仙腸関節障害のリハビリ治療

この記事では、仙腸関節障害のリハビリ治療について解説していきます。

仙腸関節の概要

仙腸関節は仙骨と腸骨から構成される平面関節で、前方は前仙腸靱帯、後方は後仙腸靱帯により強固に連結しています。

動きは非常にわずかですが、関節内には滑液も存在しており、動きもあるために動的関節に属します。

仙腸関節の動き

仙腸関節は仙骨が前屈方向と後屈方向に動きますが、前者をニューテーション、後者をカウンターニューテーションといいます。

ニューテーションは、仙骨の前屈(厳密には仙骨の前傾と腸骨の後傾)であり、仙腸関節を締める動きになります。

カウンターニューテーションとは、仙骨の後屈(厳密には仙骨の後傾と腸骨の前傾)であり、仙腸関節を緩める動きになります。

ちなみに、カウンターニューテーションを制限する靱帯は後仙腸靱帯であり、後仙腸靱帯と連結する多裂筋表層線維も間接的に関与しています。

仙腸関節は動的関節ではありますが、関節面は不規則な形状をしており、それらがはまり込んでいるために可動性は非常に乏しいです。

仙骨

仙骨が腸骨に対して前屈する可動域は約1.3度、後屈する可動域は約1.7度、距離にすると約1〜2㎜程度です。

仙腸関節が存在する意義としては、骨盤に関節をひとつ挟むことでスムーズな動きを実現し、さらに歩行時の体幹重量と床反力が収束する際の負担を分散させます。

仙腸関節障害の特徴

理学評価としては、①パトリックテスト、②ゲンスレンテスト、③周囲組織の圧痛を診ていくことが有効です。

パトリックテストでは仙腸関節の上方にストレスが加わるので、関節上部の問題が疑われ、前仙腸靱帯や腸骨筋に圧痛が生じる可能性があります。

ゲンスレンテストでは仙腸関節の下方にストレスが加わるので、関節下部の問題が疑われ、後仙腸靱帯や仙結節靭帯に圧痛が生じる可能性があります。

仙腸関節障害の症状

上の図は、仙腸関節障害の放散痛領域とその割合を示したものですが、基本的に仙腸関節障害は分節性に痛みが起こることが特徴です。

仙腸関節障害の主な症状は、仙腸関節に沿った殿部痛ですが、4割には大腿外側部痛、2割には鼡径部痛が出現します。

仙腸関節は歩行時に負担を担っていますので、障害が存在していると患側荷重時に痛みが起こり、重度の場合は跛行が認められます。

ギックリ腰の一部は仙腸関節のカウンターニューテーションが関与しており、仙骨が後屈位でロックされることに起因しています。

マルアライメント症候群

仙腸関節障害の多くは関節マルアライメント(歪み)を有しており、上前腸骨棘の高さに左右差が認められます。

股関節に伸展制限があると腸骨を前傾させることで代償することになり、仙腸関節はカウンターニューテーションとなります。

股関節の伸展制限に関与するのは腸骨筋の短縮や前関節包の短縮であり、それらの伸張性を獲得することが症状の改善には必要です。

股関節の内旋制限がある場合は、股関節伸展時に骨頭が関節窩に潜り込むことができず、伸展制限を作ることにつながります。

もうひとつ大切な知識として、股関節屈曲拘縮のある患者では大殿筋が働きにくくなりますが、筋電図で確認すると過剰に緊張しています。

また、大腿筋膜張筋や中殿筋も過剰に緊張することがわかっており、結果的に大腿外側や膝関節にまで痛みが波及することになります。

大腿筋膜張筋のような多関節筋は1度収縮すると緊張が抜けにくい特性があるため、慢性的に腸脛靭帯が硬くなっているケースが多いです。

仙腸関節の動きに関与する筋肉

以下に、筋肉の起始停止から想定した「寛骨を前後傾させる筋肉」と「仙骨を前後傾させる筋肉」を掲載していきます。

ニューテーション カウンターニューテーション
寛骨後傾 寛骨前傾
外腹斜筋 内腹斜筋
大殿筋 大腿筋膜張筋
股関節外転筋後部 股関節外転筋前部
ハムストリングス 大腿直筋
腸骨筋
仙骨前傾 仙骨後傾
多裂筋
脊柱起立筋

リハビリテーション

仙腸関節障害(カウンターニューテーション型)では、後仙腸靱帯が伸張ストレスを受け続けることで痛みが生じます。

そのため、治療では骨盤後傾位をとらないように姿勢指導を行うこと、ニューテーション方向に働く筋肉を強化することが必要です。

座位姿勢において骨盤を前傾させる際は、脊柱起立筋群がなるべく収縮することなく、腸腰筋を働かせるように指導します。

骨盤が後傾しやすいタイプの人は胸椎屈曲が出にくい傾向にあるので、四つ這いの姿勢で床を押しながら背中を丸めるように動かしていきます。

腰多裂筋の強化には「hand-knee」が効果的であり、できる限りに骨盤は前傾位を保持し、脊柱起立筋群の収縮を防ぐことがポイントです。

男性と女性の比較

主観的な話になりますが、仙腸関節障害は男女で発生しやすい年齢が異なり、女性は20〜30代、男性は40〜70代に多い感覚があります。

女性(妊婦)は出産に備えて骨盤周囲の靭帯が緩くなっており、産後のしばらくは仙腸関節がさらに不安定となります。

靭帯の緩みが戻るまでの間は骨盤ベルトを使用して仙腸関節の動きを止めることにより、仙腸関節の痛みをやわらげることができます。

男性は中年に多く、身体の柔軟性や筋力が低下してきた頃に生じやすい傾向にあります。

男性の高齢者では仙腸関節がOAになっており、可動性が消失しているケースも非常に多いです。

これは女性にはない特徴であり、男性のほうが加齢よって仙腸関節障害が起こりやすくなっている理由だと推察されます。

仙腸関節の可動性が完全に消失すると疼痛も起こらなくなるため、高齢者では仙腸関節障害が少なくなります。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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