強直性脊椎炎のリハビリ治療

強直性脊椎炎(ankylosing spondylitis:AS)のリハビリ治療について考察します。

強直性脊椎炎の概要

誘引なく脊椎に炎症が発生し、徐々に強直していって可動性が失われていくことが本疾患の特徴になります。

原因は不明ですが家族内発生(10%)が認められることから、なんらかの遺伝的要因があると考えられています。

脊椎炎といった名称ではありますが、股関節や膝関節、眼や顎といった別の場所にも炎症が多発的に生じる場合も多いです。

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引用:図解入門 よくわかる腰痛症の原因と治し方

日本での有病率は10万人に6人ほどで非常に稀な病気ですが、他の腰痛症とは異なった特徴的な症状をきたします。

具体的には、①男性に多い(女性の3倍)、②好発年齢は40歳以下、③進行は緩徐、④運動によって症状が寛解するなどがあります。

腰痛以外にも仙腸関節痛や殿部痛、坐骨神経痛、胸部痛(肋間神経痛)などが発生し、痛む場所は日によって移動する場合も多いです。

運動によって痛みがやわらぐのは他の腰痛疾患にはみられない特徴のため、若年者で腰痛を訴える場合には注意して観察してください。

症状の経過について

発症初期には病状の波が激しく、痛みで寝込んでいたかと思うと、翌日にはスポーツができる場合も少なくありません。

重症例では初発から10~20年経過すると脊椎が動かなくなり、日常生活や就労に不自由さを感じるようになる場合もあります。

しかし、全員がその経過をたどるわけではなく(患者の2割程度)、多くの人は多少の支障はあっても通常の生活を送ることができます。

中には若年期にほとんど痛みや不便を感じることなく生活し、中年以降になってから受診してくるケースもあります。

 強直性脊椎炎|後面
 強直性脊椎炎|脊椎側面

強直性脊椎炎の治療法

現在はまだ有効な治療法が確立されておらず、患者によって症状が大きく異なることも多いので一概にこれがいいと決めることはできません。

基本的な方針としては、個々の病態を把握した上で炎症を抑えながら積極的に関節を動かし、不良肢位で関節が固まってしまうなどの二次的な障害を防ぐことが大切です。

股関節や膝関節などの痛みが激しく、歩行や日常生活に強い支障をきたすような場合には、人工関節全置換手術が行われることもあります。

リハビリテーションについて

日本には「AS友の会」というものが存在しており、そちらのウェブページで詳しい病態や運動療法については閲覧できます。

前述したように、患者によって症状が異なるため、まずはどの部位にどれだけの炎症が生じているかを確認することが重要になります。

そのうえで炎症が強い関節には負担のかかりにくい動作を指導し、変形や強直の進行をとどめるようにしていきます。

具体的には、関節に痛みがあると身体は丸まる方向(屈曲位)に固まるため、うつ伏せを定期的にとるなどして屈曲変形(後彎変形)を防止します。

就寝時はできるだけ仰臥位をとるようにし、枕はあまり高いものを使用しないほうが脊椎の自然なカーブが保たれやすくなります。

すでに強直している関節に対しては可動性の再獲得は困難となるため、近位関節の柔軟性を向上することが重要になります。

例えば、脊椎の強直に対しては股関節の可動性を十分に確保しておくことが必要で、そうすることで体幹の動きを代償することが可能です。

稀な疾患ではありますが、大切なのは患者の全体像をとらえることであり、基本的な部分は他の疾患を施術する場合と変わりありません。

症状は緩徐に進行することが予測されるため、将来的に不便のない生活が送れるように包括的なアプローチを心がけてください。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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