肩関節に痛みを起こす原因となりやすい肩関節周囲炎について、その病態とリハビリ方法について解説していきます。
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肩関節周囲炎の概要
肩関節周囲炎は別名で五十肩(または四十肩)とも呼ばれ、40〜50代の女性に好発しますが、その原因については明らかとなっていません。
定義上、五十肩は1〜2年以内に自然治癒する疾患とされ、症状が治まることではじめて五十肩が原因だったと診断されます。
20〜30代でも発生することがありますが、年齢が若いほど速やかに回復する傾向にあります。
糖尿病があるヒトでは発生率がかなり高くなることがわかっており、回復するまでの期間が長期化するケースもみられます。
臨床においては、肩関節周囲炎や五十肩と診断されていても、純粋な五十肩ではない場合が多いために鑑別が必要となります。
病期分類
純粋な五十肩(原発性)は、一様に以下の経過をたどります。
第Ⅰ期:疼痛期(発症〜4ヶ月) |
炎症)強い |
疼痛)安静時痛、夜間痛、運動時痛 |
組織)関節包を主とした周囲組織の炎症、筋肉の防御性収縮 |
制限)筋肉の防御性収縮 |
第Ⅱ期:拘縮期(4〜6ヶ月) |
炎症)徐々に軽減 |
疼痛)安静時痛は軽減、夜間痛・運動時痛は残存 |
組織)筋肉の防御性収縮、関節包の伸張ストレスやインピンジメント |
制限)筋肉の防御性収縮+関節包の肥厚 |
第Ⅲ期:寛解期(6ヶ月〜) |
炎症)消失 |
疼痛)安静時痛・夜間痛は改善、運動時痛は軽減 |
組織)関節包の伸張ストレスやインピンジメント |
制限)関節包の肥厚 |
経験則では発症から3〜4ヶ月で炎症はピークに達し、強度の炎症にて夜間や安静時にも痛みが伴うようになります。
炎症を起こしている組織は刺激を避けるために疼痛閾値を下げ、さらに周囲筋を防御的に収縮させて動かさないように働きます。
時間が経過して徐々に炎症が軽減していくと痛みは和らぎますが、それまで炎症を起こしていた関節包には肥厚や癒着が生じます。
そうすると関節可動域制限の原因が初期は筋肉の防御性収縮だったのに対して、中期以降は関節包の縮小(瘢痕化)に切り替わっていきます。
五十肩は初期症状の発症から24ヶ月も継続する場合があり、その後も関節包は瘢痕化が継続して残り、患者はほとんど全方向の動きが引き続き制限されます。
腱板損傷と鑑別する
臨床的に混合されやすい腱板損傷との鑑別ポイントについて、以下の表にまとめました。
肩関節周囲炎 | 腱板損傷 | |
年齢 | 40-50代 | 全年代(60歳以降) |
男女差 | 女性に多い | 男性にやや多い |
好発部位 | 左右差なし | 利き腕 |
対側の発生率 | 20-30% | 少ない |
単純X線写真 | 異常なし | AHIの狭小化 |
痛みの部位 | 主に肩前面 | 主に肩外側 |
烏口突起の圧痛 | 90%に出現 | 11%に出現 |
肩関節外転 | シュラグサイン陽性 | 60-120度で痛み |
拘縮 | とても強い | 少ない |
筋力低下 | なし | あり |
軋轢音 | なし | あり |
球技の既往 | ない場合が多い | ある場合が多い |
痛みの原因(状況別)
1.運動時痛
- 最も出現頻度が高い
- 軽度の炎症によって疼痛閾値が低下し、機械的刺激が加わることで起こる
2.安静時痛
- 強い炎症を起こしている状態
- 機械的刺激がなくても炎症のみによって痛みを引き起こしている
3.夜間時痛
- 臥位では烏口肩峰弓下間隙の狭小化が起こる
- 周囲筋の緊張や癒着等に臥位による狭小化が加わって虚血性障害を起こす
- 対策として肩にタオルなどを入れてポジショニングを整える
肩関節に拘縮が起きる理由
通常、肩関節周囲炎は骨の問題が生じないために、単純X線撮影をしても異常はみつかりません。
ただし、肩関節に造影剤を注入することで関節包の縮小を確認することができるため、診断には有効な手段となります。
正常肩では関節内にゆとりがありますので、造影剤は関節包の下方(腋窩陥凹)に流れこみ、垂れ下がったような状態に写ります。
しかし、肩関節周囲炎の場合は腋窩陥凹の容積が減少しているため、造影剤が下方に落ちていきません。
正常 | 肩関節周囲炎 |
引用画像:古東整形外科
拘縮肩の制限因子
1.収縮性組織
- 内旋:棘下筋、小円筋、棘上筋
- 外旋:大胸筋、広背筋、大円筋、肩甲下筋
2.非収縮性組織
- 内旋:後方関節包
- 外旋:前方関節包、上・中関節上腕靭帯、烏口上腕靱帯
- 屈曲:後下方関節包、下関節上腕靭帯
- 外転:前下方関節包、下関節上腕靭帯
肩関節の拘縮を引き起こす原因組織は、収縮性組織(基本的に拮抗筋)と非収縮性組織(緻密結合組織)に大きく分けられます。
肩関節周囲炎の第Ⅰ期は、強い炎症に伴う筋肉の防御性収縮による制限がメインとなるので、関節可動域の著しい制限をきたします。
第Ⅱ期は非収縮性組織による制限がメインなので、関節可動域制限は最終域のみで生じ、軽度から中等度であることが多いです。
関節包の縮小が原因の場合は、最終域でのモビライゼーションにより、グイグイと短縮している部分を伸ばしていく作業が必要になります。
エビデンスレベル
グレードA(十分な科学的根拠がある) |
なし |
グレードB(科学的根拠がある) |
第Ⅰ期:疼痛緩和にステロイド注射が有効 |
第Ⅰ期:疼痛のない範囲の自動運動が有効 |
第Ⅰ期:関節モビライゼーションは無効 |
第Ⅱ期:関節モビライゼーションは有効 |
第Ⅱ期:深部に作用する温熱療法が有効 |
第Ⅰ期:リハビリテーション
第Ⅰ期(疼痛期)は、患者が激しい疼痛を訴えて日常生活に支障をきたしているため、まずは炎症の軽減が必要となります。
抗炎症作用の強いステロイド注射が著効するため、疼痛を一時的に緩和させる目的で注射療法が選択されます。
飲み薬として非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)も同時に処方され、医師はこの2つを軸として炎症をコントロールしていきます。
リハビリでは、炎症症状が強く出現している時期のため、積極的なアプローチをしても改善することはありません。
むしろ炎症や拘縮はピークに向かって進行しているので、一般的な経過をたどっているなら日に日に悪くなっていきます。
その場合、リハビリをして悪くなったと言われることも多いため、病期について正しく説明しておくことが重要となります。
第Ⅰ期に疼痛のない範囲での自動運動が有効とされているのは、関節周囲で防御性収縮に働いている筋肉の緊張緩和に貢献するためです。
疼痛を伴うマッサージや関節モビライゼーションなどは周囲筋の防御性収縮を強めてしまい、逆効果に働いてしまうので注意が必要です。
肩関節周囲組織の拘縮を少しでも予防するためには振り子運動(コッドマン体操)が有効で、在宅訓練として指導しても良いです。
方法としては、身体を前に倒した姿勢(できれば90度屈曲位)で手首に約2キロの重りを付けて、肩をブラブラと前後に揺らします。
その際にできる限りリラックスした状態を保ち、なるべく肩の周囲筋に力が入らないように注意します。
第Ⅱ期:リハビリテーション
第Ⅱ期(拘縮期)は、炎症症状が落ち着いてきた時期であり、関節包の肥厚や腋窩陥凹の容積減少による可動域制限が主となります。
この時期はまだ炎症性疼痛による周囲筋の防御性収縮が認められる場合も多いため、まずはリラクゼーションを中心に実施します。
具体的な方法としては、対象の筋肉に対して軽いマッサージを行なったり、軽い抵抗下で筋収縮を反復させるように誘導していきます。
周囲筋の緊張が緩んだことを確認し、そこから関節包の肥厚や短縮が存在する方向への関節モビライゼーションを行っていきます。
関節包は深部に存在しているため、ホットパックでは十分に温まらないので、マイクロ波などを使用することが推奨されます。
第Ⅲ期:リハビリテーション
第Ⅲ期(寛解期)は、炎症由来の疼痛がほぼ消失しているため、周囲筋の防御性収縮もほとんど認められません。
なので、従来のようにリラクゼーションにかける時間を削れますので、その分を関節の最終域で行うモビライゼーションに切り替えます。
具体的な方法としては、肩関節屈曲制限なら後下方関節包の短縮が制限因子となるので、最終域に保持した状態から骨頭を後下方に押し込みます。
そうすることで徐々に関節包が伸びてくるので、しばらく繰り返したあとに肩関節屈曲をしてもらうと運動が楽になり、可動域も拡大します。
ただし、臥位で可動域が拡大しても重力下(座位や立位)では可動域が落ちるため、地道に関節包を伸ばしていくことが必要となります。
この時期からは在宅でのストレッチングも行うように指導し、普段から積極的に動かしていただくようにしていきます。