腹圧を高めて本当に腰痛は軽減するのか~コアトレーニング~

コアトレーニングにより腹腔内圧(以下、腹圧)を高めることで腰痛が軽減するといくつかの研究で報告されていますが、果たして本当に効果があるのでしょうか。

個人的な見解を書かせてもらうと、コアトレーニングは腰痛改善に対して効果はないと考えています。その理由について以下に述べていきます。

腹圧を上げるには意識する必要がある

腹圧を上げることで体幹伸展筋への負担を12-20%ほど軽減できることがこれまでの研究で報告されています。

そこから、腹圧に関わっている腹横筋や多裂筋などの体幹の深層筋(コア)を鍛えることで腰痛が軽減できると提唱されるようになってきました。

しかし実際は、これはあくまで意識的に体幹部に力を入れたときにだけ作用する話です。

普段からお腹に力をいれて生活することなんてまずありませんし、鍛えたからといって普段から腹圧が高まった状態になるわけでもありません。

さらには、腹腔内圧の上昇は同時に椎間板内圧の上昇を伴うことが報告されています。

腹圧を上げて腰痛軽減なんて無理な話

これらのことを考慮すると、コアトレーニングで腰痛が軽減できるという理屈は非常に怪しいものだということが理解できるはずです。

個人的には、深部筋の筋力低下が腰痛に関連しているとは考えられにくく、なぜ弱ったのか、本当に弱っているのかも疑問が残る状態です。

もしも筋力低下が原因であれば、全身を鍛えて腰部にかかる負担を相対的に減らす方がよほど現実的かつ効果的だと考えています。

コアトレーニングのすべてを否定するわけではありませんが、腹腔内圧に重点を置きすぎるのは理論的には無理があると考えられます。

深層筋の強化目的は脊柱安定化

コアトレーニングの目的は、腹圧を高めることではなく、脊柱安定化を図ることです。

とくに多裂筋は、深層筋の中でも脊柱安定化に最も深く関与していることが報告されているため、脊柱の不安定化が腰痛を招いている場合は有効となります。

このことからも、脊柱起立筋や多裂筋のような重労働で直接的な支持を担う筋肉を鍛えていくほうが、コアトレーニングよりも遙かに効果的だと考えられます。

コアトレーニングの効果

しかし実際は、いくつかの調査でコアトレーニングの有効性を支持している論文は存在します。

例えば、MEDLEYの「コアトレーニングが腰痛を改善する効果は?」という記事に、外来リハに通う慢性腰痛患者(n=40)を対象として効果検証が行われた記事が載っていました。

具体的な方法として、仰向けでお腹をへこませながら足関節を背屈させる運動を、週3回の8週にわたって実施し、疼痛の改善度を調査しています。

結果として、コアトレーニング群の方が、疼痛、運動機能、体幹筋力が優位に改善したと報告しています。

足関節を背屈させる理由としては、慢性腰痛患者の身体障害、痛み、体幹安定性の面で利点を増大させると述べられています。

コアトレーニングの方法

体幹を安定させてパフォーマンスを向上する

コアトレーニングを推奨している人たちは、軸がグラグラになっていては四肢に十分な力が伝わらないと説明してきますが、果たして、軸が弱くなっている人ってそんなにいるのでしょうか。

むしろ、動作ごとの場面で十分な筋活動が発揮できていない(発火時間の遅延)ことのほうが問題だと私は感じています。

もしそうなら、ドローインのような運動よりも、バランスボールを利用したダイナミックなトレーニングの方が効果的だと思います。

筋力トレーニングで重要なのは背部筋

筋力トレーニングで最も重要なのは背部筋(脊柱起立筋,多裂筋)の強化です。腰痛持ちの方で、背部筋がガチガチに固まっている高齢者は結構いらっしゃいます。

そのような方々は、普段から背部に過剰な負荷がかかっており、それが原因で疼痛を引き起こしています。そういう場合は背部筋を鍛えることで、負荷を相対的に減らすことが大切です。

わかりやすく仮定値で説明すると、たとえば背部筋の耐久力が100だとして、普段の生活では20の負荷が延々とかかっていたとします。

そうすると、20の負荷が積み重なっていき、結果的に100を超えて筋肉に疲労(痛み)が出現します。

筋力トレーニングを実施して耐久力を200までアップした場合は、それだけ負荷から耐えられる容量が増えるため、結果的に筋肉の痛みは軽減することが可能です。

とても単純な理屈ではありますが、筋肉が原因で痛みが誘発している場合は、それ以上の負荷に耐えられるように強化することで対応が可能です。

筋肉が腰痛の原因となっている場合は少ない

しかし、実際には筋肉が腰痛の主因となっている場合は少ないため、腰痛の改善に対して思うような効果が出ないことも多いです。

ただし、弱化などが原因でその他の組織の負担が増加しているケースは多いため、結果として筋力強化が負担を軽減し、腰痛の再発予防に貢献することは多いです。

ちなみに臨床でもよく実施される腹筋運動についてですが、腹筋群の強化については疼痛の改善効果は認められていません。

場合によっては腰痛を引き起こす原因となるため、現在では推奨されなくなっています。

おわりに

個人的には効果の有効性を疑っているコアトレーニングですが、大切なのは「効果があるかどうか」だと思います。

どんなに反論を並べたとしても、実際にそれで効果が出るのなら、その方法が正解です。

腰痛の治療については、まだまだ解明されていない部分も多いので、今後も地道に勉強していきながらコンスタントに効果が上げられるように努力していくしかありませんね。

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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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