膝関節のスポーツ障害としても多い膝蓋腱炎のリハビリ治療について、わかりやすく解説していきます。
膝蓋腱炎の概要
膝蓋腱炎はジャンプ動作の多いスポーツ(バスケットやバレーボールなど)で発症しやすいことから、別名でジャンパー膝とも呼ばれます。
膝蓋腱炎は名前の通りに膝蓋腱に炎症や疼痛が起きている状態ですが、中には膝蓋骨下極や脛骨粗面が裂離骨折しているケースもみられます。
基本的には膝蓋骨付着部下方の障害を意味しており、脛骨粗面付着部の疼痛は若年者特有のオスグッド病と区別されます。
膝蓋骨上方の痛みは中間広筋の緊張が増大している中高年者に多く、年齢で痛みのある場所が変化していると臨床的に感じています。
膝蓋腱炎の予後は比較的に良好ですが、腱は血流が乏しいために1度炎症が発生すると慢性化しやすく、治癒までに長期間を要することもあります。
そのため、早期改善には「運動制限」と「大腿四頭筋や筋膜の滑走不全を取り除くこと」の2つが重要です。
膝蓋腱炎の危険因子
膝蓋腱炎が発生しやすいヒトの特徴として、以下の3つが挙げられます。
- 筋・筋膜の滑走不全(とくに大腿四頭筋)
- オーバーワーク
- 膝関節のアライメント不良
リハビリテーション
大腿四頭筋の緊張増大や大腿筋膜の滑走不全は、膝蓋腱に引き伸ばすストレスが加わるのでアプローチが必要となります。
大腿四頭筋に触れるときは、大腿直筋・内側広筋・中間広筋・外側広筋の4つを個別に触診しながら緩めていくことが大切です。
大腿筋膜の滑走不全を確認する方法として、膝蓋骨を下方(内下方や外下方)に動かしてみて、硬さが感じられないかを確認していきます。
硬さがある場合は、その方向に保持した状態で大腿部の筋膜に触れていき、滑りが悪い場所を探します。
そこで見つけた筋膜の高密度化(滑走不全)に対して、筋肉の表面をマッサージするようにしてリリースしていきます。
筋・筋膜の滑走不全がある状態で運動を行うと、膝蓋腱へのストレスが増大してしまうため、この時点での安静指導は必須です。
筋・筋膜の滑走不全がそれほど強くなくても、オーバーワークが引き金となっているケースも多いため、痛みが落ち着くまでは部活などは休んでもらったほうが治りは早いです。
膝関節のアライメント不良も膝蓋腱炎を助長させる要因であり、例えば、膝関節伸展制限は屈曲位荷重となり、大腿四頭筋へのストレスが増大します。
膝関節の内反位や外反位、下腿外旋位などは、膝蓋腱が引き伸ばされてストレスを増大させることにつながります。
足部が内外反しているケースでは、連鎖的に膝関節も内外反するため、足部のマルアライメントにはインソールを使用も検討します。
スポーツ動作について
前述したように膝蓋腱に負担をかけるアライメントは、膝関節の屈曲位荷重や内外反、下腿外旋位などです。
スポーツにおいては、これらを防ぐようにして動きを組み立てることが大切であり、例えば、ジャンプの着地動作では膝とつま先は同じ向きに保つことが必要です。
また、骨盤は前傾位、上半身は前かがみにして質量中心を前方位、つま先から着地して足圧中心は前方位にします。
ディフェンス姿勢も同様のことを意識するようにし、可能な限りに伸展モーメント増大と膝の捻れを防ぐようにしていきます。
膝関節の伸展制限
以前に小学生の膝蓋骨下極骨折(裂離なし)を担当しましたが、受傷機転は体育での高跳び(打ってはいない)で痛めたとのことでした。
膝蓋骨外上方にも分裂が存在しており、慢性的に大腿四頭筋にストレスが加わっていることが推察されました。
実際に大四頭筋に触れてみると緊張はやや高いものの、それほどまでに重大な滑走不全はみられませんでした。
膝蓋下脂肪体は硬さがみられましたが圧痛はそれほどなく、膝蓋骨下極が最も圧痛が強く、階段の昇りで痛みがありました。
階段の「昇段」と「降段」のどちらで痛いかは有用な所見で、昇段なら膝蓋腱付着部に、降段なら膝蓋下脂肪体に痛みがあるケースが多いです。
仰臥位になってもらうと膝裏がベッドから浮いており、膝関節に軽度の伸展制限がみられました。
腹臥位にてハムストリングスと下腿三頭筋の硬さをチェックすると、大腿四頭筋よりも緊張が増大していました。
足関節の背屈制限も存在しており、それらが原因で立位時に膝関節屈曲位をとりやすくなっていると考えられました。
このようなケースにおいては、大腿四頭筋のリラクゼーションやストレッチングを実施しても根本的な改善には至りません。
大切なのは、大腿四頭筋の緊張を増大させている因子(膝関節屈曲位)を取り除くことです。
そのためには、ハムストリングスと下腿三頭筋のリラクゼーションやストレッチングを行うことが必要となります。
順序としては、まずは筋リラクゼーションにて攣縮を取り除き、その後にストレッチングを行うようにしてください。