健康寿命が10年延びるからだのつくり方

理学療法士なら必読の本を多数扱っている「運動と医学の出版社」ですが、その代表取締役で理学療法士の園部先生が書かれた本を読んでみました。

園部先生は入谷式足底板で有名な入谷誠先生の一番弟子で、何冊か著書も出されているのでご存じの方も多いかと思います。

その近著が「健康寿命が10年延びるからだのつくり方」であり、いわゆる介護予防をテーマにした健康本になります。

最近は介護予防事業の拡大に伴い、理学療法士が予防分野に関わることも増えており、その中で本当に必要なことを教えてくれる内容となっています。

本書では加齢に伴って衰える運動機能を、①柔軟性、②筋力、③バランスの3つに分類し、各能力を効果的に高める手段について解説しています。

具体的な運動方法については読んで学んでいただくことにして、今回は私の考え方について簡単に書かせていただきます。

柔軟性を鍛える

加齢に伴って柔軟性が失われやすい方向や筋肉というのは決まっており、それを知っているだけで効率的に身体能力を高めることが可能です。

まずは高齢者の姿をイメージしてみるとわかりやすいですが、老人は腰や膝が曲がっており、杖をついてるような姿勢を思い浮かべるはずです。

部位別に書くと、足関節は背屈、膝関節は屈曲、股関節は屈曲、脊椎は屈曲した状態となっています。

これらはすべて運動連鎖でつながっているため、背骨が曲がると股関節は屈曲し、股関節が曲がると膝関節も屈曲します。

とくに脊椎や膝関節には変形が起こりやすく、脊椎は椎間板が摩耗することで後彎し、膝関節は軟骨が摩耗することで屈曲拘縮となります。

短縮しやすい筋肉もおおむね決まっており、股関節が屈曲することで腸骨筋が、膝関節が屈曲することでハムストリングスが短縮します。

これらの理由から、脊椎の伸展と股関節の伸展、膝関節の伸展方向への関節可動域は十分に確保しておくことが大切といえます。

筋力を鍛える

姿勢や柔軟性の変化と筋力の低下は深く関わっており、基本的に伸張される方向にある筋肉が弱っていきます。

例えば、股関節は屈曲方向に短縮していきますが、そうすると伸展方向に働く筋肉は引き伸ばされていき、結果的に筋力が発揮できずに弱化します。

股関節を伸展させる主力筋は大殿筋であるため、介護予防で鍛えるべき筋肉は大殿筋となるわけです。

私が実際に意識して鍛えている筋肉は、脊柱起立筋や多裂筋、大腰筋、大殿筋、大腿四頭筋、ヒラメ筋になります。

これらはすべて老人に特徴的な姿勢(腰や膝が曲がった状態)で引き伸ばされやすい筋肉になります。

この原理を理解しておくだけで、どこが弱っているかを即時に見抜くことができ、効率的に低下した筋力を鍛えることができます。

ちなみにですが、大腰筋と腸骨筋は「腸腰筋」とまとめて表現される場合も多いですが、これらは全くといっていいほど違う筋肉です。

老人では股関節が屈曲するために腸骨筋は短縮しますが、腰椎は曲がるために大腰筋は伸張されています。

そのため、大腰筋は弱化しているために鍛える必要があり、腸骨筋は短縮しているために伸張することが必要となります。

バランスを鍛える

柔軟性や筋力とバランス能力は切っても切れない関係なので、それらを鍛えることでバランス能力は必然と向上していきます。

ただし、柔軟性と筋力を鍛えるだけで良いかといわれたら、それだけではやはり不十分と言わざるをえません。

まずひとつにバランス能力は柔軟性や筋力以外にも、視力や聴力、平衡感覚といった知覚が深く関与しているからです。

知覚は加齢に伴って低下していくことが多く、柔軟性や筋力のように鍛えることは難しいところです。

それでは、リハビリなどでもよく実施される片脚立位などのバランス練習は、一体なにを鍛えているのでしょうか。

その答えのひとつが「ボディ・イメージ」です。

前述したバランスに関わる各種の能力が低下すると、従来のイメージで動いた場合に身体が付いていかず、転倒などのリスクが高まります。

そのような危険を回避するためにも、従来のボディ・イメージを現在の能力に合わせていくことが必要となります。

このトレーニングは柔軟性や筋力を鍛えたあとも重要であり、能力が上がった分だけボディ・イメージを更新することが大切です。

おわりに

健康寿命を延ばすためには、いわゆる老人の姿勢にならないことが大切です。

そのためには、どの方向への柔軟性が落ちやすいか、どの筋肉が衰えやすいかを正しく理解しておくことが必要です。

ここでは文章だけでの説明でわかりにくい部分もあったかと思いますが、冒頭で紹介した本は具体的な運動方法まで提示してくれています。

なので、介護予防に興味があるセラピストや健康寿命を延ばしたい方は、お薦めの一冊なので是非とも読んでみてください。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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