原樹投手に捧ぐ!肩甲下筋の肉離れの原因と治療法について解説

7月6日に東京ヤクルトスワローズの原樹理投手(22)が肩甲下筋の肉離れと診断され、3-4週間は投球中止(ノースロー)となることが発表されました。

そこで今回は、肩甲下筋の肉離れの原因と治療法について解説していきます。

肩甲下筋の肉離れは稀

私は理学療法士として整形外科に勤めていた経験もあるのですが、肩甲下筋の肉離れと診断された人は残念ながら見たことがありません。

おそらく投手に起こる特徴的な肉離れのひとつなのだと思います。

肩甲下筋は肩甲骨の表側全面に付着している筋肉であり、肩関節を内旋させる方向に働きます。

肩甲下筋|正面

投球動作の中の加速期で損傷した?

投球動作

引用画像(1)

上図は投球動作の一連の流れを相に分けて分類しているものですが、原樹投手はおそらく加速期に肩甲下筋の肉離れを起こしたと考えられます。

加速期は手が最も後ろに引かれた状態(肩関節最大外旋位)から、急激に肩関節内旋させてボールをリリースするまでの時期を指します。

おそらくはこの時期に疲労が蓄積していた肩甲下筋が負荷に耐え切れず、肉離れが起きてしまったのだと推察されます。

肉離れとはそもそも何か

肉離れを医学的に解説すると、筋肉を包んでいる膜(筋膜)に傷がついた状態であり、筋膜が損傷すると痛みや出血が起こります。それが肉離れです。

似たような障害に筋断裂がありますが、こちらは筋膜の中にある筋線維の微細断裂が原因であり、肉離れよりも重症といえます。

肉離れの原因として、①柔軟性の低下、②筋力の低下、③筋肉のアンバランス、④水分摂取の不足、⑤過剰な早期復帰などが挙げられます。

原樹投手は6月29日の登板でも右肩の違和感のために緊急降板していましたので、その時にはすでに予兆があったのだと思います。

四週間のノースローは最適な診断か

損傷した筋肉(筋膜)はすぐに再生が始まり、軽症例の場合は一週間後には50%、一カ月以内には100%まで回復します。

なので、3-4週間のノースローは完全な回復まで待つための判断かと思いますが、通常ならもう少し早い段階から肩を慣らしていくことが多いです。

今回の場合は、まだ一年目の若手であり、肉離れは再発をきたしやすい障害ということを考慮し、やや慎重にリハビリを進めていく方針なのかもしれません。

どのようなリハビリを行うべきか

原樹投手はドラフト1位の新人であり、周囲からの期待も非常に大きかったことは容易に想像がつきます。

そのような環境の中ですぐに一軍で登板し、これまでにないほどのストレスや疲労を感じていたのかもしれません。

肉離れのリハビリにおいて最も重要なことは、再発を起こさないことです。前述したように、その原因には過剰な早期復帰が含まれています。

そのため、まずはしっかりと休養することが第一であり、身体をまた少しずつ作り上げていくことから始めるべきだといえます。

具体的には、筋肉のアンバランスを整えることが必要で、肩甲下筋の拮抗筋は棘上筋、棘下筋、小円筋の三つであり、これらとのバランスが重要になります。

通常、内旋筋(肩甲下筋)と外旋筋(棘上筋,棘下筋,小円筋)の横断面積はほぼ等しく、これらが同時に張力を発揮することで肩関節は安定します。

腱板構成筋全体における最大発揮張力の割合を数値化すると、肩甲下筋53%、棘下筋22%、棘上筋14%、小円筋11%となっています。

おそらく原樹投手の場合は、投球時に肩甲下筋に疲労が蓄積しやすい状態にあり、筋出力が低下してバランスを保てなくなったことが原因のひとつと推察されます。

なので運動プログラムとしては、肩甲下筋の持久性を高めるトレーニングを中心に、投球フォームの微調整が必要になるかもしれません。

おわりに

肉離れは原因を正しく特定し、十分なリハビリが実施されないことには競技復帰後に違和感を感じたり、再発を繰り返すことになります。

ここまで書いてきたことはあくまでニュースから得た情報より推察した一因に過ぎませんので、実際の原因は他にも多くのことが関係しているかと思います。

復帰までに十分なリハビリが行われ、更なる進化を遂げた原樹投手が復帰することを陰ながら祈っております。

引用画像/参考資料


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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