手指屈筋腱損傷のリハビリ治療について解説していきます。
この記事の目次はコチラ
手指屈筋腱損傷の概要
手指屈筋腱の損傷部位は、解剖学的特徴から5つの区分に分類されます。
手指はすべての部位で癒着のリスクが非常に高いことが特徴ですが、とくにゾーン2では深指屈筋腱(FDP腱)と浅指屈筋腱(FDS腱)が交差しています。
そのため、術後に腱の癒着が生じやすいとされています。
屈筋腱断裂では保存療法の適応はなく、断裂した腱を縫合する端々縫合術や腱移植術などの腱修復術が施行されます。
手指屈筋腱の損傷区分(国際分類)
ゾーン | 範囲 | 特徴 | |
指部 | 1 | 深指屈筋腱付着部以遠 | 深指屈筋腱の単独損傷、前進法での縫合法後はDIPの拘縮に注意する |
2 | 最近位の輪状滑車(A1)から浅指屈筋腱付着部まで | 腱鞘、滑車、FDS、FDPが損傷(創が浅いときはFDPは無傷)され、癒着が生じやすい。両腱の分離した腱滑走の獲得に努める | |
3 | 手根管遠位部からA1滑車まで | FDP腱から虫様筋が起始する部であり、内在筋拘縮の発生に留意する | |
母指部 | T1 | IP関節以遠 | 長母指屈筋の損傷、前進法でもIPへの影響は少ない、紐状構造がないため、腱断裂後早い時期に近位の断端腱の退縮が著明に起こる |
T2 | A1滑車からIP関節まで | ||
T3 | 母指球部 | ||
手部 | 4 | 手根管内 | 複数腱の損傷が多く、血管・神経も損傷されやすい。腱が密接しているため癒着が起きやすい |
5 | 手根管より近位 | 腱断裂後、早い時期に近位の断端腱が退縮する。腱が表在に位置するため、皮膚や軟部組織と癒着を起こす |
腱縫合術後のリハビリを実施する上で最も大切なことは、治癒に過程で生じる癒合を最小限に抑えることです。
損傷した部位は、骨や滑車、腱鞘、軟部組織、皮膚などの組織と癒着を生じます。
こうした癒着が進行すると、腱の滑走が障害されて手指の屈曲ができなくなるだけでなく、伸展も制限されることになります。
修復の治癒過程について
修復された腱の癒合は、腱周囲組織、特に腱鞘から線維芽細胞が進入するextrinsic healingと、腱そのものが作り出す膠原線維によるintrinsic healingによって行われます。
この癒合は、次の3つの過程を経て成熟することが明らかになっています。
1.炎症期
膠原線維はほとんどみられず、縫合糸によってのみ縫合腱の連続性が保たれています。
術後5〜10日は腱縫合部の抗張力が低下し、再断裂を起こしやすいので注意してください。
2.コラーゲン生産期
膠原線維は増殖していますがまだ癒合は極端に弱く、縫合部への力の負荷により容易に断裂します。
3.再構築期
腱断端で無作為に形成された膠原線維は長軸方向に沿った新生膠原線維に徐々に置き換わり、腱引っ張り強度を増していき、縫合部へ徐々に抵抗をかけても断裂しなくなります。
リハビリテーション
1.安静期(術後3週間以内)
方法 | 内容 | ||||||
装具療法 | ギプス、スプリント | ||||||
生活指導 | 屈筋腱の緊張を緩めた状態で手挙上位を保つ | ||||||
運動療法 | 縫合部が離開しない肢位での周辺関節の運動 |
2.回復期(術後3-7週)
方法 | 内容 | ||||||
装具療法 | 背側スプリント、半シャーレ | ||||||
運動療法 | マイルドな自動屈曲運動、伸展運動、手関節の屈伸運動、スポンジなどの軽い物体の把持動作、blocking ex |
3.積極的な運動期(術後7週以降)
方法 | 内容 | ||||||
装具療法 | 屈曲拘縮改善に用いる装具(joint jack、背側アウトリガースプリントなど) | ||||||
生活指導 | 背側スプリントは除去してADLでの軽い活動で手の使用を始める | ||||||
運動療法 | 腱滑走運動、ストレッチ、筋力強化 |
背側装具を作成する
手術後はギプスシーネで固定するか、または早期に装具を作製して対応します。
ギプスシーネで固定する方法は3週間固定法と呼ばれ、通常は3週間の固定を原則として用いられます。
固定除去後より手指自動伸展、他関節を屈曲位で1関節ごとの他動伸展を屈曲拘縮改善の目的として開始していきます。
早期自動伸展他動屈曲法を用いる場合は、背側装具を前腕から指尖部まで手関節掌屈30-45度、MP関節屈曲50-60度、PIP関節とDIP関節は伸展位で作製します。
次に示指から小指の爪甲に手術中に付けられたナイロン糸によるリング、または術後に爪甲にフックを取り付けて、そこにすべりやすい糸を付けます。
糸は手掌につけたバーの下を通り、前腕近位方向へゴムの牽引力を利用して引くようにします。
患手の力を抜いた状態で示指から小指が屈曲位となり、あまり力を入れず伸展できる牽引力とします。
早期自動伸展自動屈曲法を用いる場合は、手関節背屈0-10度、MP関節屈曲50-70度、PIP関節とDIP関節は伸展位で作製します。
次に示指から小指の爪甲に手術中に付けられたナイロン糸によるリング、または術後に爪甲にフックを取り付けて、そこにすべりやすい糸を付けます。
糸は手掌につけたバーの下を通り、前腕近位方向へゴムの牽引力を利用して引くようにし、日中は基本的に屈曲位となるようにします。
早期自動伸展他動屈曲法
装具を作成した後は、早期より運動を開始していきます。
1日3-5セットほど示指から小指を自動伸展、他動屈曲の練習を10回ほど実施します。
自動屈曲法の場合は、他動的に手指を屈曲位にしてその肢位で保持させる等尺性の屈曲運動と背側装具に付くまでの自動伸展をゆっくり行います。
夜間は手指部を柔らかい包帯で軽く巻いて背側装具に固定させ、IP関節を軽度伸展位に保持しつつ、不意の自動屈曲時の抵抗にならないようにします。
IP関節の屈曲拘縮予防のため、MP関節屈曲位にした状態で、PIP関節とDIP関節を他動伸展させていきます。
これにより腱と周囲組織との癒着やゾーンⅡでの損傷による浅指屈筋腱と深指屈筋腱の癒着を防止できます。
他にも、スプリントを除去し、手指を脱力した状態で手関節の自動介助による屈伸運動を行う方法もあります。
再断裂の危険性について
術後3週間ほど経っても自動屈曲可動域が良好な症例に関しては、術部の癒着が不十分と考えられ、再断裂の危険性が高くなる傾向にあります。
その場合は屈曲方向の自動運動開始時期を遅らせるようにし、手指伸展に関してはこれまでの通りに実施していきます。
術後8-12週までは腱の癒合は不完全であるため、主治医と相談しながら無理のない範囲で関節可動域運動を行うようにお願いします。