筋膜マニピュレーションの方法と効果について解説していきます。
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筋膜の概要
筋膜には、①浅筋膜、②深筋膜、③筋外膜、④筋周膜、⑤筋内膜の5つが存在しています。
深筋膜は各筋肉を連結しながら全身を覆っている組織で、筋線維の約37%は深筋膜に入り込んでいます。
そのため、深筋膜の一部にゆがみ(高密度化)が生じると、離れた部位に伸張ストレスが加わることで痛みが波及することになります。
筋膜が硬くなる場所は全てのヒトでほぼ等しく決まっており、これを東洋医学で経穴やツボと呼んだりもします。
このツボが腰痛に効くとか膝痛に効くなど言ったりもしますが、それはデタラメなことを言ってるわけではなく、筋膜で説明が付くわけです。
浅筋膜(皮下筋膜)
浅筋膜は皮下組織の中に存在しており、皮下筋膜とも呼ばれ、血管が存在しない透明で弾力性のある疎性結合組織で構成されています。
深筋膜と浅筋膜の移行領域は固有受容性神経終末が高密度に存在しており、赤筋の約10倍ともいわれています。
そのため、筋膜は人体の中でも有数の感覚器官になります。
深筋膜(腱膜筋膜)
深筋膜は浅筋膜の下に存在しており、浅筋膜と同じく疎性結合組織で構成され、筋を連結しながら全身を覆っています。
厚さは約1㎜で、斜め・縦・横方向の3層構造になっていて、各層の間にヒアルロン酸が分布していることで滑らかな動きを実現しています。
深筋膜には筋外膜から筋線維の一部が入り込んでいるため、どちらか一方に障害が起こると問題が派生していくことになります。
深筋膜は基本的に丈夫な構造ではありますが、一度歪みが生じると治りが悪く、離れた部位にまで影響を与えます。
筋外膜
筋実質を包んでいる膜で、厚さは平均で0.3㎜ほどです。
筋外膜は筋肉の中に入り込んで筋束を包む筋周膜と連結し、さらに筋周膜は筋の束に入り込んで筋線維を包む筋内膜とも連結します。
筋膜の構成組織
筋膜はコラーゲン(膠原)線維と少量のエラスチン(弾性)線維から構成されています。
膠原線維は自在に形を変えることができ、弾性線維はゴムチューブのように伸び縮みできる作用があり、ふたつが協力することで自在に形を変化できます。
筋膜マニピュレーションの目的は、交差した膠原線維と弾性線維がからみついた状態(高密度化)を解きほぐすことにあります。
筋肉をひとつの動きで捉えるのは時代遅れ
従来では、筋から腱を通じて骨へ力が直接的に伝わるように考えられてきましたが、実際は筋肉の収縮力は筋膜上を介して伝えられています。
そのため、筋膜に覆われている組織すべてに収縮力は伝わることになり、単純に個別な筋肉の運動だけで捉えることはできません。
ジャンプする動作を例にしてみても、個別の筋線維の収縮だけによるものではなく、筋膜連結による弾性反動特性に依存しています。
筋膜のつながりについて理解する
筋膜には6つの基本的な繋がり(一方向性の分節運動)があり、①前方、②後方、③内方、④外方、⑤内旋、⑥外旋の運動に働きます。
分節運動で筋力のベクトルが収束する場所を協調中心といい、筋力のベクトルが収束する深筋膜上の明確な点(ツボ)になります。
協調中心は高密度化を起こしやすい部位であり、この高密度化した部位を効果的に解きほぐす治療法が筋膜マニピュレーションです。
また、前述した基本となる6方向の筋膜配列に加えて、4方向の対角線の繋がり、4方向の螺旋の繋がりも存在します。
対角線と螺旋の動きは、基本となる6方向の筋膜配列による複合運動であり、2方向の筋膜配列から形成されています。
その2つの筋力のベクトルが収束する深筋膜上の明確な点を融合中心いいます。
融合中心と協調中心の高密度化が存在する場合は、融合中心からアプローチするほうが効果を出しやすい傾向にあります。
その後に協調中心にアプローチするようにし、各筋肉の高密度化している深筋膜を解きほぐすようにしていきます。
活性協調中心の評価
活性協調中心(高密度化している部位)を見つけるためには、まずはどのような動きで痛みが生じるかを確認する必要があります。
例えば、腰椎側屈で痛みが生じる場合は、腰部外方の活性協調中心が疑われるので触診にて問題がないかを確認します。
具体的には、筋膜(結合組織)にざらつきや凹凸などの粗さがないか、筋線維に攣縮がないかを中心にみていきます。
活性協調中心が問題である場合は、高密度化している部分を押すことで、針で刺すような痛みを訴えることになります。
そこから周囲を念入りに触診していき、最大感覚部位(最も痛みが強い場所)を聴取しながら見つけていくことが大切です。
分節末端の感覚異常
筋膜制限は最終的には分節末端で代償することから、分節末端(手・足・頭部)に感覚異常がないかを確認します。
例えば、母指に異常感覚を訴えるようなら前方運動配列の問題が疑われるので、前方運動配列を中心に調べていくことが大切です。
そうすることで効率的に問題のある場所を見つけることができます。
融合中心について
分節協調中心が筋膜上にあるのに対して、融合中心は腱、筋間中隔、関節周囲軟部組織(支帯)の上に位置します。
協調中心の治療(マニピュレーション)は、筋線維(筋外膜、筋周膜、筋内膜)の間に入り込んで行われます。
それに対して、融合中心の治療(モビライゼーション)は、深筋膜(支帯)のコラーゲン線維に対して行われます。
線維症コラーゲン線維がいったん分離すれば、協調中心の治療アプローチのようにマニピュレーションを滑りの回復が得られるまで続けます。
融合中心は、牽引が関節角度によって変化する関節の近くに位置するため、多くの場合に分節あたり2つまたは3つのサブユニットを持ちます。
融合中心単独の治療が最適な結果をもたらさない場合は、その融合中心によって調整されている2つの協調中心の治療を結びつけて考えていきます。
この分節の疼痛の解消が近位または遠位分節で新しい疼痛を生じる場合は、全節性インバランスと仮定して治療を続けていきます。
筋膜マニピュレーションの方法
治療対象となる深筋膜の厚さは約1㎜で、斜め・縦・横方向の3層構造になっており、それぞれの方向へ柔軟に動きます。
しかし、高密度化(膠原線維と弾性線維がからみついた状態)が起きていると、その部位の筋膜に硬さと滑りにくさが感じられます。
その高密度化した部分を効果的に解きほぐすことができる方法が筋膜マニピュレーションであり、筋膜の構造に着目した治療法になります。
筋膜治療で重要なのは収縮のリリースではなく、筋膜をゲル状に流動化することにあります。
そのためには、筋膜に最大限の摩擦を与えて熱を生じさせる必要があり、通常は一箇所に2〜10分の施術を要します。
そこに原因がある場合は、施術を開始してから2〜3分後に関連痛(普段感じている痛み)が出現することがあります。
具体的な方法としては、硬くて鋭い圧痛のある協調中心に対して、垂直方向に圧迫を加えた状態で上下・左右・斜めと細かく動かして滑走を促します。
痛みは10段階で7〜8ほどで訴える場合が多く、その痛みが半減するまで筋膜マニピュレーションを継続していきます。
通常は約4分ほどで半減し、手にも筋膜が緩んだ感覚が伝わってくるので、それが終了の合図になります。
筋膜治療の結果と考察
治療後に症状が大幅に改善する場合は、問題のある運動配列かつ分節であったと考えられるので、引き続き同じ面で治療を続けていきます。
治療後に1〜2日ほど痛み(揉み返し)が出る場合もありますが、それは炎症による修復過程であり、その後に改善するなら問題ありません。
治療後に症状の改善はみられるが、まだ半分以上が残っているケースでは、同じ運動配列で全節にアプローチを拡げていく必要があります。
疼痛の局在が変化する場合は、別の部位に代償が移ってしまったので、バランスを整えるために全節を確認していきます。
治療後に症状の改善はみられるが、すぐに元に戻ってしまう場合は、筋攣縮のリリースのみで筋膜変性が治療できていないと考えられます。
改善がみられない場合は、原因のある筋膜変性に対処できていない、または筋膜変性が原因ではない可能性が高いので再考する必要があります。
筋膜変性の原因と増悪因子
筋膜変性が生じる主な原因として、①捻挫、②骨折、③直接的な外傷、④過用、⑤姿勢などの機械的因子が挙げられます。
筋膜変性があるヒトでは、大気の不安定性(天気が悪い)やストレス、わずかな過労などで症状の増悪が認められます。
その他にも多数の原因や増悪因子が存在しており、非常に繊細な組織であることがわかります。
おわりに
筋膜マニピュレーションという手技は学ぶことが必須といえるほど治療で役立つので、興味を持った方は是非とも勉強してみてください。
冒頭で掲載したのは理論編ですが、すぐに治療で役立てたい場合は協調中心と融合中心をまとめてくれている実践編がお薦めです。
値段はかなり高いですが、具体的な治療方法が多くの写真と共に書かれており、確実に効果が出ますので持っておいて損はありません。