膝蓋骨が硬くて動かないときの原因と治し方

変形性膝関節症の診断名でリハビリのオーダーが出て、膝に触れてみると膝蓋骨の周囲がガチガチで全く動かないという患者は結構います。

あまりにも硬いうえに、そういう人は腰痛なども併発していることが多いので、治療に難渋することも決して少なくありません。

このような患者の膝痛を取り除くためには、膝蓋骨周囲の組織を柔らかくして、大腿四頭筋の収縮でお皿が動くようにすることが必要です。

この作業には、テクニック以外にもパワーが必要とされる部分もありますが、かなり効果が高いので絶対に実践してみてください。

まずはどうして膝蓋骨がガチガチなのかを書くと、膝蓋上包や膝関節筋、膝蓋骨の外側・内側支帯、膝蓋下脂肪体の硬さが影響しています。

膝関節筋はあまり聞き慣れない筋肉かと思いますが、中間広筋の一部であり、膝蓋上包に付着する筋線維束になります。

膝関節筋の役割は、膝関節伸展時に膝蓋上包を引っ張ることにより、滑膜が膝蓋骨と大腿骨の間に挟み込まれるのを防いでいます。

膝関節筋と膝蓋上包

上図の赤い部分が膝関節筋、膝のお皿の上方が膝蓋上包、右方が内側支帯、左方が外側支帯になります。

図には載っていませんが、膝蓋下脂肪体は膝蓋腱の深層に存在しており、左右に拡がるように幅広く存在しています。

これらの組織の柔軟性を確保しないことには膝のお皿は動きませんし、内側広筋や膝関節筋も働くことができません。

では実際にどうやって治療するかですが、患者には背臥位をとってもらい、膝下には丸めたバスタオルを置きます。

患者の膝を施術者の脚の上に置く人も多いですが、これをやってしまうと少しの刺激ですぐに周囲筋が緊張して膝蓋骨が動かなくなります。

そして結果的には「力を抜いてください」と何度も声掛けすることになり、ほとんど動かないまま治療が終了してしまいます。

それを避けるためにもバスタオルが有効で、ほとんどの場合は伸展制限が存在するので、制限の度合いに合わせてタオルを丸めたら良いわけです。

ポジションを整えたら、次は膝蓋上包と膝関節筋の治療を行っていきますが、ここが最もパワーがいるところです。

膝蓋骨の周囲がガチガチで全く動かない人は、膝蓋骨上方の深部組織(主に膝蓋上包)がめちゃくちゃ硬くなっています。

この部分をほぐすことが重要ですが、私の場合は、親指と人差指で膝蓋上包を挟み込み、持ち上げるようにしながらマッサージしています。

なるべく深部まで指を沈めるようにし、大腿骨に張り付いている組織を根こそぎリリースするような気持ちでやると良いです。

内側上方あたりも硬くなっている場合が多いので、柔軟性が確保できるまで作業を繰り返していくことが大切です。

変形性膝関節症では皮下脂肪が多く付いている人も多いので、結構なパワーがないと緩んでいかないので気合いを入れてやってください。

次に膝蓋骨の外側支帯ですが、ここも臨床的には結構硬くなっていることが多いので、十分に癒着を剥離することが必要です。

方法としては、親指以外の4指を膝蓋骨の内側に当て、お皿を外側に誘導し、そこから母指を使って膝蓋骨を持ち上げます。

外側が持ち上がる(浮く)ことで外側支帯が伸びるので、この作業を繰り返すことで徐々に剥がれていき、可動性が拡大していきます。

内側支帯も同時に伸張できるので一石二鳥であり、支帯の硬さがとれていないと内側広筋も十分に働かないのでとても重要です。

最後に膝蓋下脂肪体ですが、膝蓋骨の下方の組織を左右に揺らしながらマッサージしていくだけで良いです。

より多くの脂肪体をリリースするには、手掌で膝蓋骨を下方に押し下げ、そこから親指以外の4指を使ってほぐしていきます。

膝蓋骨を押し下げる動作と脂肪体を押し上げる動作をリズミカルに繰り返していくとやりやすく、痛みがある部位は集中的にリリースします。

ここまでの作業で膝蓋骨の動きが出てくるかと思いますので、最後にパテラ・セッティングで筋収縮を促通していきます。

すでに膝下にはタオルを敷いている状態かと思いますが、ここまでの作業がしっかり出来ているなら膝関節の伸展制限も少し改善しているはずです。

そのため、パテラ・セッティングをするだけの伸展域も確保できているので、患者にはタオルを押し潰すように説明します。

おそらく、まだこの状態だけでは十分に膝蓋骨の動きが出ませんので、施術者は膝蓋骨を下方に押し下げてから、患者には力を入れてもらいます。

そうすると膝蓋骨が上方に移動する(内側広筋が収縮する)ので、この動いている感覚を患者には覚えてもらうようにしてください。

はじめのうちは数回に1回ほどしか膝蓋骨が動かなかったり、患者は膝蓋骨が動いている感覚が理解できないことも多いです。

それでも根気強く続けていくことでお皿の動きが出てきて、それに伴って立ち上がりや歩行時の痛みも減っていくことを実感します。

内側広筋の収縮が弱い時期は、内側広筋をタッピング(手で強めにペンペンと叩く)することで即時に促通できるのでお薦めです。

ここまでの作業でかなりの割合で膝痛は軽減するはずので、膝蓋骨が硬くて動かないときは是非とも実践してみてください。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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