この記事では、前鋸筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
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前鋸筋の概要
前鋸筋は側胸部にある「のこぎり歯」の形をした筋片からなる大きな筋肉で、胸郭と肩甲骨の間を走るようにして付着します。
前鋸筋は肩甲骨を上方回旋(後傾)させる主力筋であり、関節窩を上向きにさせることで肩関節の挙上を実現しています。
肩甲骨の位置を変えるこの能力がなければ、頭上に腕を上げることができず、僧帽筋上部が過剰に働くシュラッグサインが陽性となります。
肩甲骨がロックされている場合は起始側の肋骨に作用するため、下方線維には肋骨の挙上(吸気の補助)に関与する場合もあります。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 長胸神経 |
髄節 | C5-7 |
起始 | 第1-8(又は9)肋骨の外側面中央部 |
停止 | 肩甲骨の内側縁 |
栄養血管 | 上部:外側胸動脈
下部:胸背動脈 |
動作 | 肩甲骨の外転
上方線維:肩甲骨の下方回旋 下方線維:肩甲骨の上方回旋 |
拮抗筋 | 菱形筋 |
筋体積 | 359㎤ |
筋線維長 | 17.5㎝ |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
肩甲骨外転 |
肩関節外転 |
肩関節屈曲 |
1位 | 前鋸筋 | 三角筋(中部) | 三角筋(前部) |
2位 | 小胸筋 | 棘上筋 | 大胸筋(上部) |
3位 | - | 前鋸筋 | 上腕二頭筋 |
4位 | - | 僧帽筋 | 前鋸筋 |
前鋸筋の触診方法
肩関節を90度屈曲した状態から、さらに前方に上肢を突き出すようにして肩甲骨を外転させ、前鋸筋を収縮させます。
これは辛うじて届く物に手を伸ばすような動きに似ています。
手を前鋸筋の起始部である第1-8肋骨の外側面中央部に当て、筋収縮を触知していきます。
ストレッチ方法
腹臥位の肘立て位にて肩甲骨内側縁を浮き出させます。
前鋸筋の上部は肩関節屈曲20度、中部は屈曲45度、下部は屈曲90度にて選択的にストレッチできます。
筋力トレーニング
重りを握った手を天井に向けて押し上げていき、肩甲骨を外転させていきます。
他の方法として、四つ這いの姿勢から両手で床を押すようにして、前鋸筋を収縮させる方法などもあります。
アナトミートレイン
前鋸筋はSPL(スパイラル・ライン)の筋膜経線上に属する筋肉です。
肩甲骨の深層で菱形筋と前鋸筋は強く接続しており、両筋は肩甲骨自体への付着よりも強力に深筋膜を介して連結します。
関連する疾患
- 長胸神経麻痺
- 斜角筋症候群
- 肩関節不安定症 etc.
長胸神経麻痺と翼状肩甲骨
前鋸筋は僧帽筋と共同して肩甲骨内側縁を胸郭に引きつけ、安定させる作用を持っています。
しかし、長胸神経麻痺などで前鋸筋が機能不全を起こすと、肩甲骨内側縁が浮き上がる翼状肩甲骨が起こります。
肩甲骨はすべての肩関節運動の土台となるため、肩甲骨に動きが障害を受けると、肩関節の不安定性を増すことになります。
長胸神経が損傷する原因として、腕を急激に振り抜くような動き(テニスのサーブやゴルフのスイングなど)があります。
斜角筋症候群
斜角筋隙(別名:斜角筋三角)は、①前方を前斜角筋、②後方を中斜角筋、③下方を第一肋骨にて構成する三角の空間になります。
斜角筋の過度な緊張などによって狭小化されることにより、腕神経叢が圧迫されて神経症状を起こした状態を斜角筋症候群と呼びます。
斜角筋隙で神経が圧迫されている場合、長胸神経も含まれていますので、翼状肩甲骨が起こることになります。
しかし、前鋸筋以外にも多くの筋肉が機能不全を起こすため、その他の症状についても確認しておくことが必要です。
斜角筋が過度な緊張を起こす原因として、頭部前方偏位などの不良姿勢により、持続的な負荷が加わることで筋疲労が起きている場合があります。
また、COPDなどの呼吸器疾患により、斜角筋によって努力性吸気が起きている場合も過度な緊張を引き起こす原因となります。
肩関節不安定症
前鋸筋は僧帽筋と協同して、肩甲骨の上方回旋および後傾に作用する重要な筋肉です。
しかしながら、前鋸筋(僧帽筋下部線維も)は非常に弱化しやすく、機能不全が存在すると僧帽筋上部が過剰に働くシュラッグサインが陽性となります。
そのようなケースには前鋸筋や僧帽筋下部線維の筋力トレーニングが必要であり、出力を高めることで肩関節の挙上が可能となる場合もあります。
肩関節下垂位で後方から観察したとき、肩甲骨内側縁が胸郭から浮き上がった所見があるときは、前鋸筋の機能不全を疑うことができます。