膝関節に可動域制限を起こしている原因と治し方

臨床でも遭遇しやすい膝関節の拘縮について、可動域制限を起こしている原因と治し方について解説していきます。

膝関節の伸展制限因子

膝関節伸展制限の原因で多いのは、以下の3つになります。

  1. 膝蓋下脂肪体
  2. 後方の筋群
  3. 下腿外旋症候群

伸展制限①:膝蓋下脂肪体

膝蓋下脂肪体は膝蓋骨の下方に貯留している脂肪組織であり、疼痛閾値が非常に低いため、膝関節痛の原因になりやすい組織のひとつです。

膝関節の前面に位置しているため、膝関節伸展の制限因子としてイメージしにくいかもしれませんが、臨床的には最も原因として多いです。

実際にやってみるとわかりますが、他動的に膝関節の伸展を強制すると、膝蓋骨の下方に強い痛みを訴えることになります。

上の図をみていただくと理解しやすいですが、膝関節屈曲位では膝蓋下脂肪体は膝蓋骨の裏にありますが、伸展させると下方に移動します。

しかし、もしも膝蓋骨下方のスペースが狭くなっていたり、膝蓋下脂肪体の柔軟性が失われていると移動できずに挟み込まれて痛みが生じます。

治療方法としては、膝蓋下脂肪体の柔軟性を獲得することが大切で、膝蓋骨の下方に貯留する脂肪体をマッサージします。

その後に膝蓋骨を遠位に押し下げて、膝蓋下脂肪体を関節面に流し込むようにし、最後にパテラセッティングで滑動性を高めていきます。

伸展制限②:後方の筋群

ハムストリングスを主とした後方の筋群に短縮や癒着が存在していると、膝を伸ばせないのは容易に想像できるかと思います。

ROM制限の原因を確認するときは、必ず制限がある位置でどこに痛みを感じるかを確認することが大切です。

多くのケースは膝蓋下脂肪体の制限を取り除くと、痛みの部位が膝前方から膝裏に変化するようになります。

膝関節を伸展位で伸ばすときに前方に痛みがある場合は、ただ膝蓋下脂肪体を押しつぶしているだけなので逆効果です。

それに対して、膝裏に痛みがある場合は、後方の組織をストレッチすることになるので疼痛の強くない範囲で伸張していくことが必要です。

治療するうえで必要な知識として、関節周囲の組織に短縮が生じていると、関節を動かすときに硬い側とは反対にブレる現象が起こります。

これをトランスレーション理論といい、例えば、膝関節後方の組織が短縮していると膝関節伸展時に大腿骨が前方に変位します。

それを防ぐためには、大腿骨を押し込むようにしながら膝関節を伸展させていくと効果的です。

伸展制限③:下腿外旋症候群

下腿外旋症候群はニーイン(大腿骨内旋)しやすい女性に多く、ニーインすることで運動連鎖によるトーアウト(下腿外旋)が生じます。

膝関節の終末伸展運動(伸展最終域までの約15度)において、大腿骨には約7度の内旋運動(下腿は外旋運動)が生じます。

ネジを回転させてはめ込む動きと似ていることから、この運動をスクリューホームムーブメントと呼びます。

この理論をもとに下腿を外旋させながら膝関節を伸展するセラピストがいますが、外旋症候群の患者では症状を悪化させて逆効果となります。

ニーイントーアウトの何が問題かというと、膝蓋骨が外側に変位して、外側のスペースが狭小化して膝蓋下脂肪体が内側に追いやられます。

そうすると膝蓋下脂肪体への摩擦や圧縮ストレスが高まり、損傷して硬くなっていき、さらなる伸展制限をきたすことになります。

治療方法としては、膝関節伸展のストレッチをするときに下腿はあえて内旋位に誘導し、膝蓋下脂肪体が動けるスペースを確保します。

膝関節の屈曲制限因子

膝関節の屈曲制限の原因で多いのは、以下の4つになります。

  1. 膝蓋上の組織
  2. 半月板
  3. 後方の筋群
  4. 膝蓋下脂肪体

屈曲制限①:膝蓋上の組織

膝関節の屈曲制限をきたす主な組織は膝蓋上包ですが、膝蓋上包は膝が曲がるときにキャタピラのように動くのが特徴です。

そのため、膝に水が貯まるなどして炎症が起きると、癒着が生じて膝関節屈曲に著しい制限をきたすことになります。

膝蓋上包の柔軟性を獲得するには、膝蓋骨の上部から指を押し込んでマッサージを加えていくことが必要です。

屈曲制限②:半月板

膝関節を屈曲させたときに膝裏に痛みを訴える場合は、半月板後方が挟み込まれて痛みが起きているケースが多いです。

その原因は膝蓋上包を主とした前方組織の短縮であり、膝関節屈曲時に大腿骨が後方変位することに由来しています。

膝裏に痛みがある状態で無理に膝関節を曲げようとしても、それはただ半月板を押しつぶしているだけなので逆効果です。

治療方法としては、まずは膝蓋上包の短縮を改善させることが必要で、その後に膝裏に痛みがない状態で膝関節を曲げていきます。

膝裏に手を入れた状態で曲げていくことにより、トランスレーションを防止して半月板の挟み込みを防ぐことができます。

下腿外旋症候群を有する患者では内側半月板へのストレスが高まるため、下腿を内旋誘導しながら実施することも有効です。

屈曲制限③:後方の筋群

膝関節屈曲時にハムストリングスを主とした後方の筋群が短縮時痛を起こし、制限しているケースも存在します。

明確な発生理由については不明ですが、フィラメントの滑走性などに問題があることで痛みが生じ、攣縮すると考察しています。

ハムストリングスが過剰に収縮すると膝窩筋膜などを牽引して痛みを起こし、やがてこの異常な牽引を修正しようとして嚢胞が生じます。

治療方法としては、患者に腹臥位をとってもらい、大腿後面の中央に指を置いて後方筋膜をマッサージしていきます。

問題となっている筋肉を指で圧迫しながら屈曲することで牽引ストレスから解放され、痛みがない状態で屈曲運動を行うこともできます。

屈曲制限④:膝蓋下脂肪体

膝蓋大腿関節症で膝蓋骨と大腿骨の間隙が縮小していると、膝関節を屈曲するときに膝蓋下脂肪体が円滑に膝蓋骨の裏にもぐりこめません。

さらに膝蓋下脂肪体の損傷や拘縮が存在していると、膝関節を軽く曲げ伸ばしするだけでも痛みが生じるケースも多いです。

また、他動的に膝関節を曲げるだけでは痛くないのに、立位からしゃがみ込むように膝関節を曲げると痛みを訴えることもあります。

そういった場合は、大腿四頭筋が収縮することで膝蓋骨と大腿骨に圧縮力が加わっている可能性が考えられます。

治療方法としては、膝蓋下脂肪体のマッサージで柔軟性を獲得することと、膝蓋骨のモビライゼーションで間隙を拡げることが必要です。

 


他の記事も読んでみる

The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
rehatora.net © 2016 Frontier Theme