下肢切断のリハビリ治療に関して、わかりやすく解説していきます。
この記事の目次はコチラ
下肢切断の概要
下肢切断の主な原因は、交通事故や労働災害、糖尿病性壊疽、閉塞性動脈硬化症(ASO)、骨肉腫などが挙げられます。
現在、日本では下肢切断の60%以上が血行障害性切断となっています。
リハビリの目的は、切断によって失われた機能を補助的手段によって可能な限り復元し、1日も早く社会復帰させることにあります。
具体的には、以下の5つの項目を中心にアプローチしていきます。
- 義肢をコントロールするための理想的な断端形成
- 切断者の身体条件に応じた系統的な歩行訓練
- 社会環境に適応したADL訓練
- 断端痛や幻肢痛のコントロール
- ソケットの適合修正および装着訓練
歩行獲得率について
義足による屋内歩行の獲得率は、 大腿切断および片側下腿切断で70〜80%、両側下腿切断で約60%といわれています。
屋外歩行の獲得率は大腿切断患者では約20%まで低下し、義足常時使用率は大腿切断で40〜50%、下腿切断で70〜80%です。
歩行獲得率は、①残存下肢が多い、②若年者、③原因が外傷又は糖尿病性壊疽である場合は高くなります。
しかし、原因がASOである場合は低くなる傾向にあります。
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関節可動域訓練
大腿切断者においては股関節屈筋群の短縮が起こりやすい傾向にあります。
その理由として、屈曲の主力筋である腸腰筋が残存するため、筋肉のアンバランス(屈筋群>伸筋群)で拘縮が生じます。
拘縮の存在は立位時の姿勢保持を不安定にし、断端から義足への伝達効力も減少させます。
そのため、伸展方向のストレッチは十分にしておく必要があります。
筋力トレーニング
前述したように、切断された筋肉と温存された筋肉はアンバランスを生むことになるので、そのバランスを調整することは極めて重要です。
筋肉が優位な方向に関節は拘縮していくので、その拮抗筋を鍛えることが拘縮の予防や運動効率を高めることにつながります。
また、バランスを考慮しながら残存筋を積極的にトレーニングしていくことで、失われた筋肉(筋力)を補っていくようにします。
実際の運動メニューでは、単一筋のみの強化に絞らず、連続片脚跳びなどの全身運動として実施する方が全身持久力も鍛えられてより効果的です。
義足装着方法の指導
断端の機能を効率よく義足へ伝えるためには、義足が正しくセットされていることが大前提です。
しかし、大腿部では自力での着脱が困難な場合も多いです。
その場合は断端誘導帯を用いることで、断端をソケット内へ誘導していく方法が一般的に実施されています。
義足への荷重誘導
歩行を獲得できない最大の原因は「義足への十分な荷重が行えないこと」で、不慣れなうちは義足へ荷重することに対して不安や恐怖があります。
その不安を取り除かないことには歩くことができないので、まずは両足で立ち、義足に荷重する練習から開始していきます。
両足に体重が乗せられるようになったら、徐々に側方や前後に重心移動ができるようにします。
慣れてきたら健側下肢を台に挙上する練習などを実施し、義足のみで立つ感覚をつかめるようにアプローチしていきます。
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歩行練習
ある程度に義足への荷重が行えるようになったら、次は歩行訓練に移行していきます。
通常は、①平行棒➡②歩行車➡③杖➡④独歩のように、段階的に荷重量を上げながらステップアップするようにします。
しかし、最終目標が独歩である場合は、杖歩行を実施するとかえって歩行獲得を妨げてしまう場合もあります。
ですので、より早く独立歩行に移行するためには、セラピストの手掌を杖代わりにして介助量や歩行リズムを指導していくとより効果的です。
以下に、代表的な異常歩行の種類とその原因について解説していきます。
異常歩行①「体幹側屈」
歩行時に体幹側屈が起こる原因として、以下の原因が考えられます。
問題点 | 原因 |
義足 | ソケットの外側壁の支持不足、義足が短い、断端外側末端部の衝突、会陰部の圧痛や不快感 |
断端部 | 股関節外転の筋力低下、股関節の外転拘縮 |
歩行姿勢 | 初期内転角不足 |
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異常歩行②「腰椎前弯の増強」
歩行時に体幹側屈が起こる原因として、以下の原因が考えられます。
問題点 | 原因 |
断端部 | 股関節の屈曲拘縮、股関節伸展の筋力低下、腹筋群の筋力低下 |
歩行姿勢 | 姿勢の習慣化 |
![]() 引用画像(1) |
異常歩行③「ぶんまわし歩行」
ぶんまわし歩行が起こる原因として、以下の原因が考えられます。
問題点 | 原因 |
義足 | 義足が長い、義足の懸垂が不十分、義足膝が屈曲しない |
断端部 | 股関節屈曲の筋力低下、股関節内転の過緊張 |
歩行姿勢 | 姿勢の習慣化 |
![]() 引用画像(1) |
義足の生活指導
生活指導においては、あらゆる生活場面でどのような方法で最も動作が安定するかを患者自身が理解して実行することが大切です。
そのためにも、説明は理論付けをしながら丁寧に説明していくようにします。
階段昇降
階段などの段差では、踏ん張ることができるほうの足を先に上へ置き、次に足が不自由なほう(義足側)を上げて一段ずつ昇っていきます。
通りゃんせの歌に合わせて、「行きは良い良い帰りは怖い」(行きは良い足、帰りは悪い足)と説明すると覚えやすいです。
なので、降りる時は義足側からになります。
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坂道
坂道の順番は階段と同じであり、上りは良いほうから、下りは悪いほう(義足側)からになります。
理由として、下りでは後ろに残した側で踏ん張る必要があるからです。
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椅子からの起立着座
椅子から立ち上がる際は、踏ん張れるほうの足を引き付けて立ち上がります。
膝が伸びていると力が発揮できないので、しっかりと屈曲した状態で実施する必要があります。
また、座る際は義足の膝関節がロックされているため、前に出しておかないと膝関節が屈曲できずに座れないため、立ち座りの際は義足側を前に出す必要があります。
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良肢位の保持について
下肢切断後は筋張力の不均衡や下肢重量の減少によって、特定の筋肉に拘縮を起こしやすくなります。
以下の3つの画像より、下腿切断者の早期における良肢位保持はどれにあたるかを考えてみてください。
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正解は右端の「うつ伏せ」になります。
下腿切断では、膝関節屈曲が優位となりやすく、また普段の安楽肢位が屈曲位をとりやすい傾向にあります。
そのため、義足歩行を獲得するまでの切断初期は、股関節や膝関節の屈曲拘縮が起こらないように良肢位を保持することが大切です。
幻肢痛について
幻肢痛の好発年齢は15歳以上で、ボディーイメージの形成が未発達な小児期には出現しにくい傾向にあります。
幻肢痛の好発時期は切断後1週間以内で、出現率は30〜50%、激しい幻肢痛を伴うケースは約20%に存在します。
訴え方としては「ズキズキ」や「ジンジン」などの表現を用いたり、焼けるような痛み、突き刺すような痛みなどと訴える場合もあります。
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幻肢痛の原因については、以下の三つの説が唱えられています。
1.末梢神経説
- 切断された末梢神経が再生されて異常な連絡状態をつくり、幻肢痛を発生させているという説
2.中枢神経説
- 長期間にわたる疼痛の末梢感覚入力により中枢に疼痛のボディイメージが形成され、切断肢にその痕跡が出現するという説
3.末梢神経・中枢神経混合説
- 切断後に末梢神経からの脊髄後角のニューロンへの入力遮断により大脳皮質の疼痛のボディイメージが誘発されているという説
幻肢痛を軽減する方法
- 外科的治療
- 各種神経ブロック療法
- 物理療法
- 精神療法 etc.
上記に挙げた方法が報告されていますが、有効な治療法はまだ確立されていないというのが現状です。
TENSを用いた疼痛軽減
経皮的電気刺激(TENS)の効果を認める報告は多く、短期間ではありますが幻肢痛の軽減効果があると考えられています。
興味深い報告として、幻肢痛出現部位の反対側の同部位に相当する部位を電気刺激することが、切断側に実施するよりも即時鎮痛効果が高かったとする報告があります。
その鎮痛メカニズムについては明らかとはなっていませんが、幻肢痛の治療に難渋しているケースでは反対側に試してみる価値はありそうです。
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