中殿筋(gluteus medius)

この記事では、中殿筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。

中殿筋の概要

中殿筋の起始停止

中殿筋(殿筋群)はヒトが二足歩行を獲得するために発達した筋肉であり、股関節外転に最も貢献しています。

その基本的な機能は、立位で身体が横に傾いたときに戻す作用があり、サイドステップなどの動きでも活躍します。

中殿筋は股関節の屈伸軸によって作用が変化します。

中殿筋の前方線維と後方線維

屈伸軸の前方線維は股関節の屈曲・内旋に作用し、屈伸軸の後方線維は股関節の伸展・外旋に作用します。

前方線維と後方線維が互いに協働することで、純粋な股関節外転の動きを発揮することができます。

中殿筋とテコの原理2

中殿筋線維(赤線)はテコ(黄線)に対して直角にちかい角度をなすため、力学的効率が非常に高い筋肉といえます。

これはアウターマッスル(表層筋)に特徴的な構造のひとつであり、強い筋力を発揮するためには必須の条件です。

それに対して、インナーマッスル(深層筋)は筋線維がテコに対して平行にちかい構造をとり、関節運動よりも骨同士を引きつけて安定させる役割のほうが大きくなっています。

基本データ

項目

内容

支配神経 上殿神経
髄節 L4-S1
起始 腸骨翼の殿筋面(前殿筋線と後殿筋線の間)、腸骨稜の外唇、殿筋腱膜
停止 大腿骨の大転子の尖端と外側面
栄養血管 上殿動脈
動作 股関節の外転

前方筋束)内旋・屈曲

後方筋束)外旋・伸展

筋体積 411
筋線維長 6.8
速筋:遅筋(%) 50.050.0

運動貢献度(順位)

貢献度

股関節外転

股関節外旋

股関節内旋

1 中殿筋 大殿筋 中殿筋(前部)
2 大殿筋(上部) 大腿方形筋 小殿筋
3 大腿筋膜張筋 内閉鎖筋 大内転筋

※中殿筋は前方線維と後方線維で作用が異なり、前方線維は股関節内旋で高い貢献度を担っています。

中殿筋の触診方法

自己触診:中殿筋

写真では、股関節を外転させることで中殿筋を収縮させて、大殿筋との境目の部分(屈伸軸に近い後方線維)を触診しています。

大殿筋は股関節伸展に働くので、外転と伸展を繰り返してそれぞれの筋収縮の違いを確認すると鑑別しやすいです。

通常、中殿筋は前方線維よりも後方線維の幅が大きいことが特徴です。

後方線維の大部分は大殿筋に覆われているため、直接触れられるのは中殿筋の前方線維と後方線維の一部だけになります。

ストレッチ方法

中殿筋のストレッチング

長坐位にて片膝を立てて交差させ、腕をつかって股関節を内転させていきます。

別法として、仰向けの状態で足を組んで、乗せた側の脚の重みで股関節を内転・内旋させることでもストレッチできます。

筋力トレーニング

中殿筋の筋力トレーニング

側臥位にて、下方の股関節を屈曲位、上方の股関節をやや伸展位に保持し、股関節を外転させていきます。

その際に、股関節の屈曲や骨盤の回旋が入らないように注意してください。

トリガーポイントと関連痛領域

中殿筋の圧痛点(トリガーポイント)は腸骨稜付近に起こり、腰痛を引き起こす非常にポピュラーな筋肉になります。

緊張を増大させる原因としては、重いものを運ぶ、妊娠による急激な体重過多、子供を同じ側でいつも抱っこするなどが挙げられます。

また、モートン足のような足関節に不安定性が存在すると平衡障害を引き起こし、側方のバランスをとっている中殿筋に過負荷が加わります。

ハードな運動や力仕事をする際に幅広の骨盤ベルトを締めることで、中殿筋をサポートし、過負荷を予防することできます。

アナトミートレイン

中殿筋はアナトミートレインの中で、LL(ラテラル・ライン)に属しており、腸脛靭帯や外腹斜筋と繋がっています。

身体の外方ラインが硬くなっているケースは非常に多いので、腰痛の訴えがある場合はチェックする必要があります。

大殿筋外縁と中殿筋の境目は癒着が発生しやすいポイントであり、中殿筋のトリガーポイントは大殿筋の緊張を増大させる原因となります。

歩行時の筋活動

中殿筋の歩行時の筋活動

上の図は、歩行における股関節の屈曲角度と中殿筋が活動する時期をまとめたものです。

歩行において中殿筋は、遊脚終期の終わりから荷重応答期、立脚中期の中頃までを中心として働きます。

主な役割として、片脚支持期に骨盤を安定させるために最も活動します。

関連する疾患

  • 変形性股関節症
  • 慢性腰痛症
  • 異常歩行(トレンデレンブルグ歩行、デュシェンヌ歩行) etc.

変形性股関節症

変形性股関節症では大殿筋や中殿筋に顕著な萎縮が認められ、しばしば跛行を引き起こす原因となります。

萎縮する理由としては、変形性股関節症では股関節の伸展・外旋の可動域が低下しやすく、大殿筋や中殿筋後方線維の活動が障害されるためです。

そのため、股関節の可動域を保つことが萎縮の予防になることを理解し、できる限りに動きが保たれるようにアプローチしていくことが大切です。

慢性腰痛症

腰痛症の多くに中殿筋のトリガーポイントが認められます。

中殿筋は姿勢保持や歩行時に使用される筋肉であるため、普段から緊張を強いられやすい状況にあります。

アライメントの変化などで中殿筋の負担が大きくなってしまうと、結果的に硬結してトリガーポイントを形成してしまうことに繋がります。

異常歩行

トレンデレンブルグ歩行と中殿筋

中殿筋が弱ることで片脚時に骨盤を水平に保てなくなり、健側に骨盤が傾いてしまう現象をトレンデレンブルグ歩行といいます。

中殿筋に弱化があり、さらに股関節内転に可動域制限がある場合は、体幹を患側に傾けるデュシェンヌ歩行が出現する場合もあります。

デュシェンヌ歩行と中殿筋

異常歩行は一度発生すると改善が難しいため、何よりも予防が大切です。

中殿筋はその役割の重要性に対して非常に弱化しやすい筋肉であるため、各種股関節手術後の安定した歩行の獲得には、長期的かつ計画的な中殿筋機能の改善が不可欠です。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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