将来的に腰痛や脊柱管狭窄症を起こさないためには、椎間板が潰れるのを防ぐことが何よりも大切です。
1度潰れてしまった椎間板は元には戻りませんので、姿勢や生活習慣からリスクを予想して先手を打つようにしてください。
椎間板が潰れるリスク
上の図は、姿勢によって椎間板内圧がどのように変化するかを示した有名な研究ですが、座位や前屈位で高まることがわかっています。
その姿勢で重い荷物を持つなどすると椎間板内圧はさらに高くなり、椎間板症や椎間板ヘルニアを起こすことにつながります。
上は腰部のMRI画像ですが、L4/5間の椎間板が潰れていることが素人目に見てもはっきりとわかります。
この写真を患者に見せながら、「ここの椎間板が潰れてるから腰が痛いんですよ」と説明されることは非常に多いです。
しかしながら、椎間板は軟骨であるため原則的には神経および血管支配はなく、外縁の線維輪にのみ神経終末が存在するだけです。
高齢になると無症状でも椎間板は潰れていますし、本当にここが腰痛の原因であるかは疑問が残るところです。
椎間板は徒手的に直接圧迫することができないため、体表から圧痛を拾うことができず、理学所見や画像所見で疼痛を推測するしかありません。
上のMRI画像では、L4/5間とL3/4間の椎間板が完全に潰れており、椎骨が前方にすべっていることがわかります。
この状態を腰椎変性すべり症といい、脊柱管を狭窄させる原因になるので、身体に重大な問題を起こすことにつながります。
私の考えとしては、身体というのは合理的にできているので、疼痛が起きるときというのは何か伝えようとしているときだと思ってます。
最初に示したMRI画像(椎間板症)の患者は、腰椎を屈曲したときに痛みがあることが主訴でした。
もしも椎間板が痛みの原因ではないとしたら、どこの組織がなにを伝えようとして腰痛を起こしているのかを考える必要があります。
推測の域は出ないのですが、椎間板が潰れたことで変性すべり症のリスクが高くなり、これ以上の無理をさせないように痛みが起きている可能性があるのではないかとも考えられます。
脊椎の屈曲を制限するのは黄色靭帯と後縦靭帯ですが、黄色靭帯には疼痛受容器が存在していません。
それに対して、後縦靭帯は他の靱帯と同様に疼痛受容器が存在しているので、ここがシグナルを発生させている可能性が高いと推測されます。
椎間板は加齢と共に潰れることが前提であり、その後に負担が集中する黄色靱帯にはあえて疼痛受容器を排除しているのかもしれません。
負担が集中しすぎると徐々に黄色靭帯は肥厚し、変性すべり症が起こらなくても、結果的に脊柱管狭窄症を招くなんてことにもなります。
黄色靭帯で制限できない場合に後縦靭帯が受け止めることになり、もうギリギリですよって教えてくれてるのかもしれません。
前置きが長くなりましたが、ここまでを読んでいただけたら、とにかく椎間板を潰さないことが大事であることが理解できたはずです。
椎間板を潰さないためにできることは以下の4つがあり、必要な部分にアプローチしていただくようにお願いします。
①長く腰椎を屈曲させない
最初に書いたように椎間板は脊椎が屈曲することで内圧が上昇するため、あまり長い時間にわたって屈曲位をとらないことが大切です。
椎間板はL4/5間が最も圧潰しやすいのですが、骨盤が後傾すると連鎖的に下位腰椎は屈曲位となります。
骨盤が後傾しやすい姿勢というのは座位(正座は除く)であり、デスクワークでは定期的に立ち上がるなどして姿勢を変えることが大切です。
同じ姿勢を長く続けていると固定されるため、立ち上がったときに腰を反らすなどして姿勢を矯正するとさらに効果的といえます。
②股関節の柔軟性を確保する
股関節の屈曲や外旋が硬いと代償的に骨盤が後傾して腰椎は屈曲するため、股関節の可動性を確保することは非常に重要です。
私が臨床の参考にしている考え方に、「可動性関節」と「安定性関節」があります。
可動性関節は大きく動くことが重要であり、反対に安定性関節はあまり可動しすぎないことが必要だと考えています。
股関節は可動性関節なので大きく動くようにストレッチし、腰椎は安定性関節なので股関節の動きを代償して動きすぎないように調整します。
とくに股関節の屈曲と外旋の可動域を拡大することで、腰椎の屈曲を防ぐことができます。
③骨盤を前傾させる筋肉を鍛える
骨盤が前傾すると下位腰椎は伸展位を保持できるため、骨盤を前傾させる主な筋肉である脊柱起立筋群(多裂筋を含む)と腸腰筋を強化します。
とくにフラットバック(平背)の女性はそれらの筋肉が弱化・延長しているケースが多く、姿勢矯正を目的にトレーニングを行います。
④骨盤を後傾させる筋肉を伸ばす
骨盤が後傾すると下位腰椎は屈曲位となってしまうため、骨盤を後傾させる主な筋肉であるハムストリングスと腹直筋のストレッチングを行います。
こちらもフラットバックの女性で短縮しているケースが多く、とくにハムストリングスは確実に伸ばしておくようにしてます。
ここまでが椎間板を潰さないために必要な4つのことであり、どこが不十分となっているかを確認するときのポイントです。
体幹前屈時に腰痛が発生し、腰部の筋肉が硬くないケースでは椎間板症の可能性が高いので、MRI画像で状態を確認することをお薦めします。