1929年に Hill という科学者が激しい運動をした直後の血中を調べた際に、乳酸濃度が上昇していることがわかりました。
そこから、「乳酸=疲労物質」と結びつけられて、またたく間に浸透することになりました。
いまだに乳酸は疲労物質だと信じている方も多いかもしれませんが、それは実は大きな間違いです。
ここでは、そんな悪者にされた乳酸について解説していきます。
乳酸は疲労回復物質だった
激しい運動をした際に乳酸濃度が上昇するのは、疲労を回復しようとするからだということが、その後の研究で明らかになりました。
その根拠とされるのが、2001年に実施された Nielsen らの研究です。
彼らは、細胞外に蓄積したカリウムイオン(K+)が筋収縮を阻害し、筋肉疲労を引き起こしていると考えました。
カリウムイオンの添加によって疲労させられた筋標本に対して、乳酸などの酢を添加すると回復が認められたことを報告しています。
筋疲労を起こしている原因はリン酸
現在では筋疲労を引き起こしている原因物質はリン酸と考えられています。
強度の高い運動では、ATPやクレアチンリン酸の分解でリン酸が蓄積し、リン酸はカルシウムと結合します。
リン酸がカルシウムと結合してしまうと、筋収縮や筋弛緩をするうえで必要なカルシウムの働きが悪くなります。
疲労した筋肉がうまく収縮弛緩できなくなるのは、このような機序に由来しています。
乳酸濃度で筋疲労を考える
上記の研究で、乳酸濃度が高い状態は「身体が回復しようとしている状態」であることがわかりました。
それは言い換えると、「乳酸濃度=疲労蓄積度」と考えることもできます。
乳酸は疲労回復物質なので取り除くといった考え方は間違いですが、乳酸が必要ではない状態に素早く移行させるということは重要です。
筋疲労を素早く回復させる方法
①休息
当たり前ですが、疲労回復には休息が最も大切です。
疲労している状態で負荷が加わってしまうと、より乳酸が蓄積してしまい、怪我などのリスクを高めることにも繋がります。
②軽い運動
休息とは反対の意味にも聴こえますが、軽い運動は血中乳酸の代謝促進に有効とされています。
原則として、乳酸は「無酸素性作業閾値(AT)」を超えないと発生しないため、乳酸の発生には激しい運動が伴います。
軽い運動は乳酸を発生させずに血流量を高められるため、むしろ回復を促進させる効果が期待できます。
③マッサージ
マッサージによる血中乳酸の代謝促進は期待できないとされていますが、疲労した筋肉の血流量を高める効果が期待できます。
また、作業能力の回復が期待されるとしており、軽い運動の前後に行うと効果的だと考えられます。
④寒冷療法
冷却は局所の組織代謝を一時的に低下させ、運動後の筋損傷や二次的な組織損傷の増大、炎症・浮腫の抑制が期待できるとされています。
直接的な披労回復の効果はないとされていますが、組織損傷の要因ともなる酸化ストレスの活性を抑えることが期待できます。