触圧覚刺激法と痛覚刺激法の違いについて解説

触圧覚刺激法について解説していきます。

触圧覚刺激法とは

軽擦法の一種であり、皮膚上を軽く擦ることで触圧覚の受容器を刺激し、痛みや緊張の緩和を図る方法です。

いわゆるマッサージ(あん摩)とは異なり、筋線維に負荷を与えることが少ないため、揉み返しといった筋損傷を起こすリスクはほとんどありません。

触圧覚刺激法の効果

効果については、①ゲートコントロール理論、②交感神経活動の抑制、③α運動ニューロンの抑制の観点から説明が可能です。

1.ゲートコントロール理論

1965年にMelzackとWallによって紹介された理論で、抑制介在ニューロンを促進させることで、痛みを伝えるT細胞を抑制する方法です。

抑制介在ニューロンを促進させるには太い神経を刺激することが必要で、太い神経は「Aα」、「Aβ」、「Aγ」があります。

触圧覚刺激法ではAβ(触圧覚を伝達する神経)を刺激することにより、T細胞を抑制することができます。

ゲートコントロール理論

2.交感神経活動の抑制

細い神経であるAδ(皮膚温感覚)やC線維(交感神経)を刺激すると、抑制介在ニューロンは抑制されるので、痛みが強くなってしまいます。

触圧覚刺激は交感神経活動を抑制することがわかっているため、C線維の活動が抑制されて、痛みを抑制することが可能となります。

リラックスした状態は副交感神経が活性化されるため、落ち着ける環境を作ることも大切です。

3.交感神経活動の抑制

触圧覚刺激により起こったインパルスは、α運動ニューロンに対して抑制的に作用することがわかっています。

α運動ニューロンが抑制すると、錘外筋(筋線維)が活性化されるため、結果的に筋緊張の緩和を図ることができます。

Ⅰb線維を興奮させて緊張を抑える

触圧覚刺激法とマッサージの違い

触圧覚刺激法は軽擦法と同義なので、実際はマッサージ手技の一種であるといえます。

しかし、ほとんどの場合はあん摩のように揉むといった行為をマッサージと表現する場合が多いため、ここでは別として考えていきます。

触圧覚刺激法は触圧覚の受容器(皮膚)を対象としているのに対し、マッサージは痛覚の受容器や筋紡錘(筋肉)を対象としています。

そのため、両者はアプローチ場所がまったくの別物であることを理解してください。

痛覚刺激法の効果

触圧覚刺激による効果は前述しましたが、痛覚刺激によってどのような効果が期待できるかを解説していきます。

1.脳内疼痛抑制系の活性化

痛みは慣れるとよく言いますが、これは痛覚刺激が身体に加わることで内因性オピオイド物質というモルヒネ様の脳内麻薬が生成されることが理由です。

麻薬が常習的になると使用量が増えるように、マッサージに通い続けるとより強い刺激を求めるようになるのも脳内麻薬のせいです。

その状態を続けると筋線維は損傷を繰り返して硬くなってしまい、筋肉の状態は悪くなる一方なので注意が必要です。

2.下行制疼痛抑制系の活性化

皮膚や筋からの痛覚刺激が上行して中枢に伝達されると、橋からノルアドレナリンやセロトニンといった神経伝達物質が脊髄後角へ向けて分泌されます。

そうすると、以後は痛覚刺激が脊髄後角でノルアドレナリンなどによって抑制されることになり、痛みが緩和します。

3.広汎性侵害抑制調節

簡単に説明すると、手首に10の痛みがあり、肩関節に5の痛みがある場合は、手首の痛みしか感じないといった理論です。

そのため、別部位に痛覚刺激を与えて過剰刺激誘発を起こすことで対象部位を相対的に抑制することができます。

臨床でもよく「ここの痛みは取れたけど次はここが痛くなった」と言われる患者がいますが、それはもとからそこに痛みはあったのに、広汎性侵害抑制調節によって痛みに気付いていなかった場合が多いです。

おわりに

実際は痛覚刺激法は痛覚だけを刺激しているわけではなく、触圧覚も同時に刺激していることになります。

そのことに着目しながら、最小限の刺激で最大限の効果を発揮できるようにアプローチしていくことが重要であるといえます。

負荷の高い方法はリスクを伴いますので、なるべくリスクの伴わない方法を選択しながら実施してみてください。


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The Author

中尾 浩之

中尾 浩之

1986年生まれの長崎県出身及び在住。理学療法士でブロガー。現在は整形外科クリニックで働いています。詳細はコチラ
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