脳性麻痺(cerebral palsy:CP)のリハビリ治療に関する目次は以下になります。
この記事の目次はコチラ
脳性麻痺の概要
脳性麻痺は、受胎から新生時期(生後4週以内)までに生じた脳の非進行性病変で、永続的だが変化しうる運動および姿勢の異常とされています。
また、その症状は満2歳までに発現し、進行性疾患や一過性運動障害または将来正常化するであろうと思われる運動発達遅延は除外されます。
発生率は、1000人あたり約2.2人です。周産期医療の発達とともに発生率は減少傾向であったものが、1981年以降は増加の傾向を示しています。
これは、医療の進歩によって極未熟児の死亡率が減少する一方で、未熟児脳性麻痺を増加させているからだと考えられています。
体重1,000g未満の超低出生体重児では、1,000g以上と比較すると発生頻度は約5.1-8.7倍となります。
発生時期別の特徴
1.出生前 |
原因の半数が出生前にあると考えられている |
発生予防の方法については研究中である |
2.出生時 |
分娩時の異常によるもの |
分娩時の機械的損傷、低酸素症、仮死などがある |
医療の進歩によって減少傾向にある |
3.新生時期(生後4週以内) |
低出生時体重児、高ビリルビン血症、感染症による脳障害などがある |
医療の進歩で500g以下の新生児でさえ生存可能となっている |
低出生時体重児の脳性麻痺の割合が増加している |
発生時期別の原因
時期 | 障害 | 原因 |
出生前 | 中枢神経系の奇形 | 小頭症、脳梁欠損、裂脳症 |
胎内感染 | 先天性サイトメガロウイルス感染症、先天性風疹症候群 | |
その他 | 薬物中毒、有機水銀中毒 | |
周産期 | 低酸素性虚血性疾患 | 前置胎盤、子宮破裂、胎便吸引症候群などによる仮死 |
頭蓋内出血 | 硬膜下出血、脳室周囲白質軟化症(PVL) | |
その他 | 核黄疸、中枢神経感染症 | |
出生後 | 急性脳症 | - |
脳血管障害 | もやもや病、脳塞栓、頭蓋内出血 | |
不慮の事故 | - | |
乳幼児期てんかん | - |
脳性麻痺タイプの分類
1.痙直型脳性麻痺(spastic CP) |
筋緊張の増大と病的反射の出現 |
錐体路徴候を伴い、反射の亢進やバビンスキー反射の出現 |
CP全体の78%を占め、その分類は単麻痺2%、片麻痺21%、両麻痺22%、三肢/四肢麻痺33% |
2.失調型脳性麻痺(ataxic CP) |
規則正しい筋の調整が失われる |
運動を実行する際に異常な力やリズム、不正確さが伴う |
CP全体の6%を占める |
3.ジスキネティック型脳性麻痺(dyskinetic CP) |
不随意的で、調節が困難な何度も繰り返すような、時には決まりきった様式の運動を示す |
Dystonic 脳性麻痺またはChoreo-athetotic脳性麻痺に細分類される |
CP全体の3%を占める。混合型脳性麻痺は全体の13% |
4.ジストニック型脳性麻痺(dystonic CP) |
常に増大した筋緊張があり、動きが少なく活動の減少やこわばった運動を示す |
5.舞踏様アテトーゼ型脳性麻痺(Choreo-athetotic CP) |
常に低下した筋緊張があり、 動きが過剰で活動性の増大や激しい運動を示す |
ADL障害に影響する因子
- 筋緊張の以上
- 姿勢反射獲得の阻害
- 知的障害 etc.
脳性麻痺の治療について
出生時は、体温調整や環境・呼吸などの基本的な生命維持機能が未成熟のため、体温調整や呼吸管理、栄養補給が新生児集中治療室(NICU)で行われます。
てんかんは内服治療を行い、痙性や筋緊張亢進には、薬物療法、フェノールブロック、ボツリヌス毒素筋肉内注射療法などが実施されます。
成長してから出現する変形や拘縮には、装具療法やキャスト療法などが行われます。
とくに脊柱側弯の発生頻度が高いため、それを見据えたリハビリテーションの提供が求められます。
理学療法における手技の有効性
現在、脳性麻痺児の運動機能障害に対して、神経発達学的治療法(NDT)やVojta法、上田法を中心に、種々のリハビリが実施されています。
しかし、NDTやVojta法が一般的な運動療法より効果が高いといった報告はなく、特別な手技が推奨されているわけではありません。
片麻痺児の麻痺側上肢の機能改善においては、CI療法による自発的使用頻度の増加において効果的な介入とされ、実施が推奨されています。
基本的な考え方として、①機能障害、②能力障害、③社会的不利のレベルに分けて、それぞれの問題点を洗い出しながら治療は進めていきます。
ケーススタディでイメージする
成長過程について大まかにイメージしておくことは、治療方針を決める上で極めて重要になります。
なので、ここでは文献を参考にして大まかな成長過程を記載します。事例は、出生時体重が876gで痙性両麻痺を発生した男の子です。
年齢 | 内容 |
1歳5ヶ月 | ずり這いを始める。 |
3歳6ヶ月 | 車椅子を作製する。 |
4歳頃 | PCWで歩行練習開始、短下肢装具使用し20m可能 |
就学時 | 家庭では四つ這い移動、学校では車椅子自走 |
リハビリ時は短下肢装具着用にて平行棒内見守りレベル | |
肘関節の屈曲拘縮、膝関節の運動制限に対して整形外科手術 | |
中学生 | 家庭ではつたい歩き、学校では車椅子自走 |
リハビリ時はロフストランド杖で歩行が5m可能 |
一般的な運動メニュー
1.筋力強化 |
患者に不利益を生じることなく筋力を増強できる |
目標動作に応じて、必要な筋力を強化していく |
2.ストレッチ |
痙性麻痺を抑制する作用が期待できる |
短縮しやすい筋肉は、腸腰筋、大腿直筋、大腿筋膜張筋、ハムストリングス腓腹筋と上肢の浅指屈筋および深指屈筋 |
3.バランストレーニング |
動揺に対する重心の揺れの減少 |
正常に近い筋活動順序の出現 |
全身振動トレーニングを用いた積極的なアプローチ |
常に低下した筋緊張があり、 動きが過剰で活動性の増大や激しい運動を示す |
獲得動作の目安時期
機能障害に対するリハビリテーションとして、姿勢反射の獲得状況に着目します。
獲得が遅れている場合、なにが阻害因子となっているかを考え、姿勢反射の向上的な変化を促すように治療していきます。
アプローチは主に原始反射を抑制し、立ち直り反応および平衡反応を引き出すことに焦点が当てられます。
寝返り(6か月)
- 巻き戻し反応にて体軸内での回旋を促進させ、寝返りを可能とする
- 巻き戻し反応が出現するには、非対称性緊張性頸反射(2-6ヶ月)が消失していなければならない
座位(8か月)
- 支助なしで座位がとれるには背臥位と座位での傾斜反応が必要
- 首がすわっていなければならない
ハイハイ(9か月)
- 四つ這い位傾斜反応の出現が必要
- 四つ這いには対称性緊張性頸反射が消失していなければならない
支え立ち(10か月)
- 後方の保護伸展反応の感性が必要
- 足把握反射(生後-9ヶ月)が消失していなければならない
- 反射が長く残存している場合は歩行が障害される
歩行(1歳半まで)
- 立位での傾斜反応が発現し始めていることが必要
- 足把握反射(生後-9ヶ月)が消失していなければならない
能力障害へのアプローチ
脳性麻痺は、一般的に10歳を過ぎると発達の完了と共に機能の大幅な改善を望むことは難しくなってきます。
なので、幼児からの継続的な反復訓練と、生活のなかでの実用化の努力こそが治療にはおいては重要な役割を持ちます。
具体的な方法として以下の点が挙げられます。
- 一日の生活の流れの中にADL能力維持のプログラムを組み込む
- 代償機能を大いに利用する
- 補助具を可能な範囲で利用する
- 居住環境をできるかぎり整備、改善する
成人期の問題について
成人期になると股関節や脊柱の変形、疼痛、排泄の問題などの訴えが増え始め、30代以降からは生活や仕事に関する能力低下が目立つようになります。
加齢に伴う二次障害に対しては、整形外科治療の適切な介入と、環境調整や動作方法の変更などを通して予防意識向上に努める必要があります。
しかし、現状では成人期までのフォローアップ体制は十分とは言えず、多くの課題を残している状況です。