肩を挙げるときに脇の後方あたりに痛みを訴える症例では、小円筋の拘縮が存在しているケースがあるので確認が必要です。
小円筋は棘下筋の下方で上腕骨の大結節下部と関節包に付着しており、肩関節90度屈曲位(やや伸張位)での外旋運動に貢献します。
肩関節下垂位では、小円筋が弛緩しているために筋出力が発揮できないため、外旋運動は主に棘上筋の上方線維が担っています。
筋肉は適度に伸張されたポジションが収縮しやすいので、小円筋の場合は90度屈曲位が最大にパフォーマンスを出せるというわけです。
それより屈曲角度が増えてしまうと伸張位となってしまい、筋出力は発揮できず、さらには付着部である関節包に牽引ストレスが加わります。
小円筋に拘縮が存在している場合は、最終屈曲域で関節包に伸張痛が起こり、結果的に脇の後方あたりに痛みを訴えます。
実際にそれを確かめる検査法として「筋腱移行部の圧迫」があり、例えば、小円筋の筋腱移行部を押しながら肩関節を屈曲させます。
この状態では押しているポイントが牽引されるため、関節包には牽引ストレスが加わらずに痛みが誘発されません。
輪ゴムをイメージしてもらうとわかりやすいですが、伸ばした輪ゴムの途中を押さえつけると、その先は伸ばされないですよね。
これが小円筋を圧迫すると挙上時痛が消失する原理であり、あらゆる筋肉と運動時痛の関係性を確認する検査として利用できます。
この方法で痛みが激減するようなら、疼痛を起こしている主因となっている可能性が考えられるというわけです。
小円筋は健常者でも硬くなって最終域での制限因子となっている場合が多いので、緩めることで即時的に挙上範囲を拡げることも可能です。
なぜ小円筋が硬くなるかですが、腱板構成筋は上腕骨頭を支えているので、常に負担が加わった状態となっています。
腱板損傷が生じている患者では、機能不全を起こしている筋肉を代償するために他の腱板構成筋がより働くことが求められます。
腱板の中で最も損傷しやすいのは棘上筋腱で、次いで棘下筋腱となります。
小円筋の作用は棘下筋の下方線維(斜走線維)と同じであるため、棘下筋腱に機能不全が存在すると小円筋は過剰に緊張して代償します。
その状態が持続すると徐々に小円筋は短縮していき、最終的には肩関節の挙上制限や挙上位での内旋制限が起こるわけです。
ここからは具体的な治療方法ですが、患者には仰臥位をとってもらい、施術者は肩関節を90度屈曲位に保持します。
その状態から肩関節を外旋させるように指示して自動介助運動を反復することにより、小円筋の攣縮を取り除くことができます。
十分に緊張が緩んだら、施術者は上腕骨頭を関節窩で滑らせるように肩関節を内旋させていき、小円筋をストレッチングしていきます。
簡単に書くと、軽い筋収縮を反復させて緊張を取り除いたあとに、痛みをあまり発生させずに伸ばしていくだけです。
原理としては非常に簡単ですが、うまく誘導するためには筋肉の走行や働きをしっかりとイメージできないと難しいです。
筋肉の短縮に伴う関節痛(関節包の牽引ストレス痛)は数多く存在していますので、起始停止や筋腱移行部の場所は是非とも覚えておいてください。