変形性膝関節症でリハビリの指示がきた患者に話を聞いてみると、以前に水が貯まったことがあると答えるケースはわりと多いです。
そのときは注射で膝の水を抜いて、しばらくしたら痛みも落ち着いて完全によくなりましたとよく言われたりします。
そのような患者は将来的に内反膝をきたすリスクが非常に高く、水が貯まった時点で正しい治療を受けていないことがほとんどです。
ここでは、その理由と対処法について解説していきます。
水が溜まった原因を完全無視
ほとんどの患者は、「とくに何もしていないのに膝に水が貯まりました」と答えますが、理由がないのに膝に水は貯まりません。
膝に水が貯まる(腫れている)ということは、膝に炎症が起きているということであり、膝が怪我をしている状態と同じです。
膝の水を抜いたときというのは、抜いたあとにステロイド注射をしていることが多く、強い痛み止めの作用を持っています。
医者の中には関節内にステロイド剤を注射することをよく思っていない先生も多いですが、年2回以内というルールを守れば、軟骨や骨に害がなく効果が高いことが証明されています。
注射で痛みはかなり引きますし、その後に損傷した組織が自然治癒することで痛みは完全に落ち着くことが多いです。
ただし、そこで完全によくなりましたではなく、どうして膝に水が貯まったのかを考えることが必要なわけです。
膝に水が貯まる理由
膝に水が貯まる原因のほとんどは変形性膝関節症であり、関節軟骨がすり減って破壊されたことによります。
すり減った軟骨の破片が滑膜を刺激して炎症を起こし、ここで産出されている滑液(関節液)が異常に産出されることで水が貯まります。
それでは、どこの軟骨が、どのようにすり減ったかですが、多くの人は大腿脛骨関節よりも膝蓋大腿関節の軟骨が最初に磨耗しています。
次にどのようにすり減ったかですが、ニーインしやすい傾向の女性ほどリスクが高いのではないかと考えています。
大腿骨が内旋していると本来は膝蓋骨も連鎖的に内側を向きますが、そうなると外側からの張力が増すことになります。
そこで膝蓋骨の外側変位が起こり、さらに大腿骨の内旋があることで膝蓋骨の外側亜脱臼といった状態を起こします。
そうすると膝蓋骨の裏側(外側)が大腿骨と擦れることになり、結果的に関節軟骨を摩耗することにつながります。
ニーインは女性に多い姿勢であり、それが結果的に変形性膝関節症は女性に多い理由になっているとも考えられます。
水が貯まらない理由
昔に水が貯まったことはあるけど、しばらくしたら完全に治って、その後は何年も痛みが出てませんという患者も多いです。
なぜそこからは水が貯まらなかったのかを説明すると、炎症後に関節周囲に何が起きているのかを理解する必要があります。
炎症が起きると1〜2ヶ月ほど痛みを生じさせて関節をあまり動かせないようにし、その間に関節包を縮小させていきます。
関節包を縮小させるメリットはなにかというと、例えば、膝蓋大腿関節なら動きを制限することで軟骨がすり減るのを防止します。
それは結果的に炎症の再発を防ぐことになり、同じことを繰り返させないために身体が作用していることになるわけです。
動きがなくなるので痛みは確実に減りますが、スムーズな動きができなくなったり、関節以外に負担をかけるといったデメリットも生じます。
膝蓋大腿関節の軟骨がすり減る理由にニーインを挙げましたが、ニーインをさせる原因に股関節内転筋群や内側広筋の過緊張があります。
膝に水が貯まると内側広筋が働かなくなることがよく知られていますが、その理由はおそらくニーインを防ぐためだと考えています。
そのようにして股関節内転筋群や内側広筋を萎縮させることで、身体を正常なポジションに戻そうとしているのかもしれません。
ただし、時間とともに筋力低下が著しくなってくると、ラテラルスラストを起こすことにつながってきます。
そうなると大腿脛骨関節の内側の軟骨がすり減ることになり、結果的に変形性膝関節症(内反膝)となってくるわけです。
どのような治療を提供すべきか
ここまでの内容を考慮すると、初期の膝の痛み(膝蓋大腿関節症)と後期の膝の痛み(変形性膝関節症)では治療方法が変わることがわかります。
初期はニーインが原因となっている場合が多いため、股関節内転・内旋筋群のストレッチと股関節外転・外旋筋群の筋力強化が必要です。
中期はラテラルスラストが原因となっている場合が多いため、初期とは逆に股関節内転・内旋筋群と内側広筋の筋力強化が必要となってきます。
もちろん初期の膝蓋大腿関節症を呈さずに、単純な加齢による筋力低下のみで膝関節の動揺が起きているケースもあります。
変形性膝関節の診療ガイドラインには、「中等度までのOAは膝関節装具で疼痛緩和、転倒リスクを低下させる(エビデンスレベルB)」と記載されています。
ラテラルスラストが原因の中期までは、おそらくは膝関節の動揺を軽減することによる効果を期待できると考えられます。
後期(重度のOA)になるとラテラルスラストも消失し、歩行時に体幹が側方に揺れながら歩いている状態となります。
このレベルになると内反膝も進行しており、側方の動揺を下肢の外側(腸脛靭帯など)で受け止めているケースが多いです。
そのため、膝関節の痛みというよりも周囲に痛みを訴えることが多く、痛みの原因を取り除くことが困難な症例も増えてきます。
変形性膝関節の診療ガイドラインには、「重度のOAは関節置換術が有効かつ費用対効果が高い(エビデンスレベルA)」と記載されています。
このことを考慮すると、無理に治療を長引かせるよりも、できることなら手術を受けていただくように誘導するほうが患者のためともいえます。