腰痛を治療するうえで重要な筋肉である「多裂筋」ですが、どうして多裂筋を鍛える必要があるのかについて解説していきます。
多裂筋はインナーマッスル
多裂筋はいわゆるインナーマッスル(深層筋)であり、深層筋の主な作用は関節の安定性を保つことです。
肩関節の腱板をイメージしていただくと理解しやすいですが、棘上筋は上腕骨頭を肩甲骨(関節窩)に引きつける役割を持ちます。
もしも棘上筋の収縮が不十分になると、肩関節を外転させた際にグローバルマッスル(表層筋)である三角筋が優位に働くことになります。
表層筋が優位になると関節運動が正常の軌道から外れてしまい、肩関節の場合は上腕骨頭が上方にブレて棘上筋腱を挟み込んでしまいます。
そのため、表層筋が強く働きすぎている状態というのはリスクが高く、表層筋を働かせるときは同等に深層筋が働く必要があるわけです。
下位腰椎は多裂筋が大きい理由
中位腰椎よりも上は多裂筋よりも脊柱起立筋のほうが大きいですが、下位腰椎では深層の多裂筋のほうが大きくなっています。
このことがなにを意味しているかというと、下位腰椎は運動よりも安定性を保つことのほうが重要だということです。
ハムストリングスが硬いのにも関わらず、立位前屈が床につく人がたまにいますが、こういったケースでは下位腰椎が過剰に屈曲していたりします。
そのような人は下位腰椎の椎間板が潰れやすく、非常に腰痛を引き起こしやすい状態にあるといえます。
あくまで下位腰椎は安定性が重要であり、動きが乏しいからといって無理に可動性を上げると新たな問題を生じさせる原因になりかねません。
仙腸関節もそうですが、安定性を担っている関節というのはわずかに動くだけでよく、過剰な動きはむしろ害になります。
多裂筋の機能不全は腰の硬さを招く
あまり力が必要ない動き(普段の生活で使用する程度)では、表層筋を強く使用することはありません。
しかしながら、深層筋が機能不全に陥っているケースでは、表層筋を働かせることで補完している状態にあります。
基本的に表層筋は白筋線維(速筋線維)が豊富であり、瞬発的なパワーを出すのには向いていますが、持続的に働くことには向いていません。
それにもかかわらずに収縮が求められ続けると、徐々に表層筋は硬くなっていき、痛みを起こすことにつながります。
多裂筋の表層筋は脊柱起立筋ですので、腰が硬いようなら多裂筋の機能不全を疑うことができるわけです。
多裂筋を鍛えるときの注意点
多裂筋を鍛えようと考えたときに収縮が最も入る運動を選択するのは当然ですが、そのときに大切なのは脊柱起立筋に収縮を入れないことです。
理由としては、すでに疲労している表層筋を働かせてしまうと、さらに疲労が蓄積して痛みが増すことになってしまうからです。
そのため、短絡的に収縮が強く入るとされている運動を選択するより、その人の状態に合わせて低負荷な運動から始めることが推奨されます。
深層筋を鍛えるには低負荷高頻度が推奨されていますが、そこには表層筋を使用させすぎないといった前提が存在しているわけです。
まずは座位で骨盤を前傾させる程度の運動から開始してもいいですし、痛みが生じない範囲で負荷を調整していくようにします。
また、四つ這いから上下肢を挙上させて姿勢を保持する運動や、バランスボールを使用したトレーニングなども効果的です。
理由としては、それらの運動は表層筋を使いすぎると姿勢をうまく保てないため、必ず深層筋で細かい動きをコントロールする必要があるからです。
深層筋を鍛える前に実施すること
深層筋を働かせるためには表層筋が十分に緩んでいる必要があるため、まずは硬くなっている表層筋をリリースすることから開始します。
具体的には、腰部表層(脊柱起立筋)で圧痛がある場所や滑りが悪くなっている場所を探し、手を置いて軽い圧迫と伸張を加えます。
その状態を筋肉(筋膜)が緩むまで保持し、完了したら脊柱起立筋の外縁を剥離するイメージで組織間リリースを行います。
ここまでの作業が完了してから多裂筋のトレーニングを実施することで、より効果的に収縮を促していくことが可能となります。
表層筋と深層筋のバランスを整えることは肩関節でも膝関節でも重要となるので、ぜひ臨床でも実践していってください。