腰痛を起こす原因と治し方について、理解がしやすいように図を用いて解説していきます。
下図は腰椎を上側(水平面)と横側(矢状面)から見た画像になります。
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筋性腰痛症①:腰方形筋(側部)
片側の腰痛を訴える場合に、まず最初に確認しておきたい筋肉のひとつが腰方形筋(側部)になります。
腰方形筋が硬くなる原因のひとつに中殿筋の筋出力低下があり、いわゆるトレンデレンブルグ徴候が起きて対側の骨盤が下がります。
それを防ぐために中殿筋の弱化側とは対側の腰方形筋が緊張し、疲労が蓄積して圧痛を認めることにつながります。
そのため、治療では腰方形筋の緊張を取り除くことに加えて、対側の中殿筋を強化して片脚立位が安定することが必要となります。
筋性腰痛症②:腰腸肋筋
ヒトが立位や座位などの姿勢を保つためには、背中の筋肉が適度に収縮(緊張)している必要があります。
具体的には、最長筋(脊柱起立筋のひとつ)と多裂筋が適度に緊張している状態が理想的といえます。
しかし、中には腰腸肋筋(脊柱起立筋群のひとつ)が過度に緊張して、姿勢を保っている場合もあります。
多裂筋などの深層筋(コア筋)は姿勢保持に関与するため、遅筋線維が豊富で疲労しにくい構造となっています。
それに対して、表層筋(グローバル筋)は速筋線維が豊富であるために瞬発力に優れていますが、すぐに疲労してしまうことが特徴です。
そのため、グローバル筋が常時緊張している状態は理想的ではなく、疲労によって痛みが起こりやすいです。
原因としては、多裂筋や大殿筋の弱化、腸腰筋の短縮(股関節の伸展制限)、脊椎の変形などが考えられるので、症状に合わせてアプローチします。
筋性腰痛症③:内腹斜筋
内腹斜筋の痛みは横腹(腸骨稜の中間線)あたりに出現しやすく、疲労が蓄積した結果として圧痛を認めます。
疲労する最大の原因はコア筋の弱化であり、弱化していると歩行時に骨盤が側方に動揺してしまいます。
それを受け止めるのが内腹斜筋と腸脛靭帯であり、内腹斜筋が硬いケースでは同時に腸脛靭帯も非常に硬くなっています。
この状態のままウォーキングを続けると、いずれは組織が破綻してしまい、強い腰痛や下肢痛を訴えることにつながります。
筋性腰痛症④:腸腰筋
腸腰筋は大腰筋と腸骨筋の総称ですが、これらの筋肉が硬くなると骨盤は前傾し、腰椎が過度に前弯した状態(反り腰)になります。
また、股関節伸展の可動域が制限されることで代償的に腰椎が伸展し、椎間関節の負担が増加してしまいます。
治療方法としては、腸腰筋のリラクゼーションとストレッチングに加えて、腰椎の屈曲運動、腹筋群や大殿筋の強化が有効です。
筋性腰痛症⑤:コルセット筋
コルセット筋は「腹圧」を高める筋肉を指し、①後方の多裂筋、②前方の腹横筋、③上方の横隔膜、④下方の骨盤底筋群からなります。
とくに腹横筋と多裂筋は急激な四肢の運動により姿勢が崩れると、最初に活動的になる筋肉であることが明らかとなっています。
そのため、スポーツなどの激しい運動でコルセット筋が働いていないと、体幹がブレて本来の力を発揮することができません。
体幹がブレるということは、コア筋よりもグローバル筋の方が強く収縮するということです。
多裂筋よりも脊柱起立筋が強く収縮すると腰椎が伸展し、椎間関節の負担が増えて、結果的に腰椎分離症や椎間関節障害を起こします。
そのため、スポーツ選手はコア筋を鍛えることにより、急激な四肢の動きの場面で体幹を安定させることが必要となるわけです。
筋性腰痛症⑥:コア筋
前述したコルセット筋もコア筋に含まれますが、脊椎を安定させるコア筋と脊椎を動かすグローバル筋を分けると以下になります。
グローバル筋 | コア筋 |
腹直筋 | 腹横筋 |
外腹斜筋 | 多裂筋 |
内腹斜筋 | 腰方形筋(深部) |
腰方形筋(側部) | 回旋筋群(深部) |
脊柱起立筋 | |
腸腰筋 |
コア筋が弱化していると動作時(歩行など)に体幹が動揺し、それを受け止めるためにグローバル筋が収縮します。
前述したようにグローバル筋は姿勢の制御には適していないため、動員され続けると疲労し、押すと強い痛みを伴うことになります。
とくに腰方形筋や脊柱起立筋、内腹斜筋、腸腰筋は硬くなりやすいため、なぜ硬くなったのかを考えて、その原因にアプローチすることが大切です。
腰部コンパートメント症候群
脊柱伸筋群(脊柱起立筋や多裂筋)に過緊張が存在すると、筋内圧の上昇に伴う血流障害性の腰痛が起こります。
その状態を腰部コンパートメント症候群といい、脊椎後弯変形(円背姿勢)のある高齢者に多く発生します。
洗面動作のように立った状態で腰を曲げることによって筋内圧が上昇するため、長時間の立位や前かがみの姿勢で痛みが増強します。
治療方法としては、脊柱伸筋群を包み込んでいる筋膜を中心にほぐすようにして、血流を改善することが効果的です。
筋膜性腰痛症
腰痛を起こしている原因が、筋実質よりも深筋膜に由来しているものを筋膜性腰痛症といいます。
特徴としては、腰部を押すと痛みを訴え、皮膚のツッパリ感や筋膜の滑りにくさを感じることができます。
筋膜由来の痛みは日によって波が起きやすく、調子が良い日と悪い日で差が激しいことも多いです。
最も腰痛の原因となりやすいのがSBL(スーパーフィシャル・バック・ライン)であり、このライン上に硬さを感じることができます。
実際に強い腰痛を起こしているケースでは、後方のSBLに加えて、前方のDFL(ディープ・フロント・ライン)にも硬さを認めます。
治療方法としては、腰部の筋膜を伸ばす方向にリリースを加えていき、硬さがほぐれるようにアプローチしていきます。
腰椎椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニアは、椎間板中心部にある瑞鶴組織が線維輪の損傷部位から飛び出した状態をいいます。
椎間板ヘルニアの90%以上はL4/L5間、L5/S1間で起こり、L4やL5、S1神経根を圧迫して障害をきたします。
髄核がどこに飛び出しているかで症状は異なりますので、以下に代表的なものを掲載していきます。
①傍正中ヘルニア
腰の痛みの原因で代表的な疾患が腰椎椎間板ヘルニアですが、しかし実際はそれほど腰痛を起こしているものは多くありません。
腰椎椎間板ヘルニアの中で最も多いのが傍正中ヘルニアで、全体の約8割を占めています。
椎間板の後方は後縦靭帯によって保護されているので、真後ろに髄核が飛び出すことは少なく、ほとんどはその傍から飛び出すことになります。
方向的には斜め後方に飛び出した状態で、L4/L5レベルではL5の神経根を圧迫するため、L5神経支配領域に症状が出現します。
硬膜の前方を多少ながら圧迫しているために腰痛もありますが、それほど強い痛みを訴えることはありません。
治療方法としては、飛び出した髄核を矯正することは困難なので障害レベルを安静に保ち、ヘルニアが吸収されるのを待ちます。
②正中ヘルニア
正中ヘルニアは、腰椎椎間板ヘルニアの中で二番目に多いタイプで、全体の2割弱を占めています。
椎間板の後方は後縦靭帯によって保護されていますが、膨隆した椎間板によって後縦靭帯ごと後方へ押し出された状態になります。
後縦靭帯は機械的閾値が高い組織であるため、圧迫が持続している間は自制内の重だるい痛みが長く続くことになります。
治療方法としては、髄核が飛び出していないので矯正できる可能性があり、そのためには体幹伸展運動が効果的です。
髄核が後縦靭帯を突き破って外(脊柱管)に飛び出してしまうケースもあり、その際はぎっくり腰を経験している場合があります。
圧迫を受けていた組織が解放されて重苦しい痛みが消失しますが、その後は硬膜の前方を圧迫するために再度腰痛が出現することも多いです。
飛び出した髄核がちぎれると脊柱管内に詰まってしまうこともあるため、吸収されるまでは患部の安静が必要です。
③椎間孔内外側ヘルニア
発生頻度としては少数ですが、最も症状が強いタイプのヘルニアです。
椎間孔内外側ヘルニアは神経根が最も強く絞扼されるために、神経根に炎症が起きやすく、そこに刺激が加わることで激痛を訴えるのが特徴です。
ただし、神経根の圧迫で腰痛が起こることはなく、基本的には殿部から下肢にかけての痛みになります。
④椎間孔外外側ヘルニア
椎間孔外で外側ヘルニアが発生した場合は、前方から神経根が圧迫されても後方に逃げることができるので絞扼されにくいのが特徴です。
⑤椎体内型ヘルニア(シュモール結節)
一般的に椎間板ヘルニアは後方に突出しますが、稀に椎体内に飛び出していくことがあり、それをシュモール結節と呼びます。
椎体と椎間板の間には軟骨終板が存在していますが、その軟骨終板に亀裂が入り、椎間板内の成分が椎体内に漏れ出すことで起こります。
痛みの性質は椎間板症にちかく、主症状は腰痛であり、硬膜や神経根を圧迫してはいないので神経症状はありません。
椎間板内圧を高める姿勢で腰痛は悪化し、長時間の座位が困難となるといった訴えが聞かれます。
腰椎椎間板症
腰椎の椎間板が加齢や損傷によって変性してしまった状態を、変形性椎間板疾患(腰椎椎間板症)といいます。
椎間板は左右の脊髄洞神経が支配しているため、片方に炎症が起きていても幅広く腰の真ん中に痛みを訴えます。
20-30歳 | 30-40歳 | 40-50歳 | 50歳以上 |
加齢によって椎間板は徐々に潰れていき、髄核も扁平化するため、50代以上では新しく髄核が飛び出すことはほとんどなくなります。
そのため、腰椎椎間板ヘルニアは40歳以下に多く発生し、椎間板症は変性が進行してくる40歳代に多く発生します。
椎間板が変形すると上下の椎体の動きのコントロールを失い、可動域が必要以上に増加し、その過度な動きが炎症反応と相まった刺激により局所痛を起こし、慢性的な腰痛となります。
椎間板症は疼痛部位を尋ねると「この辺り」と手のひらを置いて場所を限局できないのに対して、椎間関節障害の場合は「ここ」と指先で示すことができることが特徴です。
腰痛が両側性(脊髄神経前枝)か片側性(脊髄神経後枝)かで原因が異なりますので、以下の表を覚えておくと臨床でも役立ちます。
片側性 | 両側性 |
筋・筋膜性腰痛 | 椎間板症 |
椎間関節障害 | 骨粗鬆症性脊椎圧迫骨折 |
コンパートメント症候群 |
腰部脊柱管狭窄症
腰部脊柱管狭窄症とは、骨や靭帯の肥厚、椎間板変性、腰椎すべり症、脊柱側弯症などが原因で脊柱管に狭窄をきたした状態です。
変形性関節症と同様で加齢的な変化が原因であるため、発生のほとんどは60歳代以降であり、高齢になるほど発生しやすくなります。
前方の硬膜が圧迫されると腰痛や臀部痛が発生し、後方の硬膜が圧迫されると臀部痛や下肢痛が起こります。
また、馬尾を圧迫することで神経障害が起きるため、症状に確認して障害の程度を判断することが重要です。
治療方法としては、骨や靭帯の肥厚、腰椎すべり症といったものが原因なら手術でしか改善が望めません。
狭窄の原因が椎間板ヘルニアや椎間関節の拘縮であるなら、保存的治療で改善する可能性があります。
椎間関節障害
椎間関節周囲に何らかの障害をきたして炎症(痛み)が生じている状態を、椎間関節障害といいます。
椎間関節周囲は痛みを感じる神経が豊富であるため、痛みに対しては非常に敏感となっています。
椎間関節障害の場合は腰部の片側に痛みを訴え、関節部を直接的に圧迫することで痛みの有無を確認することができます。
基本的に椎間関節の伸展で痛みを誘発できますが、付着している関節包や多裂筋の問題などにより屈曲時痛も起こります。
治療方法としては、オーバーユース障害の場合は安静が必要となり、同時に周囲組織をストレッチしていくことが効果的です。
とくに腸腰筋の短縮などで股関節伸展が制限されている場合は、代償として腰椎伸展が強く出ているケースが多いです。
そのため、腸腰筋のリラクゼーションとストレッチング指導、体幹屈曲運動などが有効となります。
腰椎分離症
若年期の過剰な運動が原因で起こりやすい障害で、発生初期はヒビが入るのみですが、そのまま運動を続けることで完全に分離します。
分離すると自然治癒することはなく、そのまま椎骨が前方へ滑ってしまい、腰椎すべり症に発展しやすくなります。
痛みは椎間関節を伸展させることで誘発でき、伸展に加えて側屈させることで左右のどちらに問題があるかを鑑別できます。
訴えとしては、激痛ではなく鈍痛である場合がほとんどで、障害のある棘突起に圧痛を認めます。
治療方法としては、発生の初期段階でコルセットなどの装具療法を行い、骨の修復が完了するまではスポーツ活動を中止します。
腰椎すべり症
腰部はL5/S1椎間関節が拘縮しやすいために、隣接関節であるL4/L5椎間関節の屈曲が増大しやすい傾向にあります。
この過剰な動きを周囲組織が受け止めきれなかった場合に、上位の椎体(L4)が前方にすべることになります。
すべり自体が痛みの原因となるわけではなく、すべりによって脊柱管に狭窄が生じ、痛みや神経症状が起きてからはじめて問題となります。
治療方法としては、運動にて矯正することは不可能なので、障害が著しい場合は手術療法が選択されます。
椎体圧迫骨折
椎体圧迫骨折は、骨折という名称ではありますが、正確には椎体にヒビが入ったような状態です。
骨粗鬆症で骨が脆くなったり、椎間板が変性してクッション作用が乏しくなることで発生しやすくなります。
そのため、70歳以上の高齢者に起こりやすく、体動時に激痛を伴うことが特徴です。(一部の人では痛みがない場合もある)
椎間板と同様に左右の脊髄洞神経が骨膜を支配しているため、幅広く腰の真ん中に痛みを訴えます。
治療方法としては、骨折部が治癒するまでは安静を保ち、骨が潰れるのを防ぐことが大切です。
強直性脊椎炎
脊椎に炎症が起こり、上下の椎骨が結合していくように進行していくため、単純X線写真では竹節のように見えます。
遺伝性の関与も疑われており、発生のほとんどは40歳以下となります。
がんの脊椎転移
脊椎腫瘍はがんの既往や体重減少、1ヶ月以上改善のない腰痛、55歳以上の年齢などを指標として疑っていきます。
がんの既往があるようなら可能性が0.7%から9%へと劇的に上がるため、注意して観察することが必要です。
脊髄腫瘍
脊柱管内に発生する腫瘍のことを脊髄腫瘍と呼びます。腫瘍は脊髄や馬尾を圧迫するため、知覚障害や運動障害といった神経症状が出現します。
感染性脊椎炎
感染症に関しては、発熱や静脈投与の既往、最近感染症の既往などが指標となります。脊椎炎では安静時にも痛みを誘発します。
心因性腰痛症
身体に異常が認められず、心因的な問題以外に痛みの原因を説明できない場合を心因性腰痛症といいます。
近年では、心因性腰痛症の原因は脳のDLPFCという部位にあると解説している本もあります。
DLPFCは脳の神経細胞の興奮を鎮める指令を出す部位で、ここが衰えていると痛みの原因が解消されても痛みの回路の興奮が続きます。
DLPFCを鈍らせる原因として、心気症のように身体(腰)を動かすことに対して過剰な恐怖心を抱いている場合などがあります。
治療方法としては、読書療法や映像療法、認知行動療法などの様々な治療法が提唱されています。
腰痛の好発年齢(原因別)
年代別に発生しやすい腰痛の原因を理解することで、より正確に原因部位の特定ができるようにしていきます。
若年者 | 中年者 | 高年者 |
椎間関節障害 | 椎間板ヘルニア | 脊椎圧迫骨折 |
腰椎分離症 | 椎間板症 | 脊柱管狭窄症 |
強直性脊椎炎 | ぎっくり腰 | 腰椎終板炎 |
筋筋膜性腰痛 | 心因性腰痛症 | 筋筋膜性腰痛 |
仙腸関節障害 | 脊椎・脊髄腫瘍 | |
筋筋膜性腰痛 | 内臓由来性連痛 | |
血管由来性腰痛 |