変形性膝関節症で腰痛が発生する理由~重心と支持基底面~

変形性膝関節症により膝関節に伸展制限が発生すると、ゆくゆくは腰痛を発生する原因となります。その発生機序を重心と支持基底面を用いて、わかりやすく解説していきます。

重心が最も安定する位置

立位をとって移動する動物が少ないのは、立位というのは支持基底面が狭いため、それだけバランスをとることが難しいからです。

しかし、うまくバランスさえとることができたら、筋肉や関節にほとんど負担をかけることなく、何時間も立つことが可能となります。

そのためには、各関節がロックされる位置にあり、かつ支持基底面のど真ん中に重心が来るように設置する必要があります。

下記はヒトを横側から見た場合の棒絵で、脊椎などはS字に彎曲してはいますが、支持基底面はど真ん中にきています。

とくに大切なの脊椎、股関節、膝関節、足関節であり、このどれかひとつでも障害を受けたら、安定した立位をとることが困難となります。

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膝関節に屈曲拘縮が生じた場合

例えば、膝関節が変形して屈曲拘縮が起きた場合、重心は支持基底面の後方に移動します。重心が後方にある場合は、身体がうしろに倒れるのを防ぐために、身体の前面にある筋肉が活動します。

膝関節が屈曲している場合は、とくに大腿四頭筋や前脛骨筋が働いてバランスをとろうとします。この活動は、重心が後方に移動するほど顕著となっていきます。

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重心を中心に移動するための方法

重心が後方にある場合、筋肉への負荷が大きくなるために疲労しやすい状態となります。そのため、ヒトは無意識のうちに重心を中心に保とうと調整します。

その方法として最もとられるのが、脊椎を屈曲させる方法です。背中を丸めることで重心を前方に移動させて、膝関節屈曲で移動した分を補おうとするのです。

実際に自分の体をつかって試してみるとわかるのですが、重心が真ん中に移動することにより、筋活動が大幅に抑えられるので姿勢保持が楽になります。

ただし、この方法では関節(とくに脊椎、膝、足)に負担を逃がすことになり、骨などの変形を助長してしまうことになります。

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脊椎へのストレスが蓄積した場合

膝関節の屈曲拘縮を脊椎の屈曲で代償した場合、結果的に背骨が潰れて円背となってしまう可能性があります。

その結果、徐々に重心は前方に移動していき、身体の後面に位置する筋肉(とくに脊柱起立筋)に過度な活動を要求することになります。

そうすることで、結果的に背筋群は緊張状態が続き、腰痛が発生してしまうことになるのです。

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脊柱起立筋への負荷を減らす方法

背骨が潰れてしまっている場合、手術でもしない限りは脊椎を矯正して重心を真ん中に持っていくことは不可能となります。

重心が前方に位置したままでは、立位をとる度に筋肉に疲労が蓄積していき、歩くのが苦となってやめてしまう危険性もあります。

そんな問題を解消するためにも、補助具を使用して支持基底面を真ん中に持っていく方法が推奨されます。最も採用される方法として、シルバーカー(押し車)があります。

押し車を把持することにより、従来よりも支持基底面を前方に広げることができ、身体重心を真ん中に保つことができるようになります。

そうすることで、背筋群の過活動によって出現していた腰痛を軽減することが可能となります。

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おわりに

ここでは膝関節を例にして解説していきましたが、身体のあらゆる部位の障害で代償姿勢というのは発生します。

それが結果的にどのような悪影響をきたすかを考え、将来的に起こりうる障害を予防していくことがとても大切です。

そのためにも、まずは姿勢を評価して、どの部位に負荷がかかっているかをしっかりと見極めていくことが大切ではないでしょうか。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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