肘関節脱臼のリハビリ治療に関する目次は以下になります。
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肘関節脱臼の概要
肘関節脱臼は、後方脱臼と後外側脱臼に大別され、ほとんどの場合は後方脱臼になります。
転倒した際に手をついて受傷するケースが大半であり、尺骨が上腕骨に対して後ろ側に脱臼して起こります。
高齢者の転倒では脱臼よりも骨折に至る場合が多いため、脱臼に至るのは思春期から成人に多いのが特徴です。
肘関節の構造
肘関節は上腕骨、尺骨、橈骨の3つの骨から成り、それぞれで腕尺関節、腕橈関節、近位橈尺関節を構成します。
これらの3つの骨と関節はひとつの関節包に包まれており、総合して肘関節と呼ばれます。
①腕尺関節 | 上腕滑車と尺骨滑車切痕で構成する蝶番関節で、肘関節の屈曲・伸展に作用する |
②腕橈関節 | 上腕骨小頭と橈骨頭窩で構成する球関節で、肘関節の屈曲・伸展、前腕の回内・回外に作用する |
③近位橈尺関節 | 尺骨頭関節環状面と橈骨尺骨切痕で構成する車軸関節で、前腕の回内・回外に作用する |
肘関節を構成する三つの関節の中で、腕尺関節が骨の安定化に最も貢献しています。
その他に、筋肉や靭帯、関節包などの軟部組織により支持性が高められています。
これらの内外側支持機構が破綻することで肘関節は脱臼し、骨折を伴う場合は脱臼骨折となります。
前面 | 側面 | 後面 |
受傷機転
単純肘関節脱臼は、ラグビーやスケートなどのスポーツによる受傷が多いことが報告されています。
また、高齢者では荷物を持ったまま転倒して受傷するケースもあります。
引用画像(1)
脱臼による損傷部位
肘関節の後方脱臼では、肘内側側副靭帯(肘MCL)や前方関節包、円回内筋が損傷されやすいです。
肘MCLは、腕尺関節の安定や外反運動の制動を担っているため、障害されることで外反動揺が生じます。
後外側脱臼では、外側側副靭帯(肘LCL)や後方関節包、前方関節包、肘MCLの順に障害されやすいです。
肘LCLでは、腕橈関節の安定、内反運動の制動を担っているため、障害されることで内反動揺が生じます。
肘関節脱臼の経過
肘関節の脱臼後は、外見上の明らかな変形がみられるので見落とすことはほとんどありません。
1-2週間で安静時痛はほぼ消失し、肘関節屈曲や伸展運動時の痛みが主な症状となります。
2-3カ月で運動時痛や腫脹はほぼ消失しますが、不安定性が残存するケースもあります。
徒手的整復
単純肘関節脱臼の整復は、肘関節軽度屈曲、前腕回外位にて前腕を牽引することで得られます。
このときに、鈎状突起が上腕骨滑車を乗り越えて肘関節にはまる感触が触知されます。
単純肘関節脱臼では、早期運動、安静固定、手術療法のいずれの治療でも有意な臨床的差は無いと報告されています。
手術の適応基準
観血的治療の適応は、広範囲の軟部組織の損傷があり、屈曲30-45度以上の伸展で再脱臼するものとされています。
手術方法には、靭帯修復術と靭帯再建術があります。
肘関節脱臼の予後について
単純X線写真上で骨傷がない場合、または関節周囲に2-3mm程度の剥離骨折を認める場合のみ予後は良好とされています。
回旋の可動域制限はないか、あっても30度以内になります。
上腕骨の内側上顆、外側上顆に大 きな骨片を認める中等度の障害例では、予後はやや劣りますが、8割程度は回旋制限も30度以内で良好となっています。
橈骨頭や肘頭部に骨折のある重度の障害例においては、回旋制限が60度以上残るケースが半数以上あり、屈曲や伸展の制限も著しく、しばしば中等度以上の疼痛が残存します。
運動の介入時期
肘関節脱臼に対する第一選択は保存療法であり、固定期間は多くの文献で1-2週間に止めることが推奨されています。
早期の可動域運動の開始は重要であり、不安定性や再脱臼率に影響を与えることはなく、長期成績も良好とされています。
ケースにもよりますが、疼痛のない範囲での可動域運動は、通常は受傷の翌日から開始して構いません。
リハビリテーションの流れ(保存療法)
1.受傷直後(約0-1週間) | |
物理療法 | 寒冷療法(腫脹軽減)、電気療法、超音波療法(治癒促進) |
運動療法 | 患部外トレーニング(肩甲胸郭関節機能の向上) |
可動域運動 | 疼痛のない範囲で維持的に実施 |
2.固定除去後(1-5週間後) | |
物理療法 | 寒冷療法(腫脹軽減)、電気療法、超音波療法(治癒促進) |
運動療法 | 肘伸展筋力と外反制動機能のOKCトレーニング |
可動域運動 | 肘伸展および屈曲を拡大的に実施 |
3.積極的運動期5週以降) | |
運動療法 | 四つ這いからの患側体重移動、腕立て伏せなどのCKCトレーニング |
可動域運動 | 肘頭のモビライゼーション |
特異動作 | スポーツ復帰に向けての専門的なアドバイスとトレーニング |
スポーツ復帰の時期
肘関節の脱臼は、骨折等の合併症状の有無により、その予後も大きく変化します。
治療の目標は、機能制限(とくに関節可動域制限)を残すことなく、元の生活を再獲得することにあります。
スポーツ復帰が可能となる指標としては、①関節可動域と筋力の再獲得(健側の80%以上)、②脱臼肢位での不安定感がないことです。
通常は、競技復帰までに3-6ヶ月は要するとされています。
参考資料/引用画像
- 中国・四国整形外科学会雑誌 Vol. 7 (1995) No. 1