この記事では、前斜角筋を治療するために必要な情報を掲載していきます。
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前斜角筋の解説
前斜角筋は、斜角筋群の中で筋体積が最も小さい筋肉であり、名前の通りに3つの中で最も前方に位置しています。
中斜角筋と後斜角筋が横突起の後結節から起始しているのに対して、前斜角筋は前結節から起始しているのが特徴です。
前斜角筋と中斜角筋の間を斜角筋隙といい、その中を腕神経叢が通過しているため、斜角筋群に問題が生じると腕神経叢麻痺を起こします。
基本データ
項目 |
内容 |
支配神経 | 頚神経叢および腕神経叢 |
髄節 | C5-7(又はC4-7) |
起始 | 第3-7頸椎(又は4-6)の横突起の前結節 |
停止 | 第1肋骨の前斜角筋結節(リスフラン結節) |
栄養血管 | 上行頸動脈(下甲状動脈の枝) |
動作 | 第1肋骨の挙上
頸椎の屈曲と側屈(同側) |
筋体積 | 3.8㎤ |
筋線維長 | 4.6㎝ |
速筋:遅筋(%) | 70.0:30.0 ※斜角筋群のデータ |
運動貢献度(順位)
貢献度 |
頸部屈曲 |
頸部側屈 |
1位 | 斜角筋群 | 胸鎖乳突筋 |
2位 | 舌骨下筋群 | 斜角筋群 |
3位 | 椎前筋群 | 脊柱起立筋 |
4位 | – | 板状筋群 |
前斜角筋の触診方法
写真では、胸鎖乳突筋鎖骨部と僧帽筋上部線維の間に指腹を当て、頸部を屈曲または側屈させることで筋の収縮を確認しています。
頸部を反対側に回旋させることで胸鎖乳突筋が膨隆するので、その外方から鎖骨上に指をあてることで触れやすいです。
指を少し左右に動かすと前斜角筋と中斜角筋の隙間(斜角筋隙)が確認できるので、その前方が前斜角筋になります。
ストレッチ方法
中斜角筋の後方で鎖骨下に指を入れて第1肋骨を引き下げ、反対側に頸椎を伸展側屈させていきます。
筋力トレーニング
ベッドにて仰向けになり、頭部をベッドの端から落とし、そこから頸部を屈曲させて頭部を持ち上げていきます。
前斜角筋のトリガーポイント
前斜角筋のトリガーポイントは停止付近(第1肋骨)に出現しやすく、関連痛は頸部や胸部、上背部、上肢に痛みが放散します。
交通事故などのむち打ち症で発生する場合が多いので、交通事故後の患者で胸背部や上肢に痛みを訴える際はチェックしてください。
アナトミートレイン:筋膜連結
斜角筋群はアナトミートレインの中で、DFL(ディープ・フロント・ライン)に繋がっています。
スウェイバックやカイホロードシスといった下部体幹が前方変位しているケースでは、斜角筋群や腰方形筋などが硬くなっています。
マッサージ方法
斜角筋群は痛みを誘発しやすく、さらに斜角筋隙には鎖骨下動脈や腕神経叢が通過しているため、むやみにマッサージをするのは危険です。
そのため、私が実際に治療する際は、十分に筋肉をリラクゼーションさせて、圧痛が軽減してから指を触れるようにしています。
具体的には、頭部をベッドの端から落とした状態に保持し、そこから頸部の屈伸動作を補助的に反復させながら筋収縮を誘発します。
過度に緊張している筋肉は、軽い筋収縮を繰り返すことでリラックスしていくので、圧痛が軽減するまでこの動作を繰り返します。
圧痛が軽減したら、治療する筋肉側に頸部を屈曲側屈させ、斜角筋が弛緩するポジションに頭部を保持します。
そこから前斜角筋と中斜角筋を中心に四指を用いてほぐしていくことで、不快感も少なくマッサージすることが可能となります。
関連する疾患
- 頚椎椎間関節障害
- 斜角筋症候群(胸郭出口症候群)
- 第1肋骨疲労骨折
- 上位型腕神経叢麻痺(エルブ麻痺)
- 下位型腕神経叢麻痺(クルムプケ麻痺)etc.
頚椎椎間関節障害
弛緩姿勢(下部体幹の前方変位)をとりやすい患者の多くは、前述したDFL(斜角筋群を含む)の緊張が認められます。
弛緩姿勢は猫背となりやすく、胸椎の屈曲が増強することで頭部前方位となり、さらには下位頚椎の過伸展を引き起こします。
前斜角筋は通常、頸部屈曲に作用する筋肉ですが、頸部が伸展したり、前弯が強くなっているケースは停止部が後方に移動します。
停止部が後方になると前斜角筋は頸部伸展に作用することになり、その状態が持続することで徐々に短縮していきます。
斜角筋症候群
前斜角筋と中斜角筋の隙間を斜角筋隙といい、その隙間を腕神経叢が通過しています。
斜角筋の過度な緊張によって斜角筋隙が狭小化すると、腕神経叢が圧迫されて神経症状が起こり、その状態を斜角筋症候群と呼びます。
原因としては、頭部前方偏位などの不良姿勢、COPDなどの呼吸器疾患による斜角筋の筋疲労があります。