腰痛に対する薬物療法やブロック注射の効果や選択方法について、腰痛診療ガイドラインを基にわかりやすく解説していきます。
ブロック注射の種類
ブロック注射には、①局所麻酔薬、②神経破壊薬、③抗炎症薬(ステロイド)などの種類があります。
1.局所麻酔薬
臨床において最も頻繁に使用されるのは局所麻酔薬を用いた方法で、リドカインなどの薬剤を注入して、対象部位の活動を一時的に遮断します。
その効果時間は短く、数時間から数日で元に戻るため、障害が疑われる部位に対して、診断的に用いられる場合も多いです。
注射後に痛みが治まるようなら、原因がそこにあると判断できます。
2.神経破壊薬
神経破壊薬では、神経そのものを破壊するため、その効果は数カ月から数年間と長期にわたります。
しかし、痛みに関係のない神経を破壊してしまう危険もあるため、実施する際は慎重な判断が求められます。
近年は、高周波熱凝固療法という方法が注目されており、この方法ではピンポイントに神経を破壊することできるため安全性が高いのが特徴です。
作用機序として、ラジオ波と呼ばれる高周波によって発生する熱で神経細胞を凝固させ、神経の伝導を阻害します。
3.抗炎症薬(ステロイド)
抗炎症薬では、炎症が起こっていると考えられる箇所にステロイドを注入することにより、炎症を抑える方法になります。
服薬と比較して、直接的に対象部位へ注入することができるので、その効果はとても高いのが特徴です。
一般的には、椎間関節や硬膜外に対して使用される頻度が高いです。
ブロック注射の対象部位
腰痛に対して実施されるブロック注射の対象部位は、①神経根、②硬膜外、③トリガーポイント、④仙腸関節、⑤椎間関節などがあります。
神経根ブロック注射では、限局した神経徴候が認められる場合に、その原因部位である神経根に麻酔薬を注入することで活動を抑制します。
硬膜外ブロックでは、脊椎の中にある硬膜外腔というスペースに局所麻酔薬やステロイドを注入することで、注入した領域の神経の痛みや炎症を抑えることが可能です。
対象範囲が広いため、痛みの原因がはっきりしない場合に実施される場合が多いです。
トリガーポイントブロックでは、痛みの引き金になっていると考えられる筋肉の硬結部や筋膜に麻酔薬を注入することで、知覚神経を一時的に遮断させる方法となります。
腰痛に対する薬物療法
1.急性腰痛に対する選択薬
急性腰痛に対しての薬物療法は、日本では第一選択薬が非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アセトアミノフェンです。第二選択薬は筋弛緩薬となります。
日本 | ヨーロッパ | USA | |
NSAIDs | ◎ | ○ | |
アセトアミノフェン | ◎ | ○ | |
抗不安薬 | ○ | ○ | |
筋弛緩薬 | ○ | ○ | ○ |
オピオイド |
※「◎」は第一選択薬、「○」は第二選択薬
2.慢性腰痛に対する選択薬
慢性腰痛に対しての薬物療法は、日本では第一選択薬が非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、アセトアミノフェンです。第二選択薬は抗不安薬、筋弛緩薬、抗うつ薬、オピオイドになります。
日本 | ヨーロッパ | USA | |
NSAIDs | ◎ | ○ | ◎ |
アセトアミノフェン | ◎ | ◎ | |
抗不安薬 | ○ | ○ | ○ |
筋弛緩薬 | ○ | ○ | |
抗うつ薬 | ○ | ○ | ○ |
オピオイド | ○ | ○ | ○ |
薬物療法についての解説
1.抗炎症薬(NSAIDs)
NSAIDsは日本で腰痛に対してもっとも使用されている薬剤であり、鎮痛効果も高いですが、副作用も発生しやすいため、疼痛の強い時期に限った短期間の投与が望ましいです。
ステロイド剤と比較して効果は若干劣りますが、重篤な副作用が起こりやすいため、一般的には非ステロイド剤であるNSAIDsが第一選択薬となる場合が多いです。
2.アセトアミノフェン
アセトアミノフェンはNSAIDsよりも若干効果は劣りますが、重篤な副作用は稀であり、抗炎症作用は少ないのに鎮痛効果が高いところが特徴です。
3.筋弛緩薬
筋弛緩薬は末梢性に作用するものが急性腰痛に対して推奨されていますが、日本で処方される大半は中枢性筋弛緩薬であるため、通常日本では使用されることはほとんどありません。
また、高率に副作用が出現するため、その使用に関しては注意が必要です。
4.抗不安薬
抗不安薬は、かつて精神安定剤とも呼ばれていました。
その作用は、ヒトの情動を司る脳辺縁系や視床下部に対して、抑制的に作用することで、不安や緊張状態を緩和することが目的となります。
脳の活動や感情を抑制する働きがあるので、感情の平面化や強い眠気といった副作用が出現します。
5.抗うつ薬
抗うつ薬では、直接的な原因の改善というよりも、鎮痛系の賦活として活躍する薬剤になります。
脳内で一旦分泌されたセロトニンやノルアドレナリンなどの鎮痛物質の再取り込みを阻害することで、脳内の濃度を維持する働きがあります。
うつ病などでは脳内の鎮痛物質が低下していますので、心理性腰痛に対しては著効する場合が多いのも特徴です。
6.オピオイド
オピオイドは、現在使用できる鎮痛薬の中で最強の効力を発揮できる薬剤です。末期癌の痛みに使用されるモルヒネなどもオピオイド系鎮痛薬に属します。
NSAIDsでも効果の認められない重症例に対して処方されます。