肘に痛みやしびれがあるのに、肘を押しても痛みがない。
そんなときに考えられるのが筋膜性疼痛であり、背中から手の先までのラインで硬結が存在すると肘に疼痛が生じることがあります。
しかしながら、この「筋膜」という着眼点を持っていない場合は、しばしば頚椎症や胸郭出口症候群といった神経障害と間違えられやすいです。
その肘の痛みは首から来ているのか?
頚椎から出ている神経根が圧迫されて肘に痛みがある場合は、頚椎を動かすことで症状の増悪が認められます。
具体的には、頚椎を伸展または側屈(痛みのある側)させることで神経根の圧迫が強まるので、その違いを確認すると良いです。
頚椎を痛みのない側に側屈させて痛みが増悪する場合は、斜角筋隙で神経が圧迫されている可能性があります。
胸郭出口症候群は斜角筋隙以外にも、小胸筋下で神経を圧迫していることも多いので、小胸筋の圧迫による痛みの変化も確認してください。
しかしながら、胸郭出口症候群の場合は肘のみに限局した痛みとはならないため、他の神経症状が出ていないかも調べることが必要です。
筋膜性疼痛を確認する方法
筋膜由来の肘痛の場合は、主に肘頭に痛みやしびれが出現しますが、これには後方筋膜が関与しています。
後方筋膜は上腕三頭筋を通過して尺骨肘頭に付着していますが、しばしば上腕後方の中央部で硬結しています。
厳密に書くと、上腕三頭筋の筋腹上を通過する深筋膜に高密度化が起こることで疼痛が出現します。
そのため、高密度化している部分は押圧することで痛みを訴えたり、筋膜を動かすことで滑りの悪さを感じることができます。
筋膜由来の障害では、上腕三頭筋の筋腹を押すことで肘頭に関連痛が起こるので、その場合は筋膜性疼痛の可能性が非常に高いです。
硬結部の圧痛以外にも、肘関節伸展の筋出力が低下したり、伸展方向への抵抗に対して痛みの増悪を認めることになります。
肘の痛みの治療点について
肘頭の痛みで最も重要な治療点は、前述したように上腕三頭筋の筋腹ですが、それ以外にも3つほど硬結しやすい部位があります。
これらのポイントに圧痛が認められる場合は、そこに問題が生じるということなので、十分にほぐれるようにマッサージを加えます。
後方筋膜に障害が存在すると、拮抗している前方筋膜にも問題が起きるため、しばしば小胸筋にも圧痛が認められます。
わたしが以前に担当していた患者では、肘痛に加えて肩痛もあり、肩関節挙上で症状が増悪し、小胸筋に圧痛を認めました。
そのため、小胸筋症候群の可能性を考慮して治療していましたが、あまり症状が改善せずに難渋していました。
そこで筋膜性疼痛の可能性を考えて圧痛点を確認すると、肩甲骨上角や上腕三頭筋の筋腹に硬結が存在していることに気付きました。
時々に訴える肩外側や頸部の痛みも、この筋膜ラインと一致していましたので、これでようやく原因を掴むことができました。
筋膜マニピュレーションの方法
硬結部をマッサージしてほぐすだけで良いと書きましたが、もちろん精度を高めるためにはコツがあります。
詳しくは、「筋膜マニピュレーションの方法と効果について」という記事に譲って、ここでは簡単に解説します。
障害となっている硬結部は、押圧すると7〜8ほどの痛みがあるので、その痛みが半減するまでマッサージを加えます。
あくまで深筋膜の滑りを良くすることが目的なので、小刻みに動かしながら、滑りがよくなるのを指先で感じ取ってください。
マッサージをして3〜4分ほどで筋膜の緩みが感じられるので、そのときに痛みの度合いを聞くと半減しているはずです。
1箇所をほぐすだけでも結構な時間がかかりますので、治療点がズレないようにポイントを狙い打ちすることが大切になります。
慣れないうちは難しい部分もありますが、感覚をつかむと簡単にできるので、是非ともマスターしてみてください。