立ち上がる時に膝が痛い原因について

膝関節に痛みがある患者さんに「どんな時に痛みますか?」と尋ねると、ほとんどの人が立ち上がる時や歩き始めと答えます。

また、座ってからすぐに立ち上がるとそうでもないのに対して、しばらく座っていた後に立つと痛みが起こります。

これを専門用語でスターティング・ペインといいますが、この原理については専門書を読んでもあまり言及されていません。

おそらくまだ解明されていないからだと思いますが、私が以前に読んだ本には滑液の循環が問題であると書かれていました。

理屈としては、関節内に存在する滑液(潤滑油)が循環せずに下方に溜まってしまい、膝関節のクッション作用が低下して、そこに荷重が加わることで痛みが発生すると説明されていました。

循環の低下は、関節の変形に伴う関節腔の狭小化が関与していると考えられ、歩いて滑液が循環しだすと痛みは徐々に軽減していきます。

なんとなく理屈としては筋が通っているようにみえますが、やはりこの論理はどこか破綻しているようにも感じます。

そもそも膝関節で荷重を受け止める部分(関節軟骨)には痛みを感じる神経がないので、クッション性が低下しても痛みは起きません。

また、この論理でいくと関節の変形は元には戻らないので、治療しても改善は難しいということになってしまいます。

しかし実際は、リハビリを行うことで立ち上がる時の膝の痛みは改善することが可能です。

もうひとつの説として、しばらく座っている間に膝の周囲組織に癒着が生じて、それが微細断裂を起こすために痛いという理屈です。

これは足底腱膜炎が起床時に最も痛みが強い理由と同様で、寝ている時に断裂部が少し癒合し、その部分が朝起きて立ち上がる際に再断裂することに由来しています。

こちらも理屈としては筋が通っているようにみえますが、やはりこの論理もどこか破綻しているようにも感じます。

理由としては、しばらく座っているぐらいの短時間で癒着が生じるのかという点と、痛みがある箇所に伸張ストレスが加わらないという点です。

足底腱膜炎の場合は、立ってから体重を乗せることにより、足底腱膜に伸張ストレスが加わることで断裂します。

しかしながら、膝関節の場合は前内側部に痛みを訴えるため、立ち上がる時に組織が伸張されることはありません。

やはりこのようにして考えると、癒着が生じてからの痛みというのは間違っている気がしてしまいます。

それでは結局なにが原因かというと、膝蓋大腿関節にロッキングが起きて、そのせいで膝蓋下脂肪体がストレスを受けるためと考えています。

わかりやすく解説すると、膝のお皿の動きが悪くなっているために、膝関節内側に存在する脂肪が滑らかに動かないことが原因です。

リハビリで膝蓋骨セッティングの運動を実施していると、膝に痛みがあるほうのお皿は健側と比較して滑らかには動きません。

患者によっては途中で引っかかりを起こして動きが悪くなったり、しばらくすると動き出したりと不安定な状態となっています。

以前にスターティング・ペインが起きるときの膝に触れてみましたが、膝蓋骨の動きが明らかに悪くなっていました。

それでは、ここからは具体的な対策についてですが、膝蓋下脂肪体と膝蓋支帯の柔軟性を獲得することがとても重要です。

それに加えて大腿四頭筋の収縮を促通することで、しっかりと膝蓋骨が動ける環境に整えてあげるようにしていきます。

方法としては、膝関節を伸ばした状態で膝下に丸めたタオルを入れて、膝蓋骨を上下や斜め方向に揺らしながら動かしていきます。

膝蓋骨の下方内側には膝蓋下脂肪体がありますので、膝のお皿を上に引き上げるようにしながらマッサージしていきます。

ある程度に動きが出てきたら、膝下に敷いてあるタオルを押しつぶすように力を加えて、リズムよく「潰す」と「緩める」を繰り返します。

潰すときにはしっかりと膝蓋骨が上方に動いているのを確認し、途中で動きが乏しくならないように注意しながら行うことがポイントです。

この運動が柔軟にできるようになると、立ち上がる時の膝の痛みが楽になりますので、在宅でも積極的に行えるようにしてください。


他の記事も読んでみる

The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
rehatora.net © 2016 Frontier Theme