腰椎椎間板症のリハビリ治療

腰椎椎間板症(Lumbar disc disease)のリハビリ治療に関して、わかりやすく解説していきます。

椎間板の概要

椎間板(椎間円板)

椎間板とは、椎骨と椎骨の間に位置する円形の線維軟骨で、上下の椎骨に加わる衝撃を吸収するクッションの役割を持ちます。

立位姿勢においては、脊椎にかかる荷重の約80%を椎間板が受け止めており、残りの約20%を椎間関節が担っています。

椎間関節と軟骨関節

椎間板という弾力性のある組織を介在することにより、上下の椎骨は僅かな範囲ですが自由に動くことができます。

そのため、椎体後方の椎間関節と合わせて、椎体同士の軟骨関節(椎間板)が脊椎の可動性を実現するためには非常に重要です。

上位腰椎では椎間板の前面と後面はほぼ同じ高さであるのに対して、下位腰椎では前面の高さが後面の約2倍の高さとなります。

これは、前面を高くすることで前方部分への圧を減らし、さらに腰椎の前弯を構成するための大切な要素となっています。

椎間板は外側の線維輪と中心部の髄核から構成されます。

通常、軟骨組織に神経はありませんが、椎間板の線維輪浅層(最外層)には豊富な侵害受容器が存在しており、脊髄神経前枝(脊椎洞神経)からの支配を受けています。

そのため、椎間板は疼痛発生要因のひとつとされていますが、臨床では無症候性の腰椎椎間板症や椎間板ヘルニアが多くみられます。

本来は線維輪の内層や髄核には神経線維は存在しませんが、椎間板に炎症が生じると炎症性サイトカインが線維輪の内層に侵入し、椎間板性疼痛を引き起こす場合もあります。

前述した図は椎孔内に脊髄が記載されていますが、脊髄はL2の高さで終了し、以下は馬尾(硬膜に包まれた神経根の束)へと移行します。

椎間板症で痛みが出現する場所

椎間板が疼痛の原因組織である場合は、腰部の中央に両側性の痛みとして現れ、障害部位から遠位にかけて放散します。

椎間板に対して徒手的にストレスは与えられないため、体表からの圧迫で腰痛を再現することはできません。

そのため、理学所見(圧痛を認めない)や画像所見で椎間板症の疼痛は推測していく必要があり、原因の特定が難しい疾患のひとつです。

椎間板症は疼痛部位を尋ねると「この辺り」と手のひらを置いて場所を限局できないのに対して、椎間関節障害の場合は「ここ」と指先で示すことができることが特徴です。

椎間板の膨隆によって神経の圧迫が存在する場合は、その神経の支配領域にも痛みやしびれが出ることになります。

腰痛が両側性(脊髄神経前枝)か片側性(脊髄神経後枝)かで原因が異なりますので、以下の表を覚えておくと臨床でも役立ちます。

片側性 両側性
筋・筋膜性腰痛 椎間板症
椎間関節障害 骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折
仙腸関節障害 コンパートメント症候群

椎間板症を予防する

上の図をみていただくとわかるように、椎間板への圧力は座位や前屈位で強まる傾向にあります。

しかし、椎間板の髄核は水分を多く含むことで衝撃吸収と圧分散に作用し、長時間に及ぶ荷重負荷に対しても抵抗性を示します。

その一方で、椎間板は剪断力(前方すべり)や捻転力(回旋運動)に対する抵抗性は乏しいため、亀裂や断裂などの損傷を受けやすいです。

外傷や変性などでプロテオグリカンが減少すると、椎間板の水分量が減少して弾力性が低下し、衝撃吸収能力も著しく低下します。

椎間板が変性した状態で長時間の座位などを行うと徐々に椎間板の水分量が低下し、腰痛を誘発することにつながります。

椎間板が潰れやすい不良姿勢

椎間板が最も潰れやすい不良姿勢がフラットバックであり、骨盤が後傾かつ後方変位しており、腰椎が屈曲しやすい状態にあります。

また、脊椎が平坦化しているので彎曲によるクッション作用が消失しており、椎間板症や椎間板ヘルニアを誘発しやすくなっています。

腰椎屈曲の姿勢を持続的に行うスポーツや仕事などでは、姿勢を修正するためのトレーニングが必要となります。

ロードシスも椎間板症を起こしやすい場合があり、腰椎の屈曲モビリティが高くなっている患者では注意が必要です。

椎間板変性に加えて過剰な腰椎伸展(骨盤前傾)が生じると、腰椎変性すべり症のリスクが高まります。

椎間板変性と椎間関節障害

腰椎が伸展すると椎間関節は16%程度の荷重圧を受けますが、椎間板が変性している場合は荷重圧が70%まで増加します。

椎間関節の運動を適切に制御しているのは線維輪の最外層であるため、ここが変性すると関節の遊びが顕著となり、荷重圧が増加すると考えられています。

このことから、椎間板性腰痛と椎間関節性腰痛は密接に関わっており、患者は2つの障害が混在した腰痛を訴えることになります。

椎体終板障害と腰痛

椎間板と椎体の間には椎体終板が存在していますが、重度の椎間板症では椎体終板障害を起こしているケースもあります。

椎体終板障害では椎体圧迫骨折に似た症状が現れ、座位や立位よりも、仰臥位のほうが腰痛を訴えやすいです。

理由としては、重度の椎間板症では腰椎が不安定となっており、仰臥位ではさらに安定しなくなることが挙げられます。

反対に座位や立位では荷重が乗ることで椎体が安定するので、椎体圧迫骨折などでも座位のほうが楽というケースが多いです。

リハビリテーション

椎間板内圧が高まることで腰痛が誘発されているケースでは、椎間板内圧を高めない姿勢を指導することが必要となります。

例えば、骨盤が後傾しやすい座位などを長時間とらないことや、重いものを持ち上げる際は骨盤の前傾を保持するように指導します。

椅子に腰掛けるときにランバーサポートを使用したり、骨盤の前傾を保ちやすい正座を積極的にとることも有用です。

支柱のあるコルセットを着用することで、強制的に腰椎の屈曲をとらせない状態にする方法もあります。

フラットバックの修正

フラットバック姿勢は、腹直筋やハムストリングスが硬くなりやすい傾向にあります。

そのため、長座位で骨盤を前傾させてハムストリングスの伸張、端坐位で骨盤を前傾させる運動を実施します。

脊柱起立筋の筋力低下はほとんど起こりませんが、腸骨筋は弱化していることが多いので、座位での交互股関節屈曲による運動を行います。

立位姿勢では踵に体重が乗りやすいため、足底のやや前方に荷重をかけ、胸椎を伸展させるように意識してもらいます。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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