スウェイバック姿勢と仙腸関節障害の関係性

左腰(上後腸骨棘)の痛みと左下肢全体のしびれが主訴の患者(中年の男性)を担当したので、その原因と治療法について解説していきます。

まずは中年の男性に多い不良姿勢はなにかを考えると、圧倒的にスウェイバック姿勢が多いことを頭に入れておいてください。

スウェイバック姿勢かどうかを判断するためには、大腿筋膜張筋やハムストリングスに硬さがあるかをみると非常に簡単です。

前述した患者にも圧痛や硬さが認められたので、少なからず普段から緊張を強いられるような状態にあることが予測できました。

ここからは不良姿勢がどのようにして左腰や左下肢のしびれに関与しているかを考えますが、まずは仙腸関節の動きを知っておく必要があります。

仙腸関節はニューテーション(腸骨後傾と仙骨前傾)とカウンターニューテーション(腸骨前傾と仙骨後傾)の方向に動きます。

スウェイバックでは骨盤が後傾していますが、大腿筋膜張筋が硬いために腸骨は前傾方向に引っ張られます。

そこで仙腸関節はカウンターニューテーションの動きを強制されて、緩みの位置(LPP)に保持されることになります。

カウンターニューテーションの動きが過度になると仙骨後屈ロックを起こし、いわゆるギックリ腰となるわけです。

患者にギックリ腰をしたことがあるかを尋ねると、これまでに何度も起こしていたことが明らかとなりました。

次に仰臥位で左右の上前腸骨棘の高さを確認してみたら、左側のほうが低い位置にあり、脚長差は左下肢のほうが長くなっていました。

なぜ寛骨が前傾すると下肢が長くなるかは、上の図をみていただくと視覚的にも理解しやすいかと思います。

患者は大腿筋膜張筋に加えて、大腿直筋も短縮しているのが評価でわかりましたので、さらに寛骨の前傾を強めていることが予測できました。

ここまでで左腰(上後腸骨棘)に痛みが起きている原因は説明できそうですが、仙腸関節障害だけで左下肢全体のしびれは説明できません。

上の図は、仙腸関節障害の放散痛領域とその割合を示したものですが、基本的に仙腸関節障害は分節性に痛みが起こることが特徴です。

そのため、下肢全体にわたって連続性でしびれが発生することはなく、問題は別に生じていると考えなければなりません。

一般的な下肢にしびれを起こす原因を考えると、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症がまずは頭に浮かんでくるはずです。

しかし、患者は特定の領域に神経根症状があるわけではなく、片側性のために脊柱管狭窄症の可能性も考えにくい状況にありました。

他に考えられる原因として、筋膜性のしびれがあり、そちらの要素についても確認しておくことが大切です。

下肢後方のしびれに関しては、アナトミー・トレインのSBL(スーパーフィシャル・バック・ライン)が影響します。

実際に患者の左脊柱起立筋や外側ハムストリングスを圧迫するとしびれが再現できたため、筋膜が原因であることが予測できました。

SBLの筋膜に異常をきたした理由としては、仙腸関節のカウンターニューテーションを制動する後仙腸靱帯が損傷したと考えられます。

後仙腸靱帯には多裂筋が起始しており、損傷すると多裂筋はその影響を受けて攣縮し、さらに表層の脊柱起立筋にまで筋スパズムが生じます。

そのため、最初はギックリ腰を繰り返している程度だったのが、最終的には筋膜障害を起こして下肢のしびれにまで波及したわけです。

ここまでのことを考えると、単純に筋膜リリースをするだけでは不十分であり、まずは仙腸関節障害を治療する必要があることがわかります。

今回のケースでは大腿筋膜張筋と大腿直筋のストレッチングを指導し、寛骨を後傾に誘導して仙腸関節をニューテーションに誘導します。

痛みが落ち着いたら再発しないように、問題の根本に存在するスウェイバック姿勢を矯正するためのトレーニングを行っていきます。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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