股関節前方の痛みの原因とリハビリ治療

股関節前方に起こる痛みの原因とリハビリテーションによる治療方法について解説していきます。

①大腿直筋の癒着

股関節前方を通過する大腿直筋は、下前腸骨棘(直頭)と寛骨臼上縁(反回頭)の2箇所から起始しています。

変形性股関節症の患者の多くは2頭が枝分かれする場所に癒着が起こりやすく、股関節前方の痛みとして訴えることになります。

癒着は短縮位が続くことで起こりますが、股関節OAは臼蓋が浅いため、骨頭を引きつける位置(股関節屈曲・内旋)に置くことが影響します。

癒着すると伸張(股関節伸展)で痛みを伴うことはもちろんですが、滑走障害によって短縮(屈曲)でも痛みを訴えることになります。

そのため、治療では下前腸骨棘から起始する大腿直筋の浅層を把持し、深層との癒着を剥離するように操作を加えていきます。

②仙腸関節障害

仙腸関節障害の約20%は鼡径部痛を起こすがわかっており、痛みを分節性に訴えることが最大の特徴ともいえます。

仙腸関節の痛みはパトリックテストやゲンスレンテストが有名ですが、まずはそれらのテストで鼡径部痛が誘発されるかを確認します。

もしも痛みを再現できるようなら、次に骨盤の動きを止めた状態で再度テストを実施し、痛みが変化するかをみていきます。

それで痛みが全くないようなら仙腸関節障害を強く疑うことができるので、治療は股関節ではなく仙腸関節となるわけです。

骨盤の動きを具体的に止める方法としては、パトリックテストなら検査側の腸骨が開くのを防ぎ、ゲンスレンテストなら腸骨の前傾を防ぎます。

③外側大腿皮神経

大腿外側皮神経の知覚支配領域
大腿外側皮神経の絞扼部

外側大腿皮神経は、鼡径靭帯の下を通過して、縫工筋の内側を折れ曲がるように出ていっています。

そのため、縫工筋に炎症が起きて腫れたり、股に食い込むような窮屈なズボンや下着を付けることで容易に圧迫されます。

縫工筋との癒着などの問題が考えられる場合は、縫工筋の起始付近を指先で把持して左右に揺らすように動かして剥離していきます。

④FAI(股関節インピンジメント症候群)

FAIは大腿骨頚部の肥厚や寛骨臼の過被覆といった骨形態異常によって、股関節深屈曲時に前上方の股関節唇が挟み込まれることで痛みを生じます。

最も多いのは大腿骨頚部が肥厚するカム型で、20〜30歳代の男性に好発することが報告されています。

股関節の「屈曲・内転・内旋」の複合運動は大腿骨頸部前方と寛骨臼が最も接触しやすくなるため、痛みの誘発検査としても有用です。

治療ではまずインピンジメントの起こる股関節深屈曲を行わないように説明し、動きを広げるために後方関節包を伸ばす運動を指導します。

方法としては、四つ這いで股関節に体重が乗った姿勢をとっていただき、そこからお尻を後ろに引くようにして痛みのない範囲で反復してもらいます。

⑤股関節内転筋炎

股関節内転筋炎は運動習慣があるヒトに発生しやすく、股関節を柔らかくするために無理なストレッチするなどして起こります。

治療方法としては、損傷した組織が治癒するまでは運動を避けるようにし、炎症や痛みが落ち着くのを待ちます。

その後は疼痛の原因筋をマッサージして緊張を緩め、そこから軽く伸長位に保持して徐々にストレッチしていきます。

⑥脱腸

高齢者で股関節の付け根に痛みを訴える場合は、脱腸(鼠径ヘルニアまたは大腿ヘルニア)の可能性があります

脱腸は腹壁が老化して弱り、腸が飛び出すことで起こり、鼠径部に明らかな膨らみがあるので視診でわかります。

治療方法としては、ヘルニアは自然治癒しませんので、根治のためには手術療法が必要となります。

ただし、命に関わる病気ではないため、痛みがない場合は無理に手術をする必要はありません。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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