姿勢分析は「運動連鎖」を理解したら簡単にできる

姿勢分析が苦手な人も多いかと思いますが、運動連鎖さえ理解してしまったら実は楽勝だったりします。

そして、運動連鎖には一定のパターンが存在します。そんな知ってるようで知らない運動連鎖の仕組みについて解説していきます。

運動連鎖はなぜ起きるのか

まずはなぜ運動連鎖が起こるかについてですが、その問いに簡潔に答えるなら身体を安定させるためといえます。

身体が安定している状態とは、重心が中央に位置している状態です。重心が中央にあると筋肉の無駄な収縮を必要としないため、疲労感が少ない姿勢となります。

また、筋肉に無駄な力が入っていなければ、急激な外力に対して即時に反応でき、柔軟に重心を移動させられるため、安定性のある姿勢ともいえます。

スポーツ選手の身体がやわらかいのも、そのほうが大きな動きでも重心を安定させることができ、高いパフォーマンスを発揮できるからです。

姿勢と運動連鎖は三方向から考える

姿勢を評価する際には、①前額面、②矢状面、③水平面から考えることが基本ですが、運動連鎖の評価も同じです。

どの面からもそれぞれに特徴的な運動連鎖が存在するため、まずは基本について理解しておくことが重要です。

重心がどのように移動しており、周囲の関節がどのように動いたら相殺できるかを考えるだけなので、運動連鎖を理解することはさほど難しくはありません。

矢状面から運動連鎖をみる

わかりやすく下から見ていくと、足関節が背屈すると重心が前方に移動するので、膝関節が屈曲して重心を戻します。

膝関節が屈曲すると股関節が屈曲するので、骨盤が後傾します。骨盤が後傾すると腰椎が屈曲するので脊椎が後弯します。

脊椎が後弯すると重心が前方に移動するので、頭部が過伸展します。

これらの一連の流れはどこから起きても上下に波及していきますので、運動が連鎖するといった表現をなされます。

姿勢分析と運動連鎖|矢状面

しかし実際は、健常者なら足関節が背屈になったからといって上行性に波及し、綺麗に頭部まで運動が連鎖するということはありません。

背屈角度がそれほど大きくない場合は体幹を伸展させて重心を戻すでしょうし、背屈角度が大きくても膝関節と股関節のみで対応するはずです。

それが頭部まで波及するということは、運動連鎖を起こす主要部位に制限や筋力低下があり、調節が難しくなっていることが予測されます。

高齢者の場合は腰が曲がってしまい、体幹の伸展が引き出せないがために足部や膝部の問題が頭部まで波及することも非常に多いです。

前額面から運動連鎖をみる

こちらもわかりやすく下から見ていくと、足関節が内反すると重心が外側に移動するので、膝関節が内反して重心を戻します。

膝関節が内反すると股関節が外転し、機能的脚長差が生じるので内反側に骨盤の傾斜が起こります。

骨盤が傾斜すると下位脊椎が側屈し、さらにそれを戻すために上位脊椎が反対側に側屈します。

上位脊椎が傾くと頭部の位置が正中位からずれてしまうため、頭部は上位脊椎とは反対側に側屈させて正中位を保持します。

極端な例ではありますが、このような機序をたどりながら、各部位で重心を調整しているケースもありえるということです。

姿勢分析と運動連鎖|前額面

実際には、足関節や膝関節の内反で機能的脚長差が生じても、骨盤の傾斜ではなく、反対側の下肢を屈曲させて調節したりします。

そのため、足関節の内反が頭部の位置まで連鎖的に波及するということ稀で、より下位にて調整し終えている場合が多いです。

水平面から運動連鎖をみる

最後に水平面からの運動連鎖ですが、こちらもわかりやすいように下からみていきたいと思います。

例えば先ほどのように足関節が内反した場合ですが、この内反という動きは足関節の底屈と内転の複合運動になります。

足関節が内転すると下腿は連動して内旋し、その動きを相殺するようにして大腿骨は外旋します。

大腿骨の外旋で相殺しきれなかった場合は骨盤が前方回旋し、それに連動して腰椎も回旋していきます。

下位脊椎の回旋を相殺するようにして、上位脊椎は反対側に回旋が生じ、脊椎には捻れが生じるようになります。

上位脊椎が回旋すると頭部の位置がずれますので、さらにそれを相殺するようにして頭部の回旋が生じることになります。

こちらも極端な例ではありますが、このような機序をたどりながら、各部位で重心を調整しているケースもありえるということです。

運動連鎖が波及する機序は同じで、近位部の運動連鎖で波及がすぐに止まる場合もあれば、止めきれずに頭部まで影響を与えることもあります。

姿勢分析と運動連鎖|水平面

運動連鎖で重心を調整できなかった場合

例えば、脊椎圧迫骨折のように関節の可動性が失われている場合、どれだけ他の部分で補おうとしても困難な場合があります。

そうすると、重心線がそれ以上にずれないために引き戻そうとする力が働くようになるのですが、その力というのが筋肉の収縮になります。

筋肉が持続的に活動している状態は疲労感が蓄積されやすいため、その姿勢を長く保つことは困難です。

また、姿勢を固めてしまっているので静的な安定性はあるのですが、動的な場面では途端に動揺性が大きくなって不安定となります。

これらは結果的に易疲労性や転倒リスクといったところにつながり、さらなる悪循環をきたしていく原因にもなります。

運動連鎖で姿勢を調整できない場合

運動連鎖で重心を調整できた場合

運動連鎖によって重心を調整できたなら、筋肉の収縮による調整が必要ありませんので、易疲労性などは基本的に生じません。

しかし、本来のポジションとは異なる位置に移動させられているため、場合によっては骨の変形などを助長させることにもなりかねません。

また、筋肉によっては短縮位や伸張位で保持されるので、その期間が長引くと短縮や血流障害などを招いてしまうこともあります。

なので必ずしも調整できているからいいのではなく、できる限りに本来のポジションに戻していくことが大切であるともいえます。

重心をどのようにして調節していくか

例えば、膝関節に伸展制限があった場合、原因が周囲組織の短縮にあるのなら、その短縮を改善させることがベストな治療といえます。

しかし、伸展制限の原因が骨の変形などによる不可逆性の変化であった場合、膝関節にアプローチしたところで改善は望めません。

その場合は膝関節の改善は諦めて、それを代償しうる足関節や股関節の可動性、姿勢を保持するための筋肉の強化が優先課題となります。

周囲だけの調整では難しい場合、さらに遠位の関節や補助具を利用して重心を調整し、足りない分を筋力強化で補うといった感覚で実施します。

それが結果的には疲労感の少ない実用的な姿勢を獲得するということであり、運動連鎖を活用した姿勢調整につながっていきます。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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