嚥下障害のリハビリ治療について解説していきます。
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嚥下障害の概要
嚥下障害とは、疾病や老化などの原因により飲食物の咀嚼や飲み込みが困難となった状態をいいます。
主な症状としては、①むせる、②飲み込めない、③食べ物が喉に残るといった症状が認められます。
嚥下障害を起こしやすい疾患として、脳卒中や頭部外傷、パーキンソン病、筋委縮性側索硬化症などがあります。
嚥下障害の検査方法
セラピストが実施できる検査方法
反復唾液嚥下テスト | 30秒間に唾液(ツバ)を何回飲めるかを調べる。2回以下で嚥下機能の低下と判断される |
改定水飲みテスト | 水を飲んでむせるかどうかを調べる。むせの他にも嚥下反射の有無、呼吸や声の変化を確認する |
食物テスト | 少量のプリンを食べてむせるかどうかを調べる。むせの他にも嚥下反射の有無、呼吸や声の変化を確認する |
医師が実施できる検査方法
嚥下造影(VF)検査 | レントゲンに写る飲食物を飲み込んでもらい、その通過状態を調べる。X線を用いるために被爆がある |
嚥下内視鏡(VE)検査 | 鼻から小さいカメラを挿入して喉の中を直接映像で確認する。VFと異なり被爆がない |
誤嚥と誤飲の違い
誤嚥は食べた物が食道ではなく、誤って気管(肺)のほうにいってしまうことを指します。それが原因で起こる炎症を肺炎と呼びます。
経口摂取をしていない場合でも、唾液誤嚥により誤嚥性肺炎を引き起こすがあるため、それらも嚥下障害の治療対象となります。
それに対して誤飲は飲食物ではないモノを誤って飲み込むことです。なので、気管にいくわけではなく、食物と同様に胃にいきます。
子供がおもちゃを飲み込んでしまう場合や、認知症の方が飲食物ではないと理解できずに口に入れて飲み込んでしまう場合などがあります。
トロミ調整食品について解説
水やお茶などはむせやすいので、誤嚥しないようにトロミを付ける場合があります。その粉をトロミ調整食品といいます。トロミ剤や増粘剤とも呼ばれます。
トロミの強さは濃度で表現される場合が多く、99gの水に1gのトロミ剤が溶けている場合は、濃度1%のトロミ水と表現します。
濃度に関しては1%と3%で誤嚥リスクに差がないとも報告されているため、1%が基準であると考えていいと思います。
トロミの必要性や食事形態の変更に関しては、むせる回数(確率)が指標となりますので、むせが多い飲食物ほど形態を整える必要があります。
嚥下のメカニズム(5期モデル)
食物を摂取するまでの段階を5つに分類した方法を5期モデルと呼びます。その流れは以下になります。
時期 | 内容 | 主な疾病 |
先行期 | 食物を認識する段階。食事前に視覚及び嗅覚で食物を認識し、その後の摂食に備えて唾液が分泌される | 認知症 |
準備期 | 食べ物を口の中に取り込み、咀嚼して飲み込みやすい食塊に整える段階。咀嚼筋の麻痺で障害される | 脳卒中 |
口腔期 | 食塊を喉に送り込む段階。舌で口の天井に押し付けながら喉へ流し込んでいく | 脳卒中 |
咽頭期 | 食塊が喉を通過する段階。鼻に食塊が侵入しないように鼻と喉の空間を閉じる | 脳卒中 |
食道期 | 食塊が食道を通過して胃へと送られる段階。食道の蠕動運動によって胃へと送られる | 食道がん |
嚥下時期による誤嚥の分類と特徴
5期モデルにおける先行期や準備期の障害は、厳密には嚥下障害には含まれないため、ここでは嚥下時期で分類した方法を記します。
嚥下障害は主に誤嚥が治療対象となりますが、誤嚥がどの時期に起こっているかを正確に把握しておく必要があります。以下に時期別の分類と特徴を記します。
時期 | 特徴 |
嚥下前誤嚥 | 嚥下反射が生じる前に早期咽頭流入によって誤嚥が生じる |
嚥下中誤嚥 | 嚥下反射が生じたとしても、咽頭蓋閉鎖不全、声門閉鎖不全などにより、気道に侵入する |
嚥下後誤嚥 | 食道入口部開大不全や嚥下圧不足により、嚥下反射後に咽頭下部の食道入口部付近(梨状窩)に嚥下物が残留し気道に侵入する |
嚥下障害の原因と治療法
以下に嚥下前、嚥下中、嚥下後に生じる誤嚥の原因と、それに対する代償法及び治療法について記載していきます。
早期咽頭流入(嚥下前誤嚥)
原因 | 嚥下前に発生。奥舌挙上による舌口蓋閉鎖が不十分 |
代償法 | 増粘剤などで食塊のスピードコントロール |
治療法 | 舌運動練習(下顎コントロールを含む) |
咽頭蓋閉鎖不全(嚥下中誤嚥)
原因 | 嚥下中に発生。舌骨・咽頭の前上方挙上が不十分 |
代償法 | 頸部前屈法、頸部回旋法、努力嚥下、息こらえ嚥下 |
治療法 | 舌骨上筋群強化、頸部筋緊張調整、舌骨下筋群伸張、メンデルソン手技、裏声発声法 |
食道入口部開大不全(嚥下後誤嚥)
原因 | 嚥下後に発生。舌骨・咽頭の前上方挙上が不十分、輪状咽頭筋弛緩不全 |
代償法 | 一回摂取量の調整、交互嚥下 |
治療法 | 徒手的咽頭前上方挙上運動、バルーン拡張法、輪状咽頭筋切離術、ボツリヌス毒素 |
嚥下圧不足(嚥下後誤嚥)
原因 | 嚥下後に発生。舌根後退・咽頭収縮不足、舌口蓋閉鎖・鼻咽腔閉鎖不全 |
代償法 | 頭部前屈法、努力嚥下、口蓋床作成(高口蓋に対する補高装具) |
治療法 | 舌突出嚥下練習、吸綴運動、ブローイング |
リハビリテーション
嚥下に関するリハビリは大きく分けて、間接訓練と直接訓練に分類できます。
間接訓練とは、飲食物を使用せずに呑み込みの練習を実施する方法です。セラピストが関わるのはほとんどが間接訓練だと思います。
直接訓練とは、飲食物を使用して飲み込みの練習を実施する方法です。誤嚥を起こすリスクがあるため、医師などと協力して管理された環境下で実施します。
嚥下障害に対する間接訓練
1.唾液腺のマッサージ | |
目的 | 刺激によって唾液の分泌を促す |
方法 | 施術者は耳下腺、顎下腺の位置に指を当て、軽く圧迫しながら円運動を描くようにマッサージを実施 |
2.舌運動練習 | |
目的 | 奥舌挙上による舌口蓋閉鎖を促す |
方法 | 舌面を舌苔除去器具に密着するように説明し、器具の動きに追従させる |
3.筋緊張調整 | |
目的 | 嚥下諸器官のリラクゼーション |
方法 | 嚥下筋、肩甲舌骨筋、舌骨上・下筋などに加えて、頸部周囲筋群の持続伸張 |
4.筋力強化 | |
目的 | 嚥下諸器官の運動で嚥下前の準備を行い、食べ始めに誤嚥を防ぐ |
方法 | 舌苔除去器具にて抵抗を加えながら、舌の前方突出、引っ込め、側方運動などの舌筋強化を行う |
5.アイスマッサージ | |
目的 | 嚥下反射遅延に対し、反射誘発部位に冷却刺激を与えて嚥下反射を促通 |
方法 | 綿棒やブラシなどの先を氷水に浸し、軟口蓋、奥舌、咽頭後壁を数回左右に刺激し、閉口させ嚥下するように促す |
6.裏声発声法 | |
目的 | 咽頭周囲筋を自発的に動かしてもらうことで筋力を強化して挙上範囲を拡大する |
方法 | できるだけ高音域(裏声)を発声してもらうように促す。最も高音が出たところで数秒間発声を維持 |
7.メンデルソン手技 | |
目的 | 咽頭挙上量を増加させ、挙上時間を延長させる。食道入口部の開大幅は増加し、開大時間も延長する |
方法 | 空嚥下(アイスマッサージ)または、少量の水分かゼリーを用い、息をこらえて舌を上顎に押し付けるようにして嚥下させ、咽頭を最も高い位置で数秒間とめるよう指示 |
8.声門閉鎖訓練 | |
目的 | 反回神経麻痺で声帯の麻痺が出た場合、健側の声門を内転させることで声門閉鎖を促し、気道防御能力を高める |
方法 | 座位にて壁などを押して上体に力を入れながら、強く喉に力を入れて発声する |
9.声門閉鎖嚥下 | |
目的 | 嚥下時の声門下圧をあげることで咽頭侵入や誤嚥を防ぐ。また、嚥下後に咳を意識的に行うことで、誤嚥物を喀出する |
方法 | 空気の嚥下やアイスマッサージ後、また少量の水分などを使用することもある。嚥下前に吸気を行い、しっかり息をこらえてから嚥下し、嚥下後に咳をする |
10.頭部挙上訓練 | |
目的 | 咽頭を挙上させる舌骨上筋群を強化し咽頭挙上運動、および食道入口部開大を促進 |
方法 | 仰臥位で両肩をつけたまま、爪先をみるように頭部のみを挙上する |
嚥下訓練のエビデンス
ここまでに嚥下訓練をいくつか紹介してきましたが、実際はこれらの嚥下訓練のうち、有効性が確かめられたものはほとんどありません。
むしろ、起立-着席運動の方が嚥下障害の改善には有効であると唱える医師もいるほどです。
リハビリの時間も限られていますので、効果判定を随時行いながら患者にとって最も利益のある運動プログラムを組んでいく必要があります。
常時開口位の症例
寝たきりなどのケースでは、常時開口状態となって誤嚥性肺炎を繰り返している場合が少なくありません。
そのような症例には、下顎アライメント修正、舌骨・咽頭のモビライゼーション、舌骨上・下筋群の伸張などを行い、閉口を促すアプローチを実施していきます。
閉口ができるようになることで細菌やウイルスの取り込みを軽減することができ、肺炎予防に効果があると考えられます。
経口摂取が難しい場合の対応方法
胃瘻栄養法
嚥下が困難な患者に対しては、お腹に穴をあけて、そこから直接的に栄養を入れる胃瘻栄養法が適用されます。
単純に胃瘻と呼んだり、PEG(ペグ)と呼ばれる場合もあります。胃に直接挿入されるので、口から喉、食道の段階で問題がある場合の適応となります。
中心静脈栄養法
血管には動脈と静脈がありますが、その静脈から栄養を取り入れる方法です。静脈には中心静脈と末梢静脈があり、前者から挿入します。
食事のみでは栄養を補えない場合に、中心静脈栄養法を併用して実施されることもあります。高カロリー輸液と呼んだり、TPNと呼ばれる場合もあります。
中心静脈栄養法は経口摂取や胃瘻と比較して血清アルブミン値が上昇しにくい性質があるため、それだけで栄養状態を良好に保つには不向きとされています。
血清アルブミン値とは血液(血清1㎗あたり)に含まれるたんぱく質の量(g)を指しており、一般にこの値が栄養状態の目安とされます。
栄養状態が不良の人では3.5g以下になるとされており、簡易的に栄養状態を把握するために重宝されます。