腰痛で筋痙攣(こむら返り)が起こる原因と対処法

腰痛の患者さんを治療している際に「夜によく足がつる」といった訴えは非常に多く聞かれることかと思います。

そのときに適切な対処法を伝えられるためにも、まずはその原因を知っておくことが治療家には求められます。

ここでは腰痛と筋痙攣の関係性についてわかりやすく解説していきます。

筋紡錘と腱紡錘

足がつる状態を医学用語では「有痛性筋痙攣」や「筋クランプ」と呼んでおり、自分の意思とは無関係に筋肉が強く収縮してロックされた状態を指します。

そのメカニズムを知るためには、まずは筋肉の構造について理解しておく必要があります。

筋肉は大きく分けて筋部(筋紡錘)と腱部(腱紡錘)に分けられますが、筋紡錘は筋肉の伸び過ぎを、腱紡錘は筋肉の縮み過ぎを調整しています。

筋部が収縮または伸張すると腱部は伸ばされ、筋部が弛緩すると腱部は縮むようになっており、互いに状態を確認しながら作用します。

例えば、筋肉が過剰に収縮しすぎると腱部が伸ばされすぎて断裂の危険性があるため、腱紡錘が筋に対して縮み過ぎないように命令を出します。

反対に筋肉が過剰に伸張しすぎても腱部が伸ばされすぎて断裂の危険性があるため、筋紡錘が筋に対して伸び過ぎないように命令を出します。

これらは互いに相反する作用ではありますが、目的は筋肉を損傷させないためということで共通しています。

この理屈で考えていくと、筋肉をストレッチをした際には筋紡錘がメインで働くためにも伸張性を効率よく引き出すことはできません。

そのため、筋肉を伸ばしきったポジションから筋収縮を行うことで腱紡錘を働かせ、筋肉に緩める合図を出すことが効果的であるといえます。

腱部を叩くと筋肉が収縮(伸張反射)するのは、叩くことで腱部が瞬間的に伸張されることに由来しますが、そうなると筋肉は緩む方向に働くはずです。

そうならないのは、瞬間的な刺激は腱部の伸張よりも筋部の伸張が優遇され、筋紡錘が脊髄レベルで反射を起こすからです。

刺激が瞬間的でなく、長く作用している場合は筋部よりも腱部を伸張していることを脳が理解するため、腱紡錘の作用が強まります。

この理論を応用することで、腱部を短時間(1秒ほど)だけ軽く圧迫することにより筋出力を上げることが可能となります。

それより長時間(5秒以上)になると逆に腱紡錘が働いて、筋出力を下げてしまうことになります。

筋痙攣のメカニズム

筋紡錘と腱紡錘の話が長くなってしまいましたが、この理屈を覚えておくと筋痙攣のメカニズムと対処法がより簡単に理解できるはずです。

筋肉の過剰な収縮(痙攣)が起こった場合、通常なら腱紡錘が伸ばされるために筋肉は緩む方向に作用されます。

それが何らかの理由によって腱紡錘が作用していないため、いつまで経っても収縮がおさまらない状態となります。

痙攣が持続する時間はどれだけ腱紡錘の反応が早く出るかにかかっており、そこにアプローチしていくことが大切となります。

筋痙攣を素早く止めるコツ

腱紡錘の反応を引き出すためには、腱部を伸張させることが必要であることは前述しました。

通常なら筋肉が収縮をした時点で反応するのですが、それがないために別の方法で反応を引き出すことが必要となります。

その方法が筋肉をストレッチすることであり、筋肉を伸張させることで腱部も伸張でき、結果的に腱紡錘を働かせることができます。

急激に伸張すると筋紡錘がさらに反応して逆効果となるため、ゆっくりと伸ばしていったほうがよいです。

ある程度に伸ばしてしまったら次はその位置で軽く筋収縮を入れていき、腱紡錘への刺激を増やしていくようにします。

これは予防法としても有効であり、例えば、こむら返り(腓腹筋の筋痙攣)の場合は、アキレス腱伸ばしの位置から足関節底屈に力を入れていきます。

踵が浮き上がってしまうと腱部が伸ばされないため、しっかりと地面につけた状態で等尺性収縮を行うことがコツです。

筋痙攣を起こしやすい状態

筋痙攣はあらゆる筋肉で起こる可能性があり、加齢とともに増えていくことが知られています。

その理由は筋肉量の減少や新陳代謝の低下、動脈硬化による血行不良が指摘されています。

そこに筋疲労や神経障害、脱水(電解質異常)などが加わることでより発生しやすくなります。

睡眠中に足がつりやすいのは、腱紡錘の働きが低下することに加えて、夜間に脱水や冷えによる血流低下が起きていることに由来します。

筋痙攣を起こしやすくなる疾患としては、糖尿病や椎間板ヘルニア、脊柱菅狭窄症、閉塞性動脈硬化症、脳梗塞などがあります。

ほとんどの場合は、筋痙攣はあまり問題のない一過性の症状だったりしますが、上記のような疾患が隠れている場合もあるので注意が必要です。

電解質異常ってどういうこと?

腱紡錘の働きが悪くなるメカニズムはよくわかっていないのが現状ですが、その中で最も可能性が高いとされているのが電解質異常です。

電解質はミネラルとも呼ばれており、マグネシウムやカルシウム、ナトリウム、カリウムなどがあります。

これらのミネラルは神経伝達や筋収縮に作用しており、とくに筋痙攣にはマグネシウムの不足が関与していると考えられています。

これらのミネラルバランスが崩れると、腱紡錘の働きが鈍くなり、筋収縮を調整できなくなります。

腰痛と筋痙攣の関係性について

腰痛の中でも筋痙攣を起こしやすい疾患は限られており、椎間板ヘルニアや脊柱菅狭窄症がそれらにあたります。

これらの疾患に共通することは「神経を圧迫している」という点であり、神経障害によって腱紡錘の作用が低下していることを示唆します。

神経の圧迫を運動療法にて取り除くことは難しい部分ではありますが、腰部由来の筋痙攣なら腰部の自主エクササイズも検討すべきです。

脊柱菅狭窄症と下肢の閉塞性動脈硬化症は症状が似ている部分もありますので、鑑別するように注意してください。

おわりに

筋痙攣で病院を受診すると必ずといっていいほど処方される漢方薬が芍薬甘草湯ですが、現在はアマゾンでも購入することが可能です。

夜間につる人は就寝前に内服することで予防効果が期待できますが、「毎回起こるわけでもないからどうしよう」という人も多いはずです。

その場合は万が一に備えて枕元に常備しておき、筋痙攣が起きたときに飲まずに舐めると速効性があるので効果的です。

重度の筋痙攣は数十分経っても引かずに地獄の苦しみとなっていることも多いため、大きな問題ではないと軽くあしらわないことが大切です。

できる限りに原因をつきとめるように努力し、患者に寄り添って考えていくようにお願い致します。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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