膝を曲げて正座ができない原因と対策について

正座ができなくなって病院を受診したら、「変形性膝関節症ですね。正座は膝に悪いのでもうしないでください!」と医者に言われてしまった。

そのような患者は非常に多いかと思いますが、そんな言葉を言われたいがために相談しに来たわけではないというのが本音だと思います。

頭ごなしに「正座=膝に悪い」と決めつけ、もうやめるように説明するのは簡単ですが、その人にとっては正座をすることが生活上で非常に重要なことかもしれません。

しっかりと病態を整理してアプローチすることにより、無理なく正座を再獲得することが可能な場合も多くあります。

なので、まずは原因を突きとめることがなによりも大切です。下記に深く屈曲できない理由とその対策について考察していきます。

膝関節の深屈曲について

まず最初に膝関節の動きについて理解しておくことが必要ですが、関節包内で膝関節は「転がり」と「滑り」といった二種類の動きをしています。

とくに屈曲初期は転がりの動きがメインであり、90度以上の深屈曲では滑りの動きが関節運動のメインに切り替わります。

関節の最終域では骨同士の接触や靭帯の制動などによって止まることが多いですが、膝関節の場合は大腿部と下腿部が衝突することで止まります。

そのため、屈曲最終域では大腿骨と脛骨の接触部位はほとんどなく、脱臼が生じたような状態となります。

そのようにして膝関節は大きな可動性を実現しており、滑りの動きを妨げるような問題が起きることで制限が生じます。

前方関節包の短縮

変形性膝関節症の患者では磨り減った軟骨が関節内を遊離し、関節包(滑膜)を刺激して炎症(腫脹)を起こします。

その状態が続くと関節包には癒着や肥厚が生じ、とくに前方の関節包の伸張性が失われるために膝関節屈曲が制限されます。

対策としては前方関節包を伸張させることが必要であり、方法としては関節モビライゼーションや深屈曲位での持続伸張法が有効です。

ただし、炎症が持続している間は屈曲動作で関節内圧が上昇するため、さらに関節包を刺激して炎症が増すといった悪循環に陥るので注意します。

筋・筋膜の短縮

大腿四頭筋の短縮(正座の場合は広筋群)や表層に位置する筋膜の柔軟性低下により、膝関節屈曲の可動域に制限が起こします。

筋肉の短縮とは筋節が減少することを意味しており、筋膜の柔軟性低下とは筋膜を構成するコラーゲンやエラスチンが絡み合う(架橋結合)ことで生じます。

膝関節においては筋・筋膜が短縮するケースはそう多くはありませんが、長期固定などによる不動の期間がある場合は疑うようにしてください。

対策としては筋・筋膜を伸張させることが必要であり、方法としては筋肉のダイレクトストレッチや深屈曲位での持続伸張法が有効です。

膝前面に位置する皮膚の短縮

術後などで膝関節に重度の浮腫が存在すると膝前面の皮膚が足らず、膝関節屈曲時に制限が起こります。

皮膚が短縮している場合は、膝前面の皮膚がテカテカと光ってみえ、屈曲時に皮膚が突っ張る感じを訴えます。

対策としては浮腫の除去と皮膚のストレッチが有効で、浮腫の除去には弾性包帯の使用、メドマーや膝関節の屈伸運動にて循環を促します。

靭帯の短縮と膝蓋下脂肪体の柔軟性低下

膝蓋下脂肪体は膝蓋靭帯の深部に位置していますが、深屈曲時は膝蓋靭帯が伸張され、奥の脂肪体は上方に押し出されます。

押し出された脂肪体は膝蓋骨の後方に滑り込みますが、その際にさらに深層に位置する前十字靭帯と後十字靭帯の圧迫を受けます。

そのため、膝蓋下脂肪体や膝蓋靭帯の柔軟性を確保するのとともに、十字靭帯の伸張性を確保しておくことも重要になります。

大腿直筋の過度な緊張は膝蓋骨の可動性を低下させ、大腿骨との圧迫を強めるのでマッサージ等で緩めておくようにします。

疼痛及び筋緊張の異常

膝関節が屈曲することでハムストリングに過剰な緊張が入り、いわゆる短縮時痛が生じることがあります。

理由については不明ですが、フィラメントの滑走性などに問題があることで痛みが生じ、緊張が亢進すると考えられます。

対策としては、ハムストリングのマッサージや、屈曲位からの拮抗筋である大腿四頭筋の筋力強化を実施することで緊張が緩和します。

下腿内旋運動の制限

膝関節が屈曲する際に下腿はやや内旋方向に動きますが、外側半月板の損傷などがあると下腿に内旋制限が生じて屈曲制限が起こります。

対策としては、膝関節屈曲位での下腿内旋の動きが出るように他動的に関節可動域訓練を実施していきます。

痛みが強い場合は、損傷の治癒が完了していないことが推察されるため、痛みが落ち着くまでは強引な訓練は控えるようにします。

骨の変形に伴う制限

関節軟骨の摩耗による関節腔の狭小化や骨棘の形成などにより、骨自体の変形に伴って可動域制限が生じる場合があります。

その状態を強直と呼んでおり、屈曲の最終域では骨同士が衝突するような硬さがあり、拘縮のように保存療法で改善することは困難とされています。

正座を再獲得するためには、骨切り術などの手術を実施することで関節のアライメントを整えることが必要となります。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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