蓋をする硬膜外血液パッチ(ブラッドパッチ)が施術されます。
リハビリテーション
比喩的に、むち打ち症には「熱い」または「冷たい」特性があり、それらを理解しておくことは臨床を行ううえでとても重要です。
以下に、両者を比較している表を掲載します。
熱いむち打ち症(通常は3〜6週未満)は交感神経系が優位になっており、感度が高く、とても壊れやすい状態にあります。
この時期に患部へ積極的な介入を実施してしまうと、より交感神経系を活性化させ、痛みを増悪させることになりかねません。
そのため、あくまで交感神経系を鎮めることを目的とし、胸郭と腹部で減弱した運動の部位に手を触れながら深呼吸などを行っていきます。
患部への積極的な介入は「冷たいむち打ち症」になってからであり、そこから凍った組織を溶かすように温かいタッチで施術してください。