痛みの本質は「かたち」ではなく「はたらき」にある。
これは坂井先生の本に書かれていた言葉ですが、とても内容が面白かったので臨床と照らし合わせながら感想を書いていきます。
タイトルはかなり大袈裟ですが、著者がどんな経験をしてから、この結論に至ったのかを考えると共感できる部分も非常に多いです。
坂井先生は整形外科医で手術も行なってきましたが、それでも痛みが治癒しないケースがいることに悩んでいたそうです。
このままでは患者を治すことはできないと思い詰めるようになり、当時に勤めていた病院を退職して、しばらくの間は仕事も休まれていました。
その間に痛みを取り除く方法が書かれた本を読み漁り、その結果、漢方やAKAアプローチなどに傾倒するようになりました。
それらの方法で一定の成果を出せるようにはなったそうですが、やはり全ての患者に効果を発揮することはできませんでした。
そこからまた新しい治療法を探していくわけですが、その過程で、そもそもの痛みの原因が「かたち」ではなく「はたらき」にあることに気付いたそうです。
痛みは働きが悪い状態のときに起こり、つまりは治癒反応が乏しい、血流が低下した状態で発生すると結論付けています。
患部が治癒せずに慢性的な炎症状態にあると、いつまで経っても痛みが改善することはありません。
では、どうしたら働きを高めて治癒を促進できるかと悩んだ末に、最も簡単で効果的な方法が温めることだという考えに至りました。
私も理学療法士として毎日のように患者の身体に触れていますが、「かたち」が元凶であるケースはそれほど多くないと感じています。
実際に背骨の形状(レントゲン写真)と腰痛に相関関係がないと報告されていますし、痛みに形はそれほど重要ではありません。
関節がどれほど変形していても痛みがない患者も多いですし、反対に変形はほとんどないのに痛みを訴えることもあります。
だからこそ痛みの本質が働きと考えている著書の考えは理解できますし、それである程度に効果が出せることも間違いではないはずです。
ただし、痛みを起こしているきっかけは必ず存在していますし、そこに「かたち」が大きく関わっているのは言うまでもありません。
膝が変形している人のほうが圧倒的に膝が痛い可能性は高いわけですから、そのことを無視するわけにはいかないでしょう。
患者の痛みの主因が「かたち」と「はたらき」のどちらかを調べる際に、参考になるのが痛みの訴え方です。
一瞬キリッとするような鋭い痛みは組織損傷が原因なので、変形が原因で摩擦や圧縮、伸張ストレスが加わって痛みを起こしています。
この場合は「かたち」を整えないことには再発を繰り返すので、周囲組織にアプローチしていくことが求められます。
反対にズキズキとする鈍い痛みが続いている場合は、慢性的な炎症や血流低下が存在していると考えられます。
この場合は「はたらき」を良くしないことには痛みが改善しませんので、患部にカイロを貼るなどして血流を促進することが有効です。
もちろん両者が合わさって痛みを起こしているケースも多いので、その場合はどちらにもアプローチしていかないことには根本的な解決とはなりません。
徒手療法で炎症を改善させることはできませんが、同様にカイロを貼るだけで身体の動きを変えることはできません。
以上の理由から、「体を温めるとすべての痛みが消える」なんてことは絶対にありえないわけです。
ただし、この視点を持たないことには効果的に炎症を抑えることはできませんし、すべての痛みに対応することもできません。
内容的には非常に面白い本なので、新しい視点を手に入れてステップアップしたい方は是非とも一読してみてください。