この記事では、尺側手根屈筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
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尺側手根屈筋の概要
尺側手根屈筋は前腕浅層の最も尺側に位置している筋肉で、起始を上腕骨と尺骨に持つため、上腕頭は二関節筋になります。
手関節を尺屈させながら掌屈するといった斜めの動きに作用し、豆状骨に付着することから同部より起始する小指外転筋の固定筋としても関与します。
スポーツ場面においては、手首のスナップを効かせた動き(バドミントンのスマッシュ、剣道の面を打つ動作)で使用されます。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 尺骨神経 |
髄節 | C7-8 |
起始 | ①上腕頭:上腕骨の内側上顆
②尺骨頭:尺骨の肘頭および後縁の上部1/3 |
停止 | ①豆状骨、頭中手靭帯
②第5中手骨底 |
動作 | 手関節の尺屈、掌屈 |
筋体積 | 37㎤ |
筋線維長 | 5.6㎝ |
速筋:遅筋(%) | 55.5:44.5 |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
手関節掌屈 |
手関節尺屈 |
1位 | 浅指屈筋 | 尺側手根屈筋 |
2位 | 深指屈筋 | 尺側手根伸筋 |
3位 | 尺側手根屈筋 | 小指伸筋 |
4位 | 橈側手根屈筋 | – |
前腕の断面図
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前腕中央を断面でみた場合、尺側手根屈筋は背面の尺骨側に位置していることがわかります。
尺側手根伸筋よりも外側に位置し、筋断面積もやや大きいため、手関節の尺屈に最も貢献する筋肉になります。
尺側手根屈筋の触診方法
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手関節の「掌屈+尺屈」方向に力を入れてもらい、手首の尺側にて尺側手根屈筋の腱が浮かび上がりますので触知します。
そこから腱をたどりながら肘方向に触知していくと、前腕近位にて筋腹が確認できますので、手関節の動きを反復して筋収縮を確認します。
前腕後面では上腕頭が、前面では尺骨頭が触知でき、外側が指を入れることで筋間中隔を触知することも可能です。
ストレッチ方法
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肘関節伸展・前腕回内・手関節背屈・手指屈曲位とし、反対の手を使って手関節を背屈及び橈屈させていきます。
筋力トレーニング
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立位にて上肢を伸展した状態でダンベルを握り、肘関節は伸展した状態で手首を尺屈・掌屈させていきます。
トリガーポイントと関連痛領域
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尺側手根屈筋のトリガーポイントは遠位1/3に発生し、関連痛は手関節内方から手掌部や小指に起こります。
尺側手根屈筋腱が痛い場合は、豆状骨を軽く触れるだけでも疼痛を訴えます。
重症例の野球肘(内側型投球障害肘)では、尺側手根屈筋に攣縮や圧痛を呈することがあり、その場合は肘部管症候群を併発します。
アナトミートレイン
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橈側手根屈筋はSFAL(スーパーフィシャル・フロントアーム・ライン)の筋膜経線上に位置しています。
関連する疾患
- 肘部管症候群(尺骨神経麻痺)
- 尺側手根屈筋腱断裂
- 尺側手根屈筋腱腱鞘炎
- 投球障害肘 etc.
肘部管症候群
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尺側手根屈筋は肘部管を構成する要素であり、同部にて尺骨神経が圧迫されて麻痺を起こした状態を肘部管症候群と呼びます。
原因は様々ですが、ガングリオンなどの腫瘤による圧迫や変形性肘関節症、野球や柔道などのオーバーユースによる周囲筋の過緊張で起こります。
肘部管症候群では尺側手根屈筋の麻痺に加えて、前腕部で分岐した背側枝【皮枝】と掌枝【皮枝】も感覚障害が起こります。