肩関節の可動域制限は五十肩や腱板損傷などで起こりやすく、臨床でもよく遭遇する障害のひとつです。
そんな肩関節の制限因子について解説していきます。
正常な肩関節の可動域
肩関節は全関節の中で最も広い可動範囲を有しており、その代償として最も不安定で脱臼しやすい関節でもあります。
その欠点を補うために、肩関節はいくつもの筋肉に覆われており、関節包や靱帯で連結されています。
そのため、可動域制限を有している場合はそれらの筋肉や関節包、靱帯の短縮などが主な原因となる場合が多いです。
肩関節周囲炎による可動域制限
肩関節周囲炎の場合は、主に痛みによる筋肉の防御収縮が可動域制限の原因となっています。
例えば、棘下筋が防御収縮している場合は、棘下筋が伸張される方向(肩関節内旋)への動きが制限されるようになります。
他の筋肉も同様なので、制限がある方向とは反対に作用する筋肉について理解しておくことで、どの筋に緊張があるかはある程度に予測ができます。
方向 | 筋肉 |
屈曲 | 三角筋(前部)、大胸筋(上部)、上腕二頭筋、前鋸筋 |
伸展 | 広背筋、大円筋、三角筋(後部)、上腕三頭筋(長頭) |
外転 | 三角筋(中部)、棘上筋、前鋸筋、僧帽筋 |
内転 | 広背筋、大胸筋(下部)、大円筋、上腕三頭筋(長頭) |
外旋 | 棘下筋、小円筋、三角筋(後部) |
内旋 | 肩甲下筋、大胸筋、広背筋、大円筋 |
水平内転 | 大胸筋、三角筋(前部)、上腕二頭筋 |
過度な緊張がある筋肉のリラクゼーションを図ることで即時的に可動域は向上しますので、非常にわかりやすいかと思います。
最終域で抵抗感を示すような症例では、筋肉の影響よりも、関節包や靱帯の短縮による制限の要素が強い場合が多いです。
廃用症候群による肩関節の拘縮
廃用による制限の場合は、肩関節屈曲や外転、外旋といった方向が制限されやすくなります。
その理由として、大胸筋や大円筋、小円筋の短縮が起こりやすいからです。
筋肉の短縮が制限因子の場合は、ゴムチューブを引き伸ばしたときのような感覚があります。
筋肉以外の制限因子
筋肉のように伸び縮みしやすい組織を収縮性組織、関節包や靱帯のようにあまり伸びない組織をを非収縮性組織と呼びます。
後者が関節可動域の制限因子である場合は、最終域でのやや硬い抵抗感を示すことになります。
方向 | 筋肉 |
屈曲 | 後下方関節包、下関節上腕靭帯 |
外転 | 前下方関節包、下関節上腕靭帯 |
内旋 | 後方関節包 |
外旋 | 前方関節包、上・中関節上腕靭帯、烏口上腕靱帯 |
骨性の制限について
肩関節(肩甲上腕関節)は球関節であるため、関節窩と上腕骨頭の間には骨性の制限は起こりません。
しかし実際は、肩関節外転時に上腕骨頭の大結節が肩峰下と衝突し、骨性の制限をきたしている場合は多く存在します。
その際は、正常な肩関節の動きを再獲得できるように治療していきます。