日本における整体の始祖的存在である野口晴哉氏(1911-1976)の著書を読んでみたので、理学療法士の立場からレビューしてみたいと思います。
野口氏の著書は数多く存在していますが、その中でも長くベストセラーとなっているのが「整体入門」です。
この本は1968年に刊行され、2002年に文庫版として復刻しています。
30年以上前の書籍が復刻され、さらにそこから20年ちかくも売れ続けているのを考えると、彼が後世に残したものは非常に大きいと感じられます。
野口氏の治療で核となっているのは、①愉気法(ゆきほう)、②活元運動(かつげんうんどう)、③体癖論(たいへきろん)の3つです。
①愉気法
まずは愉気法ですが、こちらは東洋医学の考え方である「気」をベースにしており、目に見えるものではありません。
愉気法は、気をおくり、気を通して元気を喚び起こし、体の本能的な力を使うことを目的としています。
私は理学療法士なので西洋医学しか学んでおらず、東洋医学には疎いので、ここは正直あまり参考になりませんでした。
②活元運動
次いで活元運動ですが、こちらは錐体外路運動の指しています。
一般的な随意運動(筋肉の収縮)は錐体路で行われますが、不随意運動は錐体外路を通じて行われます。
活元運動では、錐体外路運動を訓練することによって、転びそうになったときに転ばないようにバランスをとったり、転んだ場合は身体を守るように無意識に動くなどして怪我のリスクを減らせると説明されています。
これだけを書くとバランス運動でもするのかと考えそうですが、著書で紹介されている活元運動は体幹の運動になります。
方法として、まずは活元運動を誘導する前に邪気の吐出を行います。簡単に書くと深呼吸ですが、このあたりはスピリチュアルです。
次いで、正座して自分の背骨を見るように左に捻じり、緩めてまた右に捻じり、これを左右交互に7回ずつ行います。(胸椎の回旋運動)
ここからが活元運動になりますが、正座をした状態で徐々に息を吐きながら、親指を握りしめ腕を上げ(肩外転90度・肘屈曲90度)、体をうしろへ反らしていきます。
奥歯をかみしめ、首から背骨に力をギューッと入れるようにして、入れきって急に力を抜きます。この運動を3回繰り返します。
最後に手を上向きに膝の上におき、目をつぶり、首を垂れます。そして自分の背骨に息を吸い込むような、背骨で呼吸するようなつもりでいます。
すると少しずつ体が動き出してくるので、その動くままに、動いている処に息を吸い込むようにすると、もっと動きが大きくなってきます。
首が動いたら首へ、腰が動いたら腰へというように息を吸い込むのですが、動き出したら意識をしないようにします。
徐々に動きが落ち着いてきたら、終わってからしばらく瞑目したままで、1〜2分ほどポカンとしています。
ここまでが活元運動になりますが、猫背(胸椎が硬い)のヒトには効果がありそうな運動なので臨床でも取り入れていい内容だと思います。(錐体外路系を訓練することになるかは不明ですが…)
③体癖論
体癖とは、読んで字の如く、体の癖になります。著書では、
「人間の身体運動は一人ひとり異なっており、同じものを持っても、顔を歪める人、肩に集める人、腰へ力を集める人などあって、皆その部分に疲れが偏ります」
と書かれています。この考え方は現代の治療においても核とされる部分で、身体の使い方を変えないと根本の問題は治らない大切なところです。
野口氏は体癖を12種類に分けていきますが、ここはかなり理解が難しいところでもあります。
なぜなら身体の使い方の癖のみを指標としてるのではなく、もっと別の要素を入れているからです。
例えば、一種体癖の人は「すぐに上がってしまう質の人」とされており、演壇に上がると気が上にあがってしまい、体の動きが大脳の動きに転換してしまうと説明されています。
ここはまだ非科学的な部分かもしれませんが、性格が姿勢や身体の使い方と関連している可能性は十分にあるので、興味がある人は勉強する価値もあるかと思います。
野口整体の核は「体癖」と「体癖修正(整体体操)」になるといっても過言ではないらしいので、ここを理解できるかが鍵となりそうです。
おわりに
理学療法士の世界でもそうですが、ランカーのセラピストは凡人には理解ができないようなことを往々にして口にします。
それこそ前述したように姿勢から性格を推測したり、内臓の不調を言い当てたりするわけです。
おそらくはそのような傾向が実際にあるわけで、そこが理解できると評価もよりスムーズに行えるようになるはずです。
どこまで信頼できる内容か判断できませんが、トップランカーを目指すセラピストなら勉強する価値があるかもしれない本だと思います。