腸間膜(腹部)をリリースする方法

腸間膜とは、腹腔内で小腸を包み支えている薄い膜になります。

この構造は、壁(腰椎前面)に袋(腸間膜)をぶら下げた状態に似ており、袋を止める画鋲のようなものが腸間膜根となります。

腸間膜がなぜ重要かというと、腸間膜は腸管の構造的な支えとなるだけでなく、多くの神経と消化管の豊かな血管系も包んでいます。

この腸間膜に硬さが存在すると内臓の可動性制限を生じることになり、消化困難や過敏性大腸症候群を起こし、便秘や下痢が生じます。

例えば、肥満などで腸間膜が前方に追いやられることで腸管は可動性が悪くなりますが、それも消化不良を招くことにつながります。

さらに腰椎前面にある腸間膜根に力学的な牽引ストレスが加わることで、腰痛や椎間板症を引き起こす場合もあります。

腸間膜には多くの神経が存在していることは前述しましたが、腸神経系(内臓の神経ネットワーク)には約1億のニューロンがあります。

これは脊髄や他の末梢神経系よりも多く、腸は「第2の脳」と呼ばれる所以にもなっています。

身体のセロトニン(幸せホルモン)の95%以上は腸にあるとされており、腸が正常に活動することで自律神経を整えています。

もしも腸間膜の可動性制限が存在していると、自律神経がバランスを崩し、交感神経が優位になって筋緊張を高めることにつながります。

以上のことを考慮したうえで、腸間膜の柔軟性を獲得できるように直接腹部へのアプローチを行っていくことも可能です。

具体的な方法としては、患者を側臥位にし、片手で腰椎を支えながら、もう片方の手で腹腔臓器を優しく持ち上げます。

患者は臓器の重量を施術者の支えている手に引き渡し、腰部が緩和するのを根気強く待ちます。

その後に、シャボン玉を動かすように内蔵嚢(内蔵を包む袋)を優しくゆっくり回転させて、さまざまな方向の可動性を触診しながら呼吸運動を待って制限を解放していきます。

腸間膜にアプローチするうえで心がけなければならないことは、腸は「第2の脳」であるというように、脳に触れる意識を持つことです。

例えば、もしも我々が脳自体に直接アプローチできるとしても、脳組織を強く押したり伸ばしたりして、柔らかくしようとはしないはずです。

おそらくは優しくタッチする程度にとどめ、それに脳が反応してくれるのをこちらがゆっくりと待ち続けると思います。

腸間膜もたったそれだけの刺激で反応する組織であり、優しいタッチは腸の筋膜癒着を減少または予防し、腹膜炎症を減少させ、術後の腸管運動(腸閉塞)を回復させます。

ここで記載した内容は「ビジュアルで学ぶ 筋膜リリーステクニック Vol.2―頚部、頭部、体幹〔脊柱・肋骨〕―」を参考にしているので、より具体的な方法を知りたい方はぜひ原著を参考にしてみてください。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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