肩甲上神経麻痺のリハビリ治療

肩甲上神経麻痺のリハビリ治療に関する目次は以下になります。

肩甲上神経の概要

肩甲上神経(C5-6)は腕神経叢(C5-T1)の上神経幹から起こっており、棘上筋棘下筋を支配している神経になります。

肩甲上神経は、肩甲骨上部にある肩甲切痕と上肩甲横靭帯の間を通過し、棘上筋に神経を与えます。

さらに肩甲棘の外側から肩甲棘下に回り込み、棘窩切痕と下肩甲横靭帯の間を通過し、棘下筋に神経を与えます。

肩甲上神経

肩甲上神経麻痺について

肩甲上神経麻痺は、臨床でも非常に見落とされやすい神経障害のひとつです。

その多くは肩峰下インピンジメント症候群や腱板損傷、頸部神経根障害と誤診されることになります。

そのため、肩甲上神経麻痺の起こりやすい症状を理解することで、肩関節治療の精度を上げることができるようになります。

患者の訴えとしては、肩関節周囲の疼痛や脱力感ですが、診断で最も重要なポイントは棘上筋と棘下筋の筋萎縮です。

棘下筋のみに発生する筋萎縮は他の障害ではあまりみられない特徴であるため、若年のスポーツ習慣者では確認が重要となります。

とくにバレーボールや野球などの腕を上げる動作を繰り返すスポーツでは、肩甲上神経が伸張ストレスを受けるために発生しやすいです。

また、しばしばガングリオンの発生によって神経が圧迫されているケースも見受けられます。

肩甲上神経の主な絞扼部と障害名

絞扼部 名称
肩甲切痕 肩甲切痕症候群
棘窩切痕 棘窩切痕症候群
斜角筋隙 斜角筋症候群(胸郭出口症候群)

肩甲切痕症候群

肩甲骨の上部にある肩甲切痕部にて神経圧迫を受けている場合を肩甲切痕症候群と呼びます。

肩甲切痕部の障害では、純粋な肩甲上神経麻痺を呈するため、その支配神経である棘上筋と棘下筋の筋力低下や萎縮がみられます。

完全に麻痺するとドロップアームテストが陽性となり、肩関節の外転に著しい筋力低下が起こります。

腱板断裂(棘上筋腱の断裂)との鑑別が必要であり、肩甲切痕症候群の場合は棘下筋の障害にて外旋にも筋力低下を呈します。

【ドロップアームテスト】棘上筋腱の断裂の判定に用いられるテストで、他動的に肩関節を90度外転させ、手のひらを下に向けた状態にし、その位置から検者は手を離し、患者にゆっくり降ろすよう指示する。患者が腕をゆっくり降ろせなかったり、脱力感を伴って上肢が降下すれば断裂が疑われる。

棘窩切痕症候群

肩甲骨の中部にある棘窩切痕部にて神経圧迫を受けている場合を棘窩切痕症候群と呼びます。

棘窩切痕症候群の場合は、棘上筋にはすでに棘上部で神経を与えているため、障害が起きる部位は棘下筋のみとなります。

棘下筋が障害されると下垂位での肩関節外旋の筋力低下が起こりますので、徒手的に筋力検査を行うことも重要です。

ちなみに、肩関節を90度屈曲位に保持した状態からの外旋運動は小円筋が主に働きますので、筋力低下はあまり反映されません。

棘下筋は表層に位置している筋肉であるため、視診や触診で容易に萎縮の有無を判断することが可能です。

腱板断裂のほとんどは棘上筋腱の断裂が発生してから拡大するため、棘下筋腱のみに断裂が生じることはほとんどありません。

そのため、もしも棘下筋のみに萎縮が生じている場合は、棘窩切痕症候群を強く疑うことができます。

斜角筋症候群

斜角筋症候群とは、前斜角筋と中斜角筋の間隙を通過する腕神経叢が圧迫を受けることで、それより下位の神経が麻痺した状態をいいます。

そのため、斜角筋症候群による肩甲上神経麻痺の場合は、その他の多くの知覚異常や運動麻痺呈することになります。

その他の肋鎖間隙や小胸筋下間隙で起こる胸郭出口症候群は肩甲上神経が分岐後の腕神経叢を圧迫するため、棘下筋や棘上筋に麻痺は起こりません。

そのため、上肢全体にわたって症状が出現し、なおかつ棘上筋や棘下筋にも運動麻痺が認められる場合に疑うことができます。

胸郭出口症候群|斜角筋隙

リハビリテーション

基本的には神経の牽引や圧迫が原因であるため、安静の指示と筋のリラクゼーションが治療の第一選択になります。

とくに神経を圧迫している可能性のある部位は十分に緊張をほぐしていき、神経の圧迫が取り除けるようにアプローチしていきます。

萎縮があるからといって筋力強化などを行う必要はなく、むしろ悪化させてしまう可能性があるので控えます。

筋力低下や萎縮に関しては、神経の圧迫さえ除去できたら自然経過の中で改善していくため、まずは原因を特定することが必要です。

肩甲上神経麻痺を呈する患者で多いのは、肩甲骨のマルポジション(下方回旋・前傾・外転方向に変位した状態)です。

肩甲骨が外方に変位すると肩甲上神経が持続的に引っ張られた状態となるので、肩甲骨の位置を調整することが治療では重要となります。

肩甲骨の動きと筋肉

上図は肩甲骨の動きに作用する筋肉をまとめたものですが、肩甲骨を内転させる僧帽筋中部線維と菱形筋を鍛えることが大切です。

また、上方回旋に作用する前鋸筋下部線維と僧帽筋上部線維、胸椎の過後彎を改善させる姿勢矯正も有用となります。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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