膝蓋大腿関節症のリハビリ治療

膝痛の原因になりやすい膝蓋大腿関節症のリハビリ治療について、わかりやすく解説していきます。

膝蓋大腿関節とは

膝蓋大腿関節と大腿脛骨関節

膝関節は大腿脛骨関節(FT関節)膝蓋大腿関節(PF関節)の総称であり、2つの関節から構成される複合関節です。

大腿脛骨関節は膝関節の曲げ伸ばしに関与しており、名前の通りに大腿骨と脛骨から構成されています。

もうひとつが膝蓋骨と大腿骨から構成される膝蓋大腿関節であり、こちらは身体の動きではなく、大腿脛骨関節の補助として機能します。

具体的には、膝蓋骨があることで膝伸展力を高めたり、大腿四頭筋の擦り減り防止、膝関節を外部の衝撃から保護するといった役割があります。

膝の関節包は膝蓋大腿関節のみでなく、膝蓋大腿関節まで包んでいますので、そのことを考慮して両者をまとめて膝関節と呼びます。

膝蓋大腿関節症の概要

健常者の単純X線写真では膝蓋骨と大腿骨の間に間隙がみられますが、膝蓋大腿関節症の患者では間隙が消失しています。

膝蓋骨の動きも悪くなっており、特に下方や内側への動きが制限されているケースが多いです。

理由としては、膝蓋大腿関節症の患者では大腿直筋や外側広筋、腸脛靭帯が硬くなっており、PF関節の摩擦力が高まっているからです。

膝関節に過度な伸展モーメントや外反モーメントが生じている場合に、膝蓋大腿関節症は引き起こされやすくなります。

膝関節伸展モーメントが生じる原因としては、①膝関節屈曲位荷重、②骨盤後傾位、③COM後方位、④COP後方位があります

膝関節外反モーメントが生じる原因としては、①膝関節内反位荷重、②骨盤外方位、③COM外方位、④COP外方位があります。

腸脛靭帯の表層線維(前方線維)は膝蓋骨外側に付着するため、タイトネスが生じていると膝蓋骨には外上方への牽引ストレスが加わります。

外側広筋の斜走線維は腸脛靭帯の裏面に起始を持ち、さらには外側膝蓋支帯に停止する線維であるため、外側広筋の緊張を緩めることも重要です。

単純X線写真のスカイライン像では、膝蓋骨面が不整になっており、常に牽引力が加わっていることが示唆されます。

膝蓋大腿関節症で痛みが出る理由

膝蓋下脂肪体|側方1

膝関節伸展位では膝蓋骨の下方に膝蓋下脂肪体が貯留していますが、膝を曲げると膝蓋下脂肪体は膝蓋骨の裏に流れ込んでいきます。

膝関節周囲の中でも膝蓋下脂肪体は疼痛を強く感じる組織であり、摩擦力が高まることで炎症が起きると膝の痛みを起こします。

大腿直筋や腸脛靭帯といった膝蓋骨周囲の組織が硬くなると、膝蓋大腿関節の関節内圧が高まり、膝蓋下脂肪体は損傷しやすくなります。

膝蓋大腿関節症では立ち上がり時に強い痛みを感じますが、理由としては、大腿四頭筋が収縮することで膝蓋下脂肪体への摩擦力が強まるためです。

重度の場合は、膝を曲げ伸ばしするだけでも痛みが起こります。

歩行時の痛みが主訴(歩くときも痛い)の場合は、膝蓋大腿関節よりも大腿脛骨関節のほうが痛みに関与していることが多いです。

リハビリテーション

膝蓋大腿関節症の治療方法としては、①膝蓋下脂肪体のリリース、②膝蓋骨モビライゼーション、③膝関節モーメントの適正化があります。

膝蓋大腿関節症で主に痛みを拾っている組織は膝蓋下脂肪体なので、疼痛を軽減するには脂肪体をリリースすることが重要です。

膝蓋下脂肪体のリリース

具体的な方法としては、患者に背臥位をとってもらい、親指と人差指で膝蓋下脂肪体をつまみ、左右に揺らしてマッサージしていきます。

脂肪体が柔らかくなると膝蓋大腿関節のスペースが狭くなっていても、摩擦が少なく潜り込んでいけるので膝痛を軽減することができます。

ある程度に脂肪体の柔らかさが出てきてたら、膝蓋骨を押し下げる動作と脂肪体を押し上げる動作をリズミカルに繰り返していき、動きを促していくとより効果的となります。

膝蓋下脂肪体が硬いケースでは膝関節に伸展制限が認められるので、リリース後にクアドセッティングを実施し、膝を伸ばすようにしていきます。

膝蓋大腿関節症では大腿直筋や腸脛靭帯(外側膝蓋支帯)がタイトになっており、膝蓋骨の動きが乏しくなっています。

そのため、膝蓋骨を下方や内方に動かしていき、柔軟に動かせるようにしていくことも大切です。

外側膝蓋支帯の癒着剥離操作としては、患者に背臥位をとってもらい、親指以外の4指を膝蓋骨の内側に当てます。

そこからお皿を外側に誘導し、膝蓋骨外側に母指を当てた状態で、お皿をめくるように持ち上げていきます。

外側が持ち上がる(浮く)ことで外側支帯が伸びるので、この作業を繰り返すことで徐々に剥がれていき、可動性が拡大していきます。

膝関節モーメントの適正化

膝蓋大腿関節症は前述したように、膝関節に過度な伸展モーメントや外反モーメントが生じることで起こります。

そのため、それらのモーメントを軽減(適正化)させることが再発や進行を予防するうえで重要です。

外反モーメントは膝関節内反位荷重で増加しますので、それを抑えるために膝関節装具とインソールが有効となります。

膝関節装具では外側支柱があるものを選び、内反動揺を抑えられるように調整するようにします。

ただし、膝蓋下脂肪体が痛みのメインである場合は、圧迫が逆効果となる可能性もあるので使用には注意してください。

インソールは外側楔状足底板が症状緩和に有効とされており、COP(足底中心)外方位の影響が強いケースで使用します。

また、扁平足のように足アーチが低下している場合は、歩行時に膝が伸びなくなることで膝関節伸展モーメントが増大しやすいです。

その場合は、中足骨を持ち上げるようなタイプを選択し、膝関節屈曲位荷重を防ぐことが必要となります。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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