ゴールを設定することは、患者と同じ目標を共有し、無目的で漫然としたリハビリ治療を避ける意義があります。
また、ゴール達成の有無を確認し、治療の効果判定をおこない、より効果的な方法を検証するといった意味合いもあります。
そのためにも、ゴール設定について正しい知識を身につけておくことが大切です。ここでは、学生や新人セラピスト向けにゴール設定の方法について解説します。
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ゴール設定の位置づけと意義
リハビリテーションを提供する上でゴール設定は、急性期や回復期のみでなく、維持期も含めた全ての時期において必要なプロセスになります。
昨今は、これまでの漫然としたリハビリに対してメスが入り、維持期リハは切っていく方向で話が進んでいます。
今後もリハビリが必要であることを示すためにも、細かく効果判定を実施し、本当に効果が認められる治療を選択していくことが大切です。
ゴール設定の5つのポイント
- 「方針」と「ゴール」を混同しない
- 「いつ」「どうなるか」を設定する
- 「いつ」は一律には設定しない
- 経過や結果に先行して設定する
- ゴールを通して在宅生活をイメージする
具体的にどう設定するか
ゴールには、達成するとされる「時期」と達成するとされる「レベル・状態」を具体的に設定する必要があります。たとえば、「3カ月後(時期)までに100mを11秒で走る(レベル)」といったようにです。
なるべく速く走れるようになるといった抽象的なものは、ゴールではなく「方針」になります。ですので、ゴールと方針を混同しないように注意してください。
ゴール設定について
ゴールは、医学的、客観的、根拠のある経験則に基づいて決めていくことが重要です。ですので、現実的に達成できる信頼性のあるゴール設定が大切になります。
しかし、中には病態や年齢、生活歴等から設定が困難な症例も多くおられます。そんな場合は、期間や自立度に幅を持たせ、経過をたどりながら随時修正していくことも必要です。
ただし、幅を広く持たせすぎたり、修正の頻度が多すぎるのは、ベテランのリハビリ職として恥ずかしいものです。
より精度の高いゴールを設定し、それを達成していくことが実力のあるセラピストだとも言えます。そうなるためには、常にPDCAサイクルを意識して治療にあたることが大切です。
エビデンスに基づいた設定方法
例えば、脳卒中の方が入院してきて、病棟歩行自立をゴールに設定したとします。その場合、歩行自立までにどれだけの期間を要するかはこれまでのデータ(医学的根拠)から割り出していく必要があります。
以下に回復期病棟への入院時レベルと病棟歩行自立までの期間を掲載します。
入院時レベル | 起き上がり自立 | 移乗自立 | 病棟歩行自立 |
寝返りのみ自立 | 20日 | 38日 | 90日 |
起き上がりまで自立 | – | 32日 | 52日 |
移乗まで自立 | – | – | 26日 |
このビッグデータを根拠にすることで、「入院時に寝返りが自立しているので、病棟歩行自立まで3カ月に設定しよう」と考えられるわけです。
実際はこれに「高次脳機能障害の有無」や「認知症の有無」、「筋緊張の状態」などの多様な症状が絡んできますので、それらも考慮していく必要があります。
ここが考慮できるかどうかは、「経験則」があるかどうかに関わってきますので、常にゴール設定を意識して治療を行ってきた人ほど「精度の高いゴール」を設定をしていくことができます。
職種別にゴールを設定する
総合的なゴールとは別に、職種の専門性に基づいて職種ごとのゴールを設定することも大切です。それぞれがゴールを予測設定するで、より鮮明に総合的なゴールが見えてくるはずです。具体的には以下になります。
- 医師:病状、主な障害等に関する予後予測
- 看護師:主に、リスク・健康管理、しているADL・IADL能力等のゴール
- PT:主に、基本動作能力、移動能力等のゴール
- OT:主に、できるADL・IADL能力等のゴール
- ST:主に、口腔・嚥下機能、実用的コミュニケーション能力等のゴール
- SW:主に、生活自己管理、経済面、介護能力、社会資源等に関する予測
まとめ
一般社会では、「費用がいくらに対してこれだけの効果を出します」といって契約を結んでいます。しかしながら、リハビリ業界ではそのような具体的なことをあまり言おうとしません。
なぜなら、はっきりとした「予測」ができないからです。できないというのは、決して「無理」というわけではなく、ただの勉強不足だからです。
現在は数多くのデータも示されていますし、真剣に取り組んできた人たちには「経験則に基づいた知識」だってあります。
ですので、ある程度は予測できて当たり前なのです。それができないというのは甘えでしかありません。
自分もまったくできていないので、これからは精度の高いゴール設定を目指して日々精進していきたいと思います。