変形性膝関節症の運動でパテラセッティング(大腿四頭筋セッティング)を行う場合は非常に多いと思います。
しかしながら、この運動の本当の目的を理解してから実施しているセラピストはそれほどいないのではないでしょうか。
よく言われるのは、膝関節の最終伸展位付近で最も活動する内側広筋を集中的に鍛えられるといった「筋力強化」としての目的です。
考えてみるとわかることですが、膝下にタオルを敷いて押しつぶすよりも、重りを付けて膝関節を伸展させるほうが筋肉は働きます。
それをわざわざパテラセッティングとして実施するのは、そもそもの目的が筋力強化ではないからです。
内側広筋が膝蓋骨に付着しているのはご存知かと思いますが、一部は内側縦膝蓋支帯と内側横膝蓋支帯に連なっています。
そのため、内側縦膝蓋支帯に癒着が起こると内側広筋の収縮が入りづらくなり、膝蓋骨を上方に引き上げる動きも出ません。
内側広筋の筋出力が低下すると、内側横膝蓋支帯の緊張が弱まるため、膝蓋骨の外方不安定性が高まります。
大腿四頭筋(大腿直筋以外)は、歩行時の踵接地時から荷重応答期にかけて遠心性に収縮しながらゆっくりと膝関節を屈曲させていきます。
その際に、内側広筋のみに筋出力の低下があると外側広筋の作用によって膝蓋骨は外方に引っ張られ、ラテラルスラストが起こります。
膝関節が不安定になると荷重が局所に集中して軟骨の摩耗が進行したり、膝崩れの原因にもなります。
このように内側広筋の筋出力低下は多くの問題を引き起こす原因となるので、内側膝蓋支帯の癒着は必ず防止することが重要です。
術後などの炎症期はとくに癒着が進行しやすいので、自主エクササイズとしてもこまめに実施しておくことが推奨されるわけです。
しかし、炎症が存在しない外来レベルの患者へのエクササイズとしてのパテラセッティングに関しては、個人的にかなり疑問があります。
膝蓋骨の動きが乏しい患者においては、ほとんど内側広筋の収縮が起こらず、いくら在宅で練習をしても無意味だからです。
リハビリにて必ず膝蓋骨の可動性を出してから実施しないことには、内側広筋の収縮による内側膝蓋支帯の滑走も起こりません。
このことを理解しておくことで、効果的にパテラセッティングを必要な患者だけに提供することができるようになります。
ひとつだけ注意点としては、可動性を上げても内側広筋が弱化していたら逆に不安定性が増すので、一時的に症状が増悪する可能性もあります。
そのあたりのリスクも考慮しておくことで、事前にこれから起こるリスクを最小限に食い止めることができます。
それでは、是非とも明日からの臨床の役に立ててみてください。