膝関節内側に起こる痛みの原因とリハビリテーションによる治療方法について解説していきます。
①膝蓋下脂肪体の損傷
膝蓋下脂肪体は膝蓋骨の下方に貯留している組織で、膝蓋大腿関節(膝蓋骨と大腿骨の間)の滑りを良くし、クッションとしての役割を持ちます。
しかしながら、これが重度の変形性膝関節症のヒトでは膝蓋下脂肪体が内側に偏位しており、触れると非常に硬くなっています。
なぜ内側に偏移するのかについてですが、これには膝関節の内反変形や伸展制限、膝蓋骨の外側偏移、下腿の過外旋が深く関与しています。
これらは変形性膝関節症の患者で頻繁にみられる状態ですが、そのどれもが膝関節外側のスペースを狭めることになります。
そして結果的に、居場所を失った脂肪体は内側に偏移していくのですが、そこで身動きがとれずにガチガチに固まってしまうわけです。
治療方法としては、不良姿勢の修正や膝蓋下脂肪体の柔軟性を取り戻すためのダイレクトマッサージが有効です。
②筋膜性疼痛:DFL
膝関節内側の痛みで多いのは、DFL(ディープ・フロント・ライン)の筋膜性疼痛です。
この筋膜上に問題を起こしている場合は、股関節内転筋群や鵞足腱、腸腰筋、後脛骨筋に圧痛が認められやすいです。
内側広筋は内転筋腱板から起始しているため、内転筋群上の筋膜に硬さが存在していると内側広筋の機能不全を招くことにもなります。
筋膜性疼痛は受傷機転がないことが多く、疼痛は日によって波があり、長期にわたって有している場合が多いです。
治療方法としては、筋膜上に圧痛点や筋膜の滑りにくさが確認できるため、徒手圧迫を加えながら前後左右と斜めに動かしていきます。
マニピュレーションを実施して3〜4分ほど経つと筋膜の硬さがとれて滑りがよくなり、圧痛が半減することを確認できます。
そこで徒手圧迫を解除し、2日ほど筋肉痛(炎症)が起きることを伝えて治療は終了とします。
③膝蓋大腿関節症:内側膝蓋支帯
内側広筋は膝蓋骨に付着していますが、一部は内側縦膝蓋支帯と内側横膝蓋支帯に連なっています。
そのため、内側広筋に機能不全が起こると内側膝蓋支帯にも影響を与えることになり、膝蓋骨の外方不安定性が高まります。
また、腸脛靭帯に過度な緊張が存在すると繋がりを持つ外側膝蓋支帯が硬くなり、膝蓋骨を外上方に偏位させる力が働きます。
膝蓋骨が外側に偏位すると膝の内側の線維組織は伸張ストレスを受け、結果的に炎症や痛みを起こすことになります。
治療方法としては、腸脛靭帯のストレスを除去するために殿筋群を強化し、パテラセッティングにて内側広筋の収縮を引き出すことが重要です。
④内側半月板の損傷
内側半月板の辺縁部1/3のみに侵害受容器の自由神経終末、機械受容器のルフィニ小体、パチニ小体、ゴルジ腱器官が存在しています。
そのため、内側半月板の中央に損傷が起きても痛みはなく、辺縁部に損傷がある場合のみに膝関節の痛みとして認識します。
内側半月板が痛みの原因である場合は、膝関節を内反・内旋させることで半月板外縁の断裂部が離開して疼痛が発生します。
膝関節の屈曲拘縮や股関節内転筋の弱化が存在すると、膝は外方に開くため荷重線が膝関節の後内側に集中します。
そのため、膝関節内反位の内側半月板損傷に対しては、膝関節屈曲拘縮の除去と股関節内転筋の強化が重要となります。
スポーツ障害においては、膝関節が外反(下腿が外旋)することで内側半月板のストレスが増加して損傷します。
その場合は、臀筋群の筋力低下による影響が強いので、筋力トレーニングとニーイントーアウトの修正が必要です。
⑤膝内側側副靭帯の損傷
膝内側側副靭帯が単独損傷する場合、そのほとんどは膝関節外側より直接的な外力が加わり、膝が外反強制されることで損傷します。
膝内側側副靭帯は関節外靭帯であるため、損傷によって膝関節に多量の関節液が貯留することはありません。
断裂している場合は、膝関節伸展位での外反ストレステストで動揺性が認められるようになり、損傷部に限局した強い圧痛を訴えます。
治療方法としては、膝関節を固定して損傷した靭帯が伸張されないように動作を制限し、組織が治癒するのを待ちます。
問題の根底にはニーイントーアウトが存在するので、姿勢や動作の修正が必要となります。
⑥鵞足炎
鵞足は膝関節内側で、①縫工筋、②薄筋、③半腱様筋の三つの筋肉の腱が扇状に付着する部位の総称を指します。
膝関節の屈曲と伸展が繰り返されることにより、鵞足は前後に移動し、深層に位置する膝の内側側副靭帯と摩擦が起こります。
摩擦から腱を守るために鵞足と内側側副靭帯の間には鵞足滑液包が存在しており、刺激が繰り返されると滑液包や鵞足、靱帯に炎症が起こります。
治療方法として、鵞足炎は基本的に過用症候群による炎症なので、しばらくは運動を中止して炎症が落ち着くのを待ちます。
⑦大腿骨内顆骨壊死症
大腿骨内側顆部関節面に発生する骨壊死で、膝関節内側のストレスやステロイドの大量投与後に発症しやすいです。
骨壊死の存在が必ずしも痛みの原因とはならないため、MRIで骨壊死が発見されても、その他の原因を疑ってみることが大切です。
治療方法としては、膝のサポーターや外側ウェッジの使用、杖による免荷などで膝関節内側のストレスを軽減させます。
壊死が軽度の場合は、患部の安静にて徐々に壊死部が治癒してくる可能性もありますので、まずは保存的に治療していきます。
保存療法でも治癒しない場合や関節面の陥没が大きい場合、痛みのコントロールが難しいときは手術療法が適応されます。
手術では、高位脛骨骨切り術が行われますが、変形が重度の場合は人工膝関節置換術が選択されることもあります。