大腿骨転子部骨折の手術やリハビリ方法について、わかりやすく解説していきます。
この記事の目次はコチラ
大腿骨転子部の概要
大腿骨は人体で最大の長管骨であり、大腿骨頭は骨盤と股関節を構成しています。
大腿骨頚部と大腿骨体の境目には転子間線が存在し、前面にて大転子と小転子を結ぶ粗線として確認することができます。
この境目から小転子までを転子部と呼び、それより下方の5㎝ほどを転子下といいます。
転子部は転倒時にまず衝撃を受ける場所であるため、大腿骨頚部骨折よりも約1.7倍の発生率があります。
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大腿骨近位端骨折の分類
大腿骨近位端の骨折は、関節包内骨折(大腿骨頭骨折・頸部骨折)と関節包外骨折(大腿骨転子間骨折・転子部骨折・転子下骨折)に大別されます。
関節包外骨折は包内骨折と比較して血液循環が良好なため、骨癒合が得られやすい状態にあります。
そのため、大腿骨大転子部骨折や転子下骨折の手術では、骨接合術が選択される場合が多いです。
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①骨頭骨折 | 包内骨折 |
②頸部骨折 | ||
③転子間骨折 | 包外骨折 | |
④転子部骨折 |
手術療法
関節包外骨折の場合は骨接合術が選択されやすいですが、Gardenの分類でstageⅢ以上では人工骨頭置換術が選択される場合もあります。
診療ガイドラインにおいては、ステージⅢで転位があっても大腿骨転子部骨折の場合は骨接合術を行うように推奨されています。
転子部には筋肉の付着が多いため、骨接合術では骨折部をしっかりと固定することができるCHS固定法や髄内釘固定法が選択されます。
CHS固定法
CHS固定法(Compression Hip Screw:CHS)は骨接合術の一種です。
大腿骨頭にスクリューを挿入し、これと結合したプレートを大腿骨幹部の外側に取り付けて固定します。
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髄内固定法
髄内固定法(Proximal Femoral Nail:PFN)は骨接合術の一種です。
骨の中心部にある髄腔に骨端から金属製の長いロッド(棒)を打ち込みます。
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保存療法は推奨されない
転位のない大腿骨転子部骨折では保存療法も選択可能ですが、診療ガイドラインにおいては骨接合術を実施するように推奨されています。
理由として、大腿骨転子部や転子下には筋肉の付着が多く、筋収縮によって離開させる方向に働いてしまい、癒合不全を起こす場合があるからです。
例外として、骨折部が大転子のみで転位が存在しない場合だけは、保存療法にて良好な結果が得られやすいです。
受傷前より寝たきりで歩行不能な場合や、理由があって手術が実施できないケースでは高い確率で偽関節を形成します。
術後合併症の発生率
大腿骨骨折に対して骨接合術を実施した場合に、主な合併症の発生率は以下のように報告されています。
また、内科合併症としては「肺炎」や「心疾患」が多く、術後の死亡原因では肺炎が30-44%で最大となっています。
合併症 | 発生率 |
深部静脈血栓症 | 31-50% |
偽関節/骨癒合不全 | 0.8-2.9% |
骨頭壊死 | 0.3-1.2% |
深部静脈血栓症の症状
深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)の代表的な検査方法に、ホーマンズ徴候があります。
方法として、膝を伸展した状態で足首を背屈することにより、ふくらはぎに不快感が生じたら陽性とします。
感度も特異度も高くないために決定的な方法とはいえませんが、DVTを疑う徴候として知っておいた方が良いです。
より信頼性のある方法として、以下に示す5つの症状のうち3つ以上が該当し、他の疾病の可能性が除外できる場合はDVTの可能性が高いです。
1 | 脚の圧痛 |
2 | 脚全体の腫脹 |
3 | 両ふくらはぎ間の3cmを超える外周差 |
4 | 圧痕浮腫 |
5 | 表在性の側副静脈 |
深部静脈血栓の予防法
深部静脈血栓の予防として、術後の臥床中にベッドにて足関節の底背屈運動、下肢筋力のトレーニングを積極的に行うことが有用です。
臥床中の患者には、看護師を見かける度に足首を上下に30回ほど動かすように指導しておくといいと思います。
発生率が30%以上と非常に高い合併症であり、血栓が剥がれて肺に跳ぶと肺塞栓症を引き起こして命に関わるため注意が必要です。
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リハビリテーション
具体的な方法については文献によってバラつきがみられますが、特別なリハビリが有効であるというエビデンスはありません。
そのため、以下のオーソドックスな治療プログラムにてリハビリは進めていきます。
方法 | 内容 |
運動療法 | 筋力トレーニング、関節可動域運動、ADL動作練習 |
歩行訓練 | 段階的歩行練習 |
筋力トレーニング
大腿骨転子部には数多くの筋肉が付着しているため、転子下骨折ほどではありませんが、筋収縮によって離開や骨癒合不全が生じる場合があります。
そのため、周囲筋の状態については確認し、その張力についても考慮する必要があります。
以下に、転子部付近に起始停止を持つ筋肉を列挙していきます。
大腿骨に起始がある筋肉
筋肉 | 起始部 |
中間広筋 | 大腿骨の前面および外側面 |
内側広筋 | 大腿骨転子間線から伸びる大腿骨粗線の内側唇 |
外側広筋 | 大転子の外側面、転子間線、殿筋粗面および粗線の外側唇 |
大腿骨に停止がある筋肉
筋肉 | 停止部 |
大腰筋 | 小転子 |
腸骨筋 | 小転子の下方 |
大殿筋(上側) | 殿筋粗面 |
中殿筋 | 大転子の尖端と外側面 |
小殿筋 | 大転子の前面 |
梨状筋 | 大転子の尖端と内側面 |
内閉鎖筋 | 大転子の転子窩 |
外閉鎖筋 | 大転子の転子窩 |
上双子筋 | 大転子の転子窩 |
下双子筋 | 大転子の転子窩 |
大腿方形筋 | 転子間稜 |
大腿骨の部位名称
1.前方から見た大腿骨 |
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2.後方から見た大腿骨 |
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骨折部位と付着している筋肉を確認したら、次は筋収縮によって骨がどのように動くのかを確認していきます。
離開させる方向に働く場合は筋活動は抑制させ、圧縮方向に働く場合は仮骨形成後の骨癒合を促進させて関節の安定化に寄与するので積極的に収縮させます。
骨接合術後はしっかりと固定されているので期離床が可能となります。
関節可動域運動
骨折に伴う周囲組織の損傷部位や手術の切開部位などをまずは確認し、それらの癒着が起こらないように関節を動かしていきます。
痛み(炎症)がある時期に無理やりに動かすと組織を損傷させたり、炎症が長引くことにつながるので術後早期はマイルドに実施します。
また、周囲筋の緊張状態を確認しながら、緊張が高い筋肉には軽い収縮や圧迫を加えて緊張を取り除くようにアプローチしていきます。
とくに股関節の内転筋群や腸腰筋は緊張が高くなりやすく、可動域制限をきたす原因となるため、状態についてはよく観察しておきます。
また、術後は股関節外転筋(中殿筋)の弱化があるため、骨盤支持が乏しくなりやすく、股関節内転筋群の収縮により骨盤を支持しようとします。
その状態を続けることで内転筋群の緊張が亢進し、結果的に股関節の外転・伸展の可動域制限はさらに進行するといった悪循環が起こります。
その流れを断ち切るためにも、内転筋群のリリースや中殿筋の出力向上は関節可動域運動と合わせて必須項目といえます。
ADL動作練習
大腿骨頭置換術のように脱臼リスクはほとんどありませんので、ADL動作指導はそれほど時間をかける必要はありません。
術後早期から離床は可能となりますが、骨折部位や損傷組織に負担のかかる動作は痛みを伴い、炎症を長引かせるので注意が必要です。
歩行補助具などを使用して、無理のない範囲で実施できる実用的な動作方法を検討していくように調整します。
段階的歩行練習
骨接合術の場合は、翌日よりフリーでの早期荷重が可能となりますが、ほとんどの場合は段階的に荷重量を上げていきます。
歩行練習の目安としては、①平行棒(1-3日)➡②歩行器(4-7日)➡③押し車(8-14日)➡④杖(15-28日)と進めていく場合が多いです。
2週目以降は、痛みがないようなら積極的にトレッドミル歩行を実施していき、徐々に傾斜やスピードを上げていくことも有用です。
以下に、代表的な歩行補助具と免荷の割合について記載します。なお、歩行器はつま先のみを接地した場合になります。
方法 | 免荷(荷重) |
歩行器 | 80%(1/5) |
押し車 | 33%(1/3) |
T杖(一本杖) | 25%(3/4) |
退院後もフォローが重要
退院後も外来リハや通所リハなどを利用して、術後の半年間はリハビリを継続するように指導することが望ましいです。
診療ガイドラインにおいても、術後最低6ヵ月程度はリハビリテーション介入による機能回復が期待できるとする中等度レベルのエビデンスが示されています。
また、大腿骨骨折を生じた患者では対側の骨折リスクが非常に高いことから、在宅生活の状況確認から住宅改修まで含めて検討することが大切です。