関節には、身体を動かすための可動性関節と、可動性関節の軸となって安定した動きを実現させるための安定性関節の2種類があります。
上の図は、可動性関節と安定性関節を示したものですが、身体に障害をきたしやすい関節のほとんどは安定性関節であることがわかります。
腰椎に痛みを起こすことは非常に多いですが、胸椎が痛くなることはほとんどありません。
安定性関節のほうが障害されやすい理由としては、可動性関節が十分に可動しておらず、安定性関節が過剰に動いていることが挙げられます。
例えば、ゴルフのスイングで股関節の内旋が硬いケースでは、股関節の内旋制限を腰椎の過剰な回旋で補うことになります。
安定性関節は身体を大きく動かすために存在しているわけではないため、過剰な動きを強制することで損傷します。
他にも胸椎が硬くなって後弯しているケースでは、下位頚椎が過剰に伸展することで頭部を支えることなり、頚椎症を起こすことになるわけです。
足関節が硬いせいで膝関節に痛みをきたしていることも多いことを考えると、可動性関節の近位にある安定性関節ほど障害されます。
ここまでを読んでいただくとわかるように、痛めている関節ばかりにアプローチして動きを引き出すことは、かえって逆効果になりえるわけです。
関節に炎症を起こすと関節包などが縮小して動きが硬くなりますが、考え方によっては安定性関節を守るための反応といえるかもしれません。
そのため、安定性関節の動きを引き出す前に、可動性関節の動きを十分に確保しておくことが再発の予防につながります。
とくに股関節と胸椎は硬くなりやすい傾向にあり、その間に位置する腰椎は障害を受けやすい環境にあります。
このことを知っておくと、腰痛だからといって腰部だけにアプローチしても効果が出にくい理由がわかってくるはずです。
もう少し詳しく書いていくなら、腰部に関しては脊椎ごとに椎間関節が存在しているため、ひとつひとつの動きにも着目する必要があります。
例えば、L5/S(腰仙椎椎間関節)に硬さが存在する場合は、それよりも上位のL4/5の椎間関節が過剰に動いて代償します。
腰椎は安定性関節ではありますが不動関節ではないので、各椎間関節が適度に動く状態がベストで、1箇所だけが過剰に動くことだけは防ぎます。
もしも他の関節の動きを引き出せない状態にあるなら、コルセットで過剰な動きをしている関節の動きを止めてから固めてしまうのも手です。
安定性関節の動きが少なくなることで身体の動きは制限されますが、その分を可動性関節が補うようにアプローチしていくことで代償します。
どこまで安定性と可動性を求めるかはヒトによって異なりますので、ときには可動性をなくして痛みを軽減させることも必要だと覚えておいてください。